「お前が死ねばよかった」と言われた夜【新章スタート】

白滝春菊

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別れの雨

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 ずっと引っ掛かっていた。ヴィクトル様も、親も、シオン様も、みんなミーティアお姉様の死について何も言わず、ただ黙っているだけだった。
 そして真実を知った時、それがあの驚くべき事実へと繋がっていった。

「ミーティアお姉様が殺されたの、知ってて……『お前が死ねばよかった』って……」  

 その言葉があまりにも重く、私の口から漏れた。
 頭の中でずっと繰り返されていたその言葉が私の口から出てきた。しかし、ヴィクトル様はただ首を横に振る。  

「違う、違うんだ」  
「違わないじゃないですか!」  

 私の声が震えた。その言葉に込められた怒りと悲しみが一気に溢れ出す。

「どうして、どうしてあの日の夜にあんなことを言ったのですか!?私に、お姉様の代わりに死ねばよかったって!どうして、なんで……」  

 言葉が荒れ狂う中、ヴィクトル様はただ黙っている。眉をひそめ、私を見守っているが何も言わない。
 私の涙は止まらない。嗚咽をこらえながら、私は袖で目元を拭い、ヴィクトル様を睨みつけた。その視線がどれほど鋭いものだったか、私自身も驚くほどだった。  

「ヴィクトル・レーゲンブルク」

 背後で複数の足音が近づいてくる音が聞こえた。振り返るとシオン様やヴィクトル様と同じ軍服を着た軍人が何人かが立っていた。 

「エレノアの話は聞いた。ようやく犯人を捕まえることができたようだな」  

 シオン様の冷静な声が響く。

「はい。軍で取り調べを受けているところです」 
「そうか。それで、ユミルの今後のことだが……」  

 シオン様が静かに口を開く。  

「ユミルと離縁してもらう。このままではヴィクトルもユミルも不幸になる」  

 離縁――?私とヴィクトル様は夫婦なのにどうして、どうしてそんなことを言うの?  
 ……ああ、そうだ。私がシオン様に言ったんだ。私たちの夫婦関係は上手くいっていない。ヴィクトル様は私では幸せにできない。そんなことを言ったから、この結末になってしまった。
 ヴィクトル様は私なんかと一緒にいたらこの先、幸せになれない。離れないといけない。  

「私のせいで……すみません」  

 私の声はかすれていた。涙が溢れてくるのを私は止められなかった。首を横に振り、深々と頭を下げる。自分を責めるように、身体を小さくして。  

「ユミルのせいではない」  

 シオン様の声が私を優しく包み込む。私の心の中で何かが音を立てて崩れる音がした。  

「……ヴィクトル様との婚姻関係を、解消したいです」  

 私の言葉が空気を裂くように響く。

「ユミル!何を言って……」  

 ヴィクトル様が慌てて私に近づこうとしたがシオン様が私の腕を引き寄せ、私を守るようにその身を盾にした。  

「彼女はもうお前の妻ではない。気安く触るな」  

 シオン様の冷徹な言葉が響く。それに反応して、ヴィクトル様はその場で動きを止め、顔を歪めるがやがて無言で頭を垂れた。  

「お前達は相性が悪すぎた。この結婚は間違いだったのだ」  

 シオン様の一言が冷徹に私の心を貫いた。私にはこの事実に反論することができない。  

「陛下、お待ちください」  

 ヴィクトル様が一歩踏み出そうとするがその声は空しく虚空に響くだけだった。シオン様はそのまま無言で彼を一瞥し、再び私を引き寄せた。  

「お前は頭を冷やせ。当分の間は接触も禁止だ。いいな?」  

 シオン様の声はもう誰にも反論できないほどに鋭かった。ヴィクトル様は顔を歪め、何も言わずに黙り込む。そして、私とヴィクトル様の間に流れる冷たい空気がどこまでも深く沈んでいった。  

 きっと、ヴィクトル様は私がシオン様に告げ口をしたことで私を深く憎んでいるのだろう。最後の最後に恨みを増やしてしまった。それを感じるたび、胸が痛む。でも、きっと……もうこれで私とヴィクトル様は苦しい思いをすることもなくなる。

 少し寂しさを感じながらも、私はシオン様に肩を抱かれ、その場を後にする。もう、心に湧き上がる怒りも悲しみも、すべては過去のものになるべきだと思った。  

 馬車に乗り込むとシオン様が静かに私にハンカチを差し出してくれた。それを受け取り、顔を隠すようにして俯く。

 馬車が動き出すと、しばらくしてポツリポツリと雨が降り始めた。細かな雨粒が地面を濡らし、その気温の冷たさが私の心をさらに深く冷やしていくようだった。
 雨は止むことなく降り続き、まるで私とヴィクトル様との関係が終わったことを静かに告げているかのようだった。
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