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「初めまして、東雲理来です。北条先輩よろしくお願いします」
そう言って、笑顔で挨拶する彼女に目が釘付けになる。あまりのことに呆然と彼女を見つめていると何かを察したらしき田中課長が「今年から東雲さんと南原さんの二人が増えて、いよいよ【初期課】も充実してきたことだし、仕事を覚えて貰うためにもペアを組んでもらうことにします」と言い出した。
「はい‼私は北条先輩と組みたいです」
素早く南原うららかという能面職員…いや新人職員が手を上げる。
肝心の東雲さんは我関せずといった風情で俺に全く興味を示してくれない。
焦る俺の様子を観察していたのか、すかさず課長が「北条君と東雲さん、西野君と南原さんでペアを組んでもらうから」と言ってくれたのには感謝した。
「ええーっ⁈別にどちらでもいいじゃないですか?私は北条先輩が良かったのに…」
南原がごねると、東雲さんまで『別に私はペアを変わっても構いませんよ』と言い出した。いや!俺が構うわ‼思わず心の声が突っ込みを入れる。
「いやいや、これは課長命令だから。やっぱり適正とかを見て決めているので勝手にチェンジは出来ません。どうしてもペアを代わりたいなら実績を上げてからだったら考えてあげるよ」
そう言われると、負けず嫌いの西野も火が付いたようで、『よーし!北条には負けないからな』と勝手に盛り上がっていた。
こちらはそれどころではない。やっと顔の見える女性に巡り合えたと思ったら必要以上にドキドキして声が上ずる。
「初めまして、北条拓海です。東雲さんこれからペアとしてよろしくね」
なんて緊張して言ってはいるけれど、顔だけは今までのスキルが役立って無表情で挨拶した。…手は汗まみれだったけれど。
「はい、これからよろしくご指導お願いします」
そうほほ笑む東雲さんの可愛かったことといったら…。お前の人生全てを指導したい…そう言ってそのまま家に連れ帰りたいほどだった。
「…で?その東雲理来ちゃんがあんたの運命の人だっていうのは確定なの?相手はどう思っているのよ?」
家に帰って嬉しさのあまり、姉貴に彼女と出会ったことを報告すると冷たくそう返された。…いいじゃねーか、まだ出会ったばかりだし。いちいちうるせえ女だな。
「今日は顔合わせして、事務的な説明をしたり、業務の内容を話しただけだから…」
だからまだ、意識されていないだけ…と続けようとすると、姉貴が先回りする。
「あんたご自慢のその顔と声で近づいて話したんでしょ?向こうは脈ありそうな感じになったの?って聞いてんのよ」
そう言って俺を足で蹴る。痛い所ばかり突きやがってクソ姉貴が。
「…全然。…一生懸命流し目して、書類を渡すフリしてわざと手に触れたりとか色々やってみたけど…顔色ひとつ変わらなかった…」
情けないが真実を伝えると、姉貴はしばらく黙った後で大爆笑した。
「あんたのことを外見で好きにならない女子って初めて聞いたわ‼いやーその娘、面白いわ。だったら本当に運命の人の可能性が高いんじゃないの?」
ゲラゲラ大笑いする姉貴にイラついて聞き逃しそうになったが、確かにその通りだ。
顔だけで俺に群がってきた女性は全員能面にしか見えなかった。顔が見える彼女だけは俺の外見に興味が無い…ということは、運命の人だから簡単に手に入らないという事か⁈
そう思うと、俄然やる気が湧いてくる。
「明日から、彼女を口説き落とすことに全力を使うわ、俺」と高らかに宣言するも「…あんた、仕事場に何しに行くつもりよ。真面目に仕事しないと田中さんにチクるわよ」と言われてしまう。
…よし、真面目に仕事をしつつ口説こう!そう決めた俺だったが、今までの挫折や恐怖心が俺をヘタレに変えていた。
