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第3話『悪役令嬢12歳、シナリオ通り婚約しました』
しおりを挟むバラ庭園で意識を失った私は、そのまま王宮内の医務室に運ばれ、一度も目を覚まさないまま一晩中うなされていたらしい。
転んだ拍子に頭を打ったせいではないかと、翌朝起きてからも医師にあれこれ質問されたり、診察されたりしたけれど、問題は特になし。手足がしびれたり、喋れなくなったらすぐに医師の診断を仰ぐように言われて、私は自宅へ帰された。
帰り際、エドワードがすごく心配して、まだしばらく王宮で静養するように言ってくれたけど、一刻も早く自宅で前世の記憶と擦り合せしたかった私はあっさりとそれを断った。
それにエドワードとはできれば疎遠でいたい。彼と婚約しなければ断罪処刑を避けられるし、前世より若くして死ぬことはないだろう。
「さあ、ここから作戦開始よ! 処刑エンドなんてまっぴらごめんなんだから!」
スカーレット・クレイハート12歳。前世を思い出すのがちょっと遅かったけど、死刑宣告まで後6年ある。ここから挽回してやるんだから。
____________________
自宅に戻って母に挨拶を済ませた私は、まだ体調が優れないと部屋に引きこもった。
晩餐まで寝ていたいので誰も来ないでと侍女を下がらせ、静かになった部屋で日記帳とペンを手にベットに潜り込む。
(まず覚えてる限りの事を書き出しておかないと)
悪役令嬢の断罪イベントまで6年と3カ月。今はまだ記憶が戻ったばかりで、ゲームの内容も鮮明に覚えているが、6年後までキッチリ覚えている自信はない。今のうちに記録しておけば助けになるし、長期の作戦も立てやすい。
(一番の懸案事項は、やっぱりエドワード王子なのよね)
エドワード・アシェル・ミッドクルス王太子殿下。現ミッドクルス国王の一人息子。顔良し頭良し、運動神経良し。しかも温厚な性格で人望もある。欠点なんて一つもない完璧な王子様。それがエドワードだ。
唯一欠点らしい欠点と言えば、婚約者をスカーレットにしたことくらい。貴族たちのパワーバランスや年齢的、容姿的にいちばん問題が無さそうだったのが私だったのよね。まあ本人の性格に問題があった訳だけど。
スカーレットのワガママと強引さに疲れていた王子は学園で光の聖女アンナマリーと出会い、彼女の優しさに心癒されて恋に落ちるんだけど、婚約者としてのプライドを傷つけられたスカーレットが、アンナマリーを暗殺しようとして失敗。事態を重く見たエドワードがスカーレットを断罪し処刑する訳なんだけど……。
侯爵家のご令嬢とはいえ18歳の少女が、たった一人で暗殺計画を企てるって無理があるでしょ。そこはね、協力者がいるんですよ。貴族界でも特に力を持ってる保守派のフォーサイス公爵。彼はアンナマリーの後ろにいる教会が王家に取り入り、権力を増大させるのを避けたかったのと、私の父である改革派クレイハート侯爵を政界から追い出したかった。そんな政治的な事を何一つ理解していなかった私は、何の疑問も持たずに彼の口車に乗り暗殺計画を実行してしまった。
不幸中の幸いというか、結果としてアンナマリーは助かり、偶然暗殺未遂現場に居合わせ、聖女を守った父も暗殺計画には無関係と証明された為、降格処分になっただけで済まされた。裏で糸を引いていたフォーサイス公爵は証拠不十分で取り調べすらされず、私だけが聖女暗殺未遂の容疑で処刑されてしまうのだ。
(え、私ってもしかして、めちゃくちゃバカ……?)
常に己の思うままに生きてきたスカーレット。その姿は苛烈だけれど、あまりにも短絡的すぎる。
(あああああ、どうせゲームの世界に転生されるなら、名前も出ないようなモブ令嬢が良かったのに……。とりあえず、これから起きる事を時系列に並べて、いつどんな時でも対処できるように備えなくっちゃ)
今、スカーレットは12歳。この年、王家のお茶会で王子に一目ぼれした私は、王子の婚約者に成れるように父に泣きながら懇願する。ダメ元で王に進言した所、まさかのオッケーの返事に私と王子の婚約が成立する……って、お茶会あったじゃん! つい! 最近! ていうか昨日の事じゃない!
