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どんな気持ちで寝ているの?
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リディア姫の前で怒っているヴィクトル様を見せるわけにいかないと思い、私は慌てて必死に謝った。
「ヴィクトル様、ごめんなさい。ドレスを汚してしまって……」
「…………ああ。そんなものはまた買えばいいだろう。怪我は無いか」
ヴィクトル様は私のドレスの赤い染みを見つめたままだったが、怒るどころか心配そうに聞いてきた。その反応に私は戸惑う。
「はい……ワインで汚れただけなので大丈夫です」
そう答えるとヴィクトル様は少し安堵した表情を見せた。ヴィクトル様らしくない。リディア姫の前だから怒れないのかもしれない。
「……リディア様、お怪我は?」
「私は大丈夫よ」
次にリディア姫の安否を確認する。
普通なら、リディア姫が優先されるべきなのに、ついでのように安否確認をする。ヴィクトル様まで他の貴族のようにリディア姫のことを見下しているように思えて悲しくなった。
◆
夜会がお開きになるまで、私はリディア姫と話し相手になることになった。話の内容がよく分からないまま相槌を打つ私にリディア姫は気にすることなく、楽しげにお喋りを続けてくれた。
その無邪気さに微笑みながら私は安心して、リディア姫の話に耳を傾けた。
意外にもリディア姫相手だと自然と会話がしやすいと感じ、心地よい時間が過ぎていった。
夜会が終わり、私たちが会場に戻ると、陛下の姿はすでに見当たらず、他の貴族たちはそれぞれの馬車に乗り込んでいた。
私はヴィクトル様と共に帰ろうとしたところ、リディア姫が私の手を引っ張った。顔を見ると、なんとも申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「ユミルリア、今日はありがとう。本当に楽しかったわ。よかったら、また今度お話してくれる?」
リディア姫が私とまた話したいと言ってくれるなんて、信じられない思いだった。こんな私でよいのだろうか?と一瞬迷ったけれど彼女に向けて微笑みを返す。
「はい、私でよろしければ」
その返事にリディア姫は嬉しそうに笑顔を見せてくれた。ああ、やっぱり彼女の笑顔が好きだな、と心から感じる。
「じゃあね、ヴィクトルも今日はありがとう」
リディア姫が手を振ると、私もそれに応えて軽く手を振り返し、ヴィクトル様も礼をしてから馬車に乗り込んだ。リディア姫は最後まで笑顔で見送ってくれた。
「勝手なことをするな」
「すみません……」
ヴィクトル様の顔が険しくなっていた。心当たり。ドレスのこと、リディア姫を危険な目に合わせたこと、クララ嬢たちと揉めたこと、社交辞令が足りなかったこと、色々頭に浮かぶがどれのことを言っているのか見当がつかない。全部かもしれない。
その不安に包まれたまま、私はヴィクトル様に頭を下げた。
「二度とだ。勝手なことをするな」
念を押すその一言に、私はただ頷くことしかできなかった。俯いているとヴィクトル様が私の腕を強く掴む。
◆
屋敷に戻るとヴィクトル様はいつも通りに先に降りて手を差し出してくれる。恐る恐るその手に重ねると、今日は優雅に地面へと降ろしてくれた。
「今夜は俺の部屋に来い」
耳元で囁かれて、身体が硬直した。ヴィクトル様は私の様子を気にすることなく、無言で屋敷の中へと入って行く。
行きたくない。このままどこかに逃げてしまいたい。
汚れたドレスを脱ぎ、温かいお風呂で体を清めてもらった後、シンプルでありながらも美しい白を基調にしたシルク布地の夜着を着せてもらう。
体はすっきりとして心も少しだけ落ち着いたが、足取りは重く、どうしても心が晴れない。
リディア姫との楽しい会話が頭の中で繰り返され、あの時間の温かな記憶と、ヴィクトル様の冷徹な視線が交錯している。
静かな夜の空気の中、私はその思いを胸にヴィクトル様の部屋へと向かう。足音が響く廊下を歩きながら、ヴィクトル様の部屋に入ることへの恐れが込み上げた。
呼ばれた以上、逃げることはできない。あの部屋に入るのはあまりにも心が重かった。手と足がが震えている。