「先ずは【魂】の捕縛からやってみて」
指導するも彼女は呑み込みが早く、お触りしながら指導して意識してもらおうと思っていた俺の目論見は崩れ去ってしまった。
チェッ…バックハグとか、さり気なくやる気満々だったのに。
更に、ダボダボのツナギを着て一生懸命に網を振る理来の愛らしさと言ったら尋常じゃない。南原がクネクネしながら近づいてきても『はいはいオバちゃん、農作業頑張って下さい』としか思えないのに『やった‼【魂】を捕まえましたよ⁈』と得意げに胸を張る理来は抱きしめて良い子良い子して連れ帰りたい衝動と戦うだけで精一杯だ。
「ちなみに俺は3人分確保したけどね」と笑うと、『ムムム…私の3倍ですか?悔しいな~』と唇を突き出した時には可愛すぎて萌え死ぬかと思った…。ヤバい…キスしたい。
先輩の特権で電話番号とラインを聞き出したけれど、掛けるチャンスにはなかなか巡り合えなかった。
やっと掛けられた電話も早朝の勤務を告げる内容だったから、理来にしてみれば迷惑電話扱いだろうな…と思いつつも、寝ぼけた声で『もひもひ…北条先輩?』と寝起きボイスが聞けたことは神に感謝したいレベルで嬉しかった。
くっそ…録音しとけば良かったと後悔したことも補足しておく。
早朝勤務に送り出した後で、相手が葬儀社の春原だったことを思い出した時は一瞬焦った。あいつは『イケメンだし、優しいし、大人な対応が素敵よね』と職場の女性から人気が高かったことを忘れていた。
まさか、理来が春原になびくはずはない…とソワソワしていたら、当の春原から『東雲さんが魂にからかわれて逃げられました。助けてあげてください』と電話が掛かってきたのでイソイソと出向いて行ったことも記憶に新しい。
結局、悪意のある【魂】じゃなかったことと、可愛い理来が見たくて彼女一人を走り回らせて、その姿をコッソリとスマホで撮影していたことは内緒だけれど。
そう言って、笑顔で挨拶する彼女に目が釘付けになる。あまりのことに呆然と彼女を見つめていると何かを察したらしき田中課長が「今年から東雲さんと南原さんの二人が増えて、いよいよ【初期課】も充実してきたことだし、仕事を覚えて貰うためにもペアを組んでもらうことにします」と言い出した。
「はい‼私は北条先輩と組みたいです」
素早く南原うららかという能面職員…いや新人職員が手を上げる。
肝心の東雲さんは我関せずといった風情で俺に全く興味を示してくれない。
焦る俺の様子を観察していたのか、すかさず課長が「北条君と東雲さん、西野君と南原さんでペアを組んでもらうから」と言ってくれたのには感謝した。
「ええーっ⁈別にどちらでもいいじゃないですか?私は北条先輩が良かったのに…」
南原がごねると、東雲さんまで『別に私はペアを変わっても構いませんよ』と言い出した。いや!俺が構うわ‼思わず心の声が突っ込みを入れる。
「いやいや、これは課長命令だから。やっぱり適正とかを見て決めているので勝手にチェンジは出来ません。どうしてもペアを代わりたいなら実績を上げてからだったら考えてあげるよ」
そう言われると、負けず嫌いの西野も火が付いたようで、『よーし!北条には負けないからな』と勝手に盛り上がっていた。
こちらはそれどころではない。やっと顔の見える女性に巡り合えたと思ったら必要以上にドキドキして声が上ずる。
「初めまして、北条拓海です。東雲さんこれからペアとしてよろしくね」
なんて緊張して言ってはいるけれど、顔だけは今までのスキルが役立って無表情で挨拶した。…手は汗まみれだったけれど。
「はい、これからよろしくご指導お願いします」
そうほほ笑む東雲さんの可愛かったことといったら…。お前の人生全てを指導したい…そう言ってそのまま家に連れ帰りたいほどだった。
