狭間田市役所へようこそ  

矢島みち

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「やっぱりね、北条先輩があっさり諦めるわけないと思っていたよ」

 結局、なんやかんやあって北条先輩と付き合うことになった私は、はるかちゃんに報告しました。
 …色々相談に乗ってもらっていたので恥ずかしいですが。

「はるかちゃんは、北条さんが私のこと前から好きだって知っていたの?」

…北条先輩のことは仕事中は北条さんと呼ぶってことで、何とか合意しました。その代わりに休日は拓海さん呼びを強要されましたが。
 私の言葉に頷くと、はるかちゃんはニヤニヤしながら私を指さしました。

「だってさー、以前も言いかけたけれど、うちの課の佐々木があんたを『可愛いから一回食事に誘おうかな』っていった時に、北条先輩がわざわざ『人のモノに手を出すなら俺を敵に回す覚悟はある?』ってすっごい牽制したんだよ~‼それ以来佐々木はブルっちゃって、市役所中を“北条さんが東雲LOVE”だって噂が駆け巡ったからね‼」
 
 …そ、そんな恐ろしいことが知らない間に行われていたとは…。

「だから、市役所の男は全員あんたのことを対象外と見てると思うよ。北条先輩に敵う訳ないもんね」

 …じゃあ、彼氏を紹介してもらおうとしても無理だったわけか。成程、理解しました。

「でも、北条さんは今までそんな素振りを見せたことなかったのにいきなり好きだって言われても。…信じろっていう方が無理だよね?」

私の言葉にはるかちゃんも笑いました。

「先輩って元々何もしなくっても女が寄って来るから、いざ自分に興味ない女を好きになっちゃったらどうやってアプローチしたらいいのか判らなくなっちゃったんじゃないの?」ハハハと笑って「中学生の恋愛みたいで良いじゃん」と付け加えられました。

 …中学生の恋愛か…。

「今時の中学生はあんなことまでするのか…」ポツリと零した独り言を聞き逃すはるかちゃんじゃありません。

「何々?先輩ってばそんなに凄いコトしたの?どんな告白したのか言ってみ?」と食いつかれました。

 ぅう…恥ずかしくて言えない…。真っ赤になる私は更に彼女の好奇心を刺激した様で、

「ちょっと、北条先輩ってば職場でそんなにヤバい行為したの?きゃーっ‼歩く猥褻物だわー」なんて言い出されました。歩く猥褻物って…。

「別に、無理やり抱きしめられて…その耳元で告白されて…」

 結局、彼女には抵抗むなしく全て吐かされてしまいました。…敏腕デカかよ…。

「いや~‼北条先輩って見かけによらず肉食系だね!グイグイ押さないとあんたには効果ないって気が付いて、そこを攻める辺り策士だわ~」と大喜びです。

「理来も嫌なことは嫌だってちゃんと伝えないと、このまま突き進まれて気がついたら婚姻届け出されかねないよ?まあ、先輩ぐらいのイケメンに愛されて、浮気も心配いらないならそれもアリかもね~」と言う彼女に冷や汗が吹き出ました。

 絶対にない…とは言い切れない…。
 頑張って、北条さんのペースに巻き込まれないようにしようと心に誓いました。


 初期課に戻ると北条さんが嬉しそうに「理来、遅かったな」と声を掛けてきました。…いや、10分ぐらい休憩で抜けただけなんだけれど。

「すみません。税務の春原さんとばったり会って少し立ち話をしたもので」と言うと、嫌そうな顔で「あいつか…」と返されました。

 あちゃー…前回の言い争いで苦手意識を持っちゃっているのかもしれません。

「でも、はるかちゃんてすっごく良い娘なんですよ?北条さんが私を困らせているって思ったから先輩には言い辛いことでもきちんと意見してくれたし…だから仲良くして欲しいな…なんて」

 何とか北条さんとはるかちゃんが不仲にならないようにしたい私は一生懸命彼女の良い所アピールに躍起になる。

「顔も可愛くって優しいし、料理も上手なんですよ。この間一緒に遊びに行った時にも…」

 私が夢中ではるかちゃんを褒めていると、いきなり先輩に抱きしめられました。

「お前がはるかちゃん大好きなのは判ったから、もう黙れよ」

 そういうと激しく口づけられました。「ちょっ…」抗議する間もなく何度も何度も柔らかい唇を重ねているうちに自然と体の力が抜けて、気が付くと私は北条さんにされるがままになっていました。…うう、不覚…。

「…大人しくなったな?」北条さんが意地悪な声で笑うので、その大きな体を押し返し「…今度、職場でこういうことをしたら、1週間お触り禁止、口もききませんから‼」と睨んでやりました。

「大体、私が話している途中でこういうことをするのって良くないですよ⁈」と怒ると、「…だって、理来があんまり春原のことを褒めるから、あいつの兄貴の顔が浮かんできてなんか…妬けた」なんて可愛いことを言うけれど、ここは怒っておかないといけません!舐められたら婚姻届けまっしぐらかもしれないし‼

「北条さんはスキンシップ過剰ですよ‼あと、人の話は最後まで聞くこと‼」と保母さんのように言い聞かせます。

「は~い」と素直に言われればちょっと胸がキュンとしたのも事実ですが。

「とにかく、職場では今まで通り、先輩・後輩のパートナー関係のままでお願いします」

 良し!北条さんに流されることなく言ってやったわ私‼はるかちゃん、褒めて⁈
 そんな気持ちでいた私に北条さんは負けじとグイグイ来ます。

「…じゃあ、職場では過剰なスキンシップをしない。…代わりにご褒美は?」

 …なに?

「理来がご褒美をくれるなら俺も我慢できるかもなー。ねえ、ご褒美頂戴?」

「…ご褒美って、私が出来ることで…エッチなやつとかは無しですよ?」そう念を押すと嬉しそうな顔で頷き、「俺と温泉に1泊旅行に行こう」と言い出しました。

「えっ⁈…だからエッチなお願いはダメって…?それに北条さん温泉アレルギーって言ってたじゃないですか⁇」

 狼狽える私に「ああ、あれは嘘だから」とケロッとして笑う北条さん。…嘘つきは泥棒の始まりですよ?

「あのままだと、南原がしつこそうだし、理来が行かないのに俺だけ行って春原&南原の相手をするのは嫌だったから嘘も方便ってね」

…どおりで温泉アレルギーなんて聞いたことないと思ったよ。

「それに、一緒に遊びに行きたいだけ。お前の湯上り浴衣見たいし、せっかくだから温泉に行きたいんだよ。…行ってくれるんだったら職場では絶対に何もしないって誓うから‼」

 …なーんか信用できないんですよね。キラキラした目で嘘吐くし。でもここで約束させないと今後、職場でもピンチだし…。

「分かりました。…そのかわり絶対にエッチなことは禁止ですからね⁈」

「了解‼じゃあ、早速良い温泉探しておくから‼」

 北条さんは判りやすくご機嫌になると仕事に戻っていった。
 …うーん、もしかして北条さんに嵌められたのかな私…?
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