扉の前に立つと、少しだけ躊躇してから、私はその扉をノックした。小さな音が静寂の中に響き渡り、私はその音にさえ怖気づくような気持ちになった。
「入れ」
ヴィクトル様の低い声が、扉の向こうから響いてきた。私はその声に従い、扉を開けて部屋に足を踏み入れる。
部屋の中は暖かく、柔らかな光が灯り、あの人の香りが漂っていた。その静けさの中にヴィクトル様は窓際の椅子に座り、ランプの灯りだけがその部屋を薄く照らしている。
黒いナイトローブをまとったヴィクトル様はどこか気怠げだ。その姿が不思議と魅力的だった。結婚する前なら、きっと胸が高鳴っていただろう。でも今はただ緊張で身体が硬直している。
「遅かったな」
ヴィクトル様は椅子に座ったまま、そう言った。その視線を避けるように、私は足元を見つめながら、ゆっくりと彼の元へ歩み寄る。
「……すみません」
一言謝るとヴィクトル様は何も言わずに立ち上がり、大きな寝台へと向かった。
「来い」
ヴィクトル様は軽くベッドを叩き、私をその場に誘った。その言葉に応じ、私は逃げ出したい気持ちを押し殺してヴィクトル様のそばへと近づく。
「もう寝ろ、俺は疲れているんだ」
ヴィクトル様はそれだけ言うと横になり、背中を向けて眠りについた。
本当にただ寝るだけなのか?私は自室に戻るといいのか?それとも一緒に寝ないといけないのか?一人で自分の部屋のベッドで寝てもいいのか?質問をしたい。
私はしばらくその場で迷っていたが、やがて静かにベッドのシーツをめくり、ヴィクトル様の隣に身を横たえた。
ベッドの広さによって距離を取れることに少し安堵をするが、ヴィクトル様は私を引き寄せ、その大きな腕でぐっと抱きしめた。驚きで息を呑む私の体はすっかり硬直していた。
「何もしない」
その言葉とは裏腹にヴィクトル様の手は私を強く抱きしめていた。怖くて眠れなくなりそうな心情を抱えながら、私はその腕の中でじっとしているしかなかった。とりあえずはただじっと我慢するしかなかった。
明日になったら私はこのまま眠るように死んでいるのかもしれない。寝ている間に首を絞められてこの人に殺されてしまうかも。死んでほしいぐらいに嫌われているから。
私がミーティアお姉様の代わりだからこそ、こんなふうに抱かれている。何とも言えぬ思いが交錯していた。
お姉様の代わりとはいえ、嫌いな人間を抱いて寝るってどんな気持ちなんだろう。
「ヴィクトル様、ごめんなさい。ドレスを汚してしまって……」
「…………ああ。そんなものはまた買えばいいだろう。怪我は無いか」
ヴィクトル様は私のドレスの赤い染みを見つめたままだったが、怒るどころか心配そうに聞いてきた。その反応に私は戸惑う。
「はい……ワインで汚れただけなので大丈夫です」
そう答えるとヴィクトル様は少し安堵した表情を見せた。ヴィクトル様らしくない。リディア姫の前だから怒れないのかもしれない。
「……リディア様、お怪我は?」
「私は大丈夫よ」
次にリディア姫の安否を確認する。
普通なら、リディア姫が優先されるべきなのに、ついでのように安否確認をする。ヴィクトル様まで他の貴族のようにリディア姫のことを見下しているように思えて悲しくなった。
◆
夜会がお開きになるまで、私はリディア姫と話し相手になることになった。話の内容がよく分からないまま相槌を打つ私にリディア姫は気にすることなく、楽しげにお喋りを続けてくれた。
その無邪気さに微笑みながら私は安心して、リディア姫の話に耳を傾けた。
意外にもリディア姫相手だと自然と会話がしやすいと感じ、心地よい時間が過ぎていった。
夜会が終わり、私たちが会場に戻ると、陛下の姿はすでに見当たらず、他の貴族たちはそれぞれの馬車に乗り込んでいた。
私はヴィクトル様と共に帰ろうとしたところ、リディア姫が私の手を引っ張った。顔を見ると、なんとも申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「ユミルリア、今日はありがとう。本当に楽しかったわ。よかったら、また今度お話してくれる?」
リディア姫が私とまた話したいと言ってくれるなんて、信じられない思いだった。こんな私でよいのだろうか?と一瞬迷ったけれど彼女に向けて微笑みを返す。
「はい、私でよろしければ」
その返事にリディア姫は嬉しそうに笑顔を見せてくれた。ああ、やっぱり彼女の笑顔が好きだな、と心から感じる。
