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 広場には処刑台が設置されていて、そこには三日前に隠れ家に居た所を捕らえた敵国の姫が連れて来られていた。
 処刑台の上で泣きじゃくる小娘に観衆達は口々に罵声を浴びせていく。
 そんな光景を見ながら俺は「クリエ」と名付けたあの女のことを考えていた。

 戦場で出会って武器を交えた時の高揚感は今でも忘れない。
 あの女よりも強い騎士は俺は知らない。部下が逃げても国のために必死に俺に食らいつき、全力で殺しに来るあの女がたまらなく愛しかった。

 勝負に勝ったのは負傷をしつつも右目を失った俺だが、命は奪わなかった。拷問をして何処かに隠れている王女の居場所を吐かせるため国へ連れ帰った。

 だが、あいつはどれだけ痛めつけても何も吐かない。舌を噛んで自害をすることもなく情報を一つも漏らさない。

 高潔な女騎士も武器を奪えばただの女。男を知らない身体を存分に貪り、今度は痛みよりも快楽で染め上げてやった。
 身体の隅々まで開発してやっても最後まで気丈に睨んでくる瞳。思い出すだけで興奮がこみ上げてくる。

 重症患者を無理矢理犯し続けたせいで死にかけ、あいつが目を覚ました時には記憶を失っていた。演技だと思って検査を何度もさせたが、本当に記憶喪失だった。

 周りの人間は「すぐに殺しておけ」と言っていたが俺は殺さずにこいつを匿うことにした。
 このまま死ぬのは勿体ないと思ったからだ。もう一度あの死闘を繰り広げてみたい、そう思って「クリエ」と名前を付けて俺の恋人にした。

 記憶喪失のあいつの世話をしていた時はまあ、楽しかった。無駄に丈夫だから思い切り力強く抱いても壊れないし。無理を最初は俺を警戒していたが、思ったよりも早く俺に心を開くようになっていた。
 ずっと俺を睨みつけていた時と違って穏やかになったあいつを見ると可愛いと思えたが、それは求めていた奴とは違うとも感じだった。

 俺が戦いたいのは自国のために盾で守りながら殺意を込めて剣を振るう女なんだ。
 記憶を取り戻して、あの目を向けて欲しい。
 
 そしてまた……

「将軍!前方より敵襲です!」

 考え事をしていた俺の思考を現実に戻したのは伝令の声だった。

「ブークリエ!」

 俺は愛用の槍の柄に触れると処刑台にいる姫に目を向ける。泣きじゃくっていた小娘は希望を持ったように目を輝かせた。

「待っていたぞ……ブークリエ・シュヴァリエ」


 ◆


「ブークリエ、やっと綺麗な花が咲いたんだよ」
「ええ、楽しみです」

 私は車椅子を引いてもらいながら姫様と庭園を訪れていた。
 彼女が嬉しそうに笑うから、私も嬉しい。
 
 あの戦いで私は処刑される前に姫様を助け出し、そこから逃げる事に成功した。
 滅んだ祖国に戻り、姫様は女王となり私は彼女を守る騎士として彼女と暮らしている。
 ラスティ……ランスディード・グランドールとの死闘により私の体はボロボロでまともに立って歩くこともできない体になってしまったが、姫様を守れたのだから安いものだ。

 ドドメを刺した瞬間、あの男は最後まで狂気的な笑みを浮かべていた。
 記憶を取り戻す前に殺しておけばよかったのに馬鹿な男だ……いや、あえてこうなるように仕向けたのだろう。
 新聞と倉庫の私の装備がそれを物語ってるのだ。あの戦狂いな男は私を生かす事でもう一度戦えることを望んでいた。最初から何もかも仕組まれていたのだ。

 ランスディード……いや、ラスティと再会をする日は近いのかもしれない。私の寿命はそんなに長くはないだろうから……

 死後の世界があるのなら、あの男は私にまた戦いを挑んで
 くるような気がする。



 英雄、ブークリエ・シュヴァリエは未婚のまま美しい女王と国に尽くし、短い生涯を閉じたという。
 
 最後の瞬間は穏やかに笑い、国の繁栄を願って逝った。
 そして彼女は英雄として語り継がれる事になる。

 完
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