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第2話『悪役令嬢12歳、全てを思い出しました』
しおりを挟む王宮の庭園で転んで頭を打った時、私は前世を思い出した。
何を言っているのか分からないと思うけど、一言で説明するとそういう事だ。
前世で大学生だった私は、買ったばかりの乙女ゲームが面白すぎて、全シナリオをフルコンプした。
最後の隠しエピソードは特に神ルートで、徹夜して一気に読み終えた時は感動して涙が止まらなかった。
不眠不休でゲームをクリアし、空腹だった事を思い出した私は、近くのコンビニに向かうべく明け方の道路を歩いていると、居眠り運転のトラックに撥ねられ死んでしまった。
(運が悪いというか、何ともいえない死に方だなぁ)
享年20歳。お父さんお母さん、数少ない友人たちにお別れもありがとうも言えなかった。こんなあっさり死んじゃってごめんなさい。
死んだはずの私は、真っ白な部屋で目を覚ました。
『おはようお嬢さん、運が悪かったね』
目の前には10歳になるかならないかという少年が、私の顔を上からのぞき込んでいた。
『君は怒るかもしれないが、君の死はイレギュラーだった』
「は?」
目覚めるなり、いきなり理不尽な事を言われても、現状が理解できない。
「まず私って死んじゃったの?」
トラックに撥ねられたはずの身体はどこも痛くない。確かめるようにゆっくり起き上がり、腕や脚、着ている服も見るが傷ひとつ無かった。
『今の君は魂だけの存在だから分からないだろうけど、それはもう見事に。蘇生も考えたけど、あの身体では修復が不可能だしね』
トラックとヒトの接触事故だからそうだろうなとは思ったけど、なかなかすごい感じに死んでしまったらしい。
『なので、これからまた輪廻の理に沿って、新しく生まれ変わる君に、ちょっとご褒美を上げようと思って』
「ご褒美……」
死んだのに『ご褒美』っておかしくない?
『そこでコレ!』
と、指さす少年のすぐ横のデスクの上に、ショッピングモール等の抽選場で見るガラガラがあった。小さい玉がたくさん入っているであろう木箱の横には『前世で積んだ徳DX特殊スキルセット』と書いてある。
「……何ですか、ソレ」
『偶に君みたいに理からズレて死んじゃった人に、来世では良い事が起こりやすいよう付与する特殊スキルだよ。『ギフト』とか、『前世の徳』って言われてるやつはだいたいコレだね』
「でもコレ、自分で選べないパターンじゃないですか?ハンドルを持って回すと玉が1個出て、それが私の来世の能力って事になるヤツでしょ?」
ガラガラの中に何種類の能力があるのか分からないけど、DX特殊スキルって書いてあるからには結構いいスキルが入ってると考えていいのだろうか。
『お察しの通り、スキルは自分で選べない。でも運命を打破する力は折り紙付きのモノばかりだから。次回の人生で君がまた理から外れかけたり、常識では考えられないようなピンチになっても、このスキルなら逆転できるかもってくらい強力なモノを取りそろえたよ』
なるほどDX特殊スキルというのは本当らしい。
「……分かった。サクッと良いヤツ引いてやろうじゃない」
銀のハンドルを掴み、ぐるりとガラガラを回す。
――コトン。
パールピンクの玉が転がり出たかと思うと、すぐにパチンと弾けた。
『特殊スキル・ラッキースケベを手に入れた』
目の前に現れたメッセージウィンドウに素っ気ない文章が浮かぶ。ラッキースケベ? ラッキースケベって、ヒーローにありがちな『ヒロインとエッチなラブコメイベント』が起きるアレのことでしょ。そんなのがDXなスキルなワケ?
『へえ、面白いスキルが出たね。使い方によっては最強じゃない』
メッセージを覗き込んだ少年が楽しそうにコロコロ笑う。
『さあ、スキルも決まったことだし、楽しい来世にいってらっしゃい! 君のスキルに合ってて、しかも馴染みのある世界だから! 次は理からはみ出ないようにね~』
「ちょっと待って! まだ状況が飲み込めないんだけど!」
『大丈夫、大丈夫。もう一回生まれ変わるだけだから大したことないよ』
部屋の壁がぐるぐる渦を巻き、こちらに迫ってくる。どう逃げようと、ふと足元を見るとぽっかりと穴が開いていた。
『天界の理に則り、此の者の魂を今一度人の世に還す。異なる世界でも善き人生であらんことを』
足元の穴の下は見渡す限りの宇宙空間。その中をひたすら落下してゆく。ああ、私生まれ変わるのか……。せめて来世はいきなり死んだりしないで、ちゃんと人生全うしたいな。
徐々に意識が遠くなる。さっきの子は馴染みのある世界だって言ってたから、転生チートとか使えるのかな。人生2周目とかそれだけでアドバンテージになるから、子供のうちにしっかり足場を固めなくっちゃ。ちょっと、いやだいぶ特殊スキルが不安要素だけど。
そして私は見事転生を果たした。
死ぬ直前までプレイしていた乙女ゲームの世界に。ゲームの登場人物であるスカーレットとして……。
スカーレット・クレイハート。乙女ゲームの主人公、光の聖女アンナマリー暗殺容疑で断罪処刑される、ラスボス悪役令嬢である。
____________________
王宮のバラ庭園で、私は全て思い出した。
今の私はスカーレット・クレイハート12歳。クレイハート侯爵家の長女で、ちょっと変わったワガママ娘。今から6年後に処刑される悪役令嬢。
そして、私の横で顔を真っ赤にして座っているのが、私を断罪処刑する予定のエドワード王太子殿下。同じく12歳。
どうして顔が真っ赤かというと、それは私が淑女にあるまじく、すっころんでパンツ丸出しでひっくり返ってたからよ……。
まさかこれDX特殊スキル『ラッキースケベ』のせいじゃないよね。全然ラッキーじゃないんだけど……。
「も、無理……」
思考回路が情報の処理に追い付かず、意識が朦朧とする。頭が頭がパンクするってこういう事をいうんだ。
「え、スカーレット? スカーレットしっかり!」
私の異変に気付いたエドワードが声をかけるが、頭がキャパオーバーした私はそのまま気を失ってしまった。
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