「じゃあね、ヴィクトルも今日はありがとう」
リディア姫が手を振ると、私もそれに応えて軽く手を振り返し、ヴィクトル様も礼をしてから馬車に乗り込んだ。リディア姫は最後まで笑顔で見送ってくれた。
「勝手なことをするな」
「すみません……」
ヴィクトル様の顔が険しくなっていた。心当たり。ドレスのこと、リディア姫を危険な目に合わせたこと、クララ嬢たちと揉めたこと、社交辞令が足りなかったこと、色々頭に浮かぶがどれのことを言っているのか見当がつかない。全部かもしれない。
その不安に包まれたまま、私はヴィクトル様に頭を下げた。
「二度とだ。勝手なことをするな」
念を押すその一言に、私はただ頷くことしかできなかった。俯いているとヴィクトル様が私の腕を強く掴む。
◆
屋敷に戻るとヴィクトル様はいつも通りに先に降りて手を差し出してくれる。恐る恐るその手に重ねると、今日は優雅に地面へと降ろしてくれた。
「今夜は俺の部屋に来い」
耳元で囁かれて、身体が硬直した。ヴィクトル様は私の様子を気にすることなく、無言で屋敷の中へと入って行く。
行きたくない。このままどこかに逃げてしまいたい。
汚れたドレスを脱ぎ、温かいお風呂で体を清めてもらった後、シンプルでありながらも美しい白を基調にしたシルク布地の夜着を着せてもらう。
体はすっきりとして心も少しだけ落ち着いたが、足取りは重く、どうしても心が晴れない。
リディア姫との楽しい会話が頭の中で繰り返され、あの時間の温かな記憶と、ヴィクトル様の冷徹な視線が交錯している。
静かな夜の空気の中、私はその思いを胸にヴィクトル様の部屋へと向かう。足音が響く廊下を歩きながら、ヴィクトル様の部屋に入ることへの恐れが込み上げた。
呼ばれた以上、逃げることはできない。あの部屋に入るのはあまりにも心が重かった。手と足がが震えている。
扉の前に立つと、少しだけ躊躇してから、私はその扉をノックした。小さな音が静寂の中に響き渡り、私はその音にさえ怖気づくような気持ちになった。
「入れ」
ヴィクトル様の低い声が、扉の向こうから響いてきた。私はその声に従い、扉を開けて部屋に足を踏み入れる。
部屋の中は暖かく、柔らかな光が灯り、あの人の香りが漂っていた。その静けさの中にヴィクトル様は窓際の椅子に座り、ランプの灯りだけがその部屋を薄く照らしている。
黒いナイトローブをまとったヴィクトル様はどこか気怠げだ。その姿が不思議と魅力的だった。結婚する前なら、きっと胸が高鳴っていただろう。でも今はただ緊張で身体が硬直している。
「遅かったな」
ヴィクトル様は椅子に座ったまま、そう言った。その視線を避けるように、私は足元を見つめながら、ゆっくりと彼の元へ歩み寄る。
「……すみません」
一言謝るとヴィクトル様は何も言わずに立ち上がり、大きな寝台へと向かった。
「来い」
ヴィクトル様は軽くベッドを叩き、私をその場に誘った。その言葉に応じ、私は逃げ出したい気持ちを押し殺してヴィクトル様のそばへと近づく。
「もう寝ろ、俺は疲れているんだ」
ヴィクトル様はそれだけ言うと横になり、背中を向けて眠りについた。
本当にただ寝るだけなのか?私は自室に戻るといいのか?それとも一緒に寝ないといけないのか?一人で自分の部屋のベッドで寝てもいいのか?質問をしたい。
私はしばらくその場で迷っていたが、やがて静かにベッドのシーツをめくり、ヴィクトル様の隣に身を横たえた。
ベッドの広さによって距離を取れることに少し安堵をするが、ヴィクトル様は私を引き寄せ、その大きな腕でぐっと抱きしめた。驚きで息を呑む私の体はすっかり硬直していた。
「何もしない」
その言葉とは裏腹にヴィクトル様の手は私を強く抱きしめていた。怖くて眠れなくなりそうな心情を抱えながら、私はその腕の中でじっとしているしかなかった。とりあえずはただじっと我慢するしかなかった。
明日になったら私はこのまま眠るように死んでいるのかもしれない。寝ている間に首を絞められてこの人に殺されてしまうかも。死んでほしいぐらいに嫌われているから。
私がミーティアお姉様の代わりだからこそ、こんなふうに抱かれている。何とも言えぬ思いが交錯していた。
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