「…で?その東雲理来ちゃんがあんたの運命の人だっていうのは確定なの?相手はどう思っているのよ?」
家に帰って嬉しさのあまり、姉貴に彼女と出会ったことを報告すると冷たくそう返された。…いいじゃねーか、まだ出会ったばかりだし。いちいちうるせえ女だな。
「今日は顔合わせして、事務的な説明をしたり、業務の内容を話しただけだから…」
だからまだ、意識されていないだけ…と続けようとすると、姉貴が先回りする。
「あんたご自慢のその顔と声で近づいて話したんでしょ?向こうは脈ありそうな感じになったの?って聞いてんのよ」
そう言って俺を足で蹴る。痛い所ばかり突きやがってクソ姉貴が。
「…全然。…一生懸命流し目して、書類を渡すフリしてわざと手に触れたりとか色々やってみたけど…顔色ひとつ変わらなかった…」
情けないが真実を伝えると、姉貴はしばらく黙った後で大爆笑した。
「あんたのことを外見で好きにならない女子って初めて聞いたわ‼いやーその娘、面白いわ。だったら本当に運命の人の可能性が高いんじゃないの?」
ゲラゲラ大笑いする姉貴にイラついて聞き逃しそうになったが、確かにその通りだ。
顔だけで俺に群がってきた女性は全員能面にしか見えなかった。顔が見える彼女だけは俺の外見に興味が無い…ということは、運命の人だから簡単に手に入らないという事か⁈
そう思うと、俄然やる気が湧いてくる。
「明日から、彼女を口説き落とすことに全力を使うわ、俺」と高らかに宣言するも「…あんた、仕事場に何しに行くつもりよ。真面目に仕事しないと田中さんにチクるわよ」と言われてしまう。
…よし、真面目に仕事をしつつ口説こう!そう決めた俺だったが、今までの挫折や恐怖心が俺をヘタレに変えていた。
「先ずは【魂】の捕縛からやってみて」
指導するも彼女は呑み込みが早く、お触りしながら指導して意識してもらおうと思っていた俺の目論見は崩れ去ってしまった。
チェッ…バックハグとか、さり気なくやる気満々だったのに。
更に、ダボダボのツナギを着て一生懸命に網を振る理来の愛らしさと言ったら尋常じゃない。南原がクネクネしながら近づいてきても『はいはいオバちゃん、農作業頑張って下さい』としか思えないのに『やった‼【魂】を捕まえましたよ⁈』と得意げに胸を張る理来は抱きしめて良い子良い子して連れ帰りたい衝動と戦うだけで精一杯だ。
「ちなみに俺は3人分確保したけどね」と笑うと、『ムムム…私の3倍ですか?悔しいな~』と唇を突き出した時には可愛すぎて萌え死ぬかと思った…。ヤバい…キスしたい。
先輩の特権で電話番号とラインを聞き出したけれど、掛けるチャンスにはなかなか巡り合えなかった。
やっと掛けられた電話も早朝の勤務を告げる内容だったから、理来にしてみれば迷惑電話扱いだろうな…と思いつつも、寝ぼけた声で『もひもひ…北条先輩?』と寝起きボイスが聞けたことは神に感謝したいレベルで嬉しかった。
くっそ…録音しとけば良かったと後悔したことも補足しておく。
早朝勤務に送り出した後で、相手が葬儀社の春原だったことを思い出した時は一瞬焦った。あいつは『イケメンだし、優しいし、大人な対応が素敵よね』と職場の女性から人気が高かったことを忘れていた。
まさか、理来が春原になびくはずはない…とソワソワしていたら、当の春原から『東雲さんが魂にからかわれて逃げられました。助けてあげてください』と電話が掛かってきたのでイソイソと出向いて行ったことも記憶に新しい。
結局、悪意のある【魂】じゃなかったことと、可愛い理来が見たくて彼女一人を走り回らせて、その姿をコッソリとスマホで撮影していたことは内緒だけれど。
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