(よかった……。これで私が父に懇願しなければ、王子との婚約は成立しない)
このタイミングで記憶が戻って良かった。後は15歳になって、王立学園入学後にアンナマリーとの接触を避けて、虐めなければいい。
(楽勝、楽勝。むしろ私ゲームのアンナマリー好きなのよね。庶民派で優しいし、笑顔が癒し系でかわいいし)
これで私の人生安泰そのもの。ウチには弟がいるからいずれどこかの貴族に嫁入りしなきゃならないけど……って、ちょっと待って。それじゃ隠しシナリオじゃない。
隠しシナリオの逆ハーレムルート。唯一アンナマリー暗殺未遂事件が起こらないルートだ。そのルートではエドワードは誰とも婚約しておらず、スカーレットはアンナマリーに嫌味を言う事はあるが、虐めたりまではしない。そして在学中15歳も年上の腹黒フォーサイス公爵の長男と婚約。卒業を待たず18歳になると同時に結婚し、途中で学園を去るのだ。
(もしかして、王子と婚約しないとこのルートになっちゃうんじゃ……)
一族揃って性格最悪のフォーサイス家に嫁ぐなんて嫌すぎる。というか相手が誰でもすすんで結婚したくないし、どうせ結婚するなら貴族より庶民がいい。
(そういえば今の私って元々結婚願望薄かったな。貴族の令嬢なんて、結婚相手で人生決まっちゃうから、もっと必死にならなきゃいけないのに)
転生した影響か、記憶がなくても前世の感覚が魂に沁みついていたようだ。10代で結婚を真剣に考えなきゃいけないなんて、いくらなんでも早すぎる。変わっていると周りから言われ続けたのも前世の感覚のせいかもしれない。
(どっちにしろ政治のダシに使われる貴族社会なんてまっぴらよ。むしろ断罪を利用して、処刑されずに国外追放か勘当される程度にして放逐してもらえないかな)
暗殺未遂はやりすぎだけど、聖女にキツメの嫌がらせをしたらいいんじゃないかしら。それなら処刑は免れるかも。そうなると……。
(王子との婚約はどうしよう……)
聖女を程々に虐めるくらいなら、王子と婚約してもしなくても、どっちでもいいのではないだろうか。
(公爵長男と婚約する可能性を考えると、王子と婚約しておいた方が無難な気もする)
しかし、あんなパンツ丸出しの情けない姿を見られた今となっては、出来る事なら避けて通りたい。
(あれってやっぱり、特殊スキルのせいなのかな……)
転生直前に貰った特殊スキルラッキースケベ。今後もし王子と接触する機会があれば発動するかもしれない。それどころか王子以外の相手でも発動したらたまったものではない。
まだスキルの詳細が分からない以上、こちらから動くのは避けた方が良さそうだ。
(ゲーム自体は王立学校の入学式から始まるから、後は入学後の重要イベント書き出しておけばいいか)
思い出せる限りのイベントを箇条書きにしていると、窓の外で馬車がすごいスピードで走ってくる音が聞こえた。お父様が帰ってくるにしては早いけど何かあったのかな。
気にはなったが、今はイベントの書き出しが最優先とペンを走らせていると、やがてバタバタと廊下を走る音がして、私の部屋の前で止まった。
「スカーレット! スカーレットいるか!」
先程の馬車はやはり父だったらしい。普段は穏やかな彼がひどく焦った様子で、ドンドンとドアを叩く。
「ごめんなさいお父様。まだ体調が優れませんの」
日記帳とペンをベッドの隅に隠しながら返事をする。
「緊急事態だ。ドアを開けるぞ!」
この剣幕ではそうなるだろうなと予想していたが、父は私の返事を待たずに勢いよくドアを開け、ツカツカとベットで丸くなった私の元へやってきた。
「……どうなさったのですお父様。なんだかこわいです。昨日はお茶会で倒れてしまって、醜態を晒してしまい本当に申し訳ございません」
怯えてみせると、父はそうではないと慌てて私をなだめに掛かった。
「すまないスカーレット、怒っているのではない。ただ……、驚くかもしれんが今日、王よりお前の件でお話があった」
「え?」
昨日の一件が王様の耳にまで届いてしまったのだろうか。さすがにパンツ丸出し事件までは、エドワードも言ってないと思いたいけど……。
「スカーレット、お前とエドワード王太子の婚約が決まった! 後日改めて登城せよとの事だ」
「……え?」
エドワードとの婚約って、私が懇願しないと成立しないんじゃなかったでしたっけ……。
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