白亜の星のたったひとりの少年と冒険したがりの獣族の姫様

月川ふ黒ウ

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竜族の病

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 サングィスたちサヴロスは、種族として致命的な欠陥を抱えていた。
 三親等以内での交配の方が子を成す確率が高いのだ。
 理由はひとつ。
 四足歩行から、手や指を使える完全な二足歩行へ。そして卵生から胎生への進化。
 緩やかに二足歩行への進化の過程にいたサヴロスは、先に完全な二足歩行へと進化していたアウィスたちが予見した大破壊を共に乗り越えるため、進化を促進する道を選んだ。
 進化とは突然変異。
 人型へ進化するために彼らは近親交配によって意図的に引き起こした。
 結果として進化は成功したが、しこりのように欠損が残った。しこりはどれだけ世代を重ねようとも、住まう星を変えたとしても修正されることはなかった。
 地球にいたサヴロスたちはそのことも予見していたが、大破壊を超えることを優先し、しこりの除去は未来の世代に任せることにした。
 そして彼らはシルウェスたちと協力して星を渡り、この星での一万年の歴史を刻んできた。

「我らがこの星に来た経緯は歴史の授業で学びましたが、そのような欠陥があったとは初耳でした」

 トルアが感心したように頷く。
 ゆっくりと頷き返し、サングィスは続ける。

「法術を使おうとも、サヴロスの将来は見えていた。あと数世代で子が生まれなくなる」

 そんな、とスズカでさえ息を飲んだ。

「千年前、サトルたちの祖先がこの星にやってきた時、彼らも我らの欠損を見抜き、尽力してくれた。でなければとうに我らは滅していた」
『ですが、彼らの一部は対価を求めました』

 引き継いだのはベス。

『彼らは、サヴロスの方々を闘技大会への参加を強要しました』
「強さを求めるのはサヴロスの性分。当時の頭領は深く考えずに承諾したと聞く」
「闘技大会、とはサトルさまも参加されたあれのことですか?」

 トルアの問いに、ベスは目を伏せて首を振る。

『この星の外、他の星々の種族を交えた闘技大会です』
「それが、お前の言っていたおぞましいことなのか? サヴロスほどではないが、我らシルウェスも強いものと闘えることは喜ばしいことだが」

 スズカが首をかしげながら問いかける。この場には居ないが、アウィスもまた闘争そのものを忌避するものは少ない。

「勝利するためだけに強者同士で交配を繰り返し、戦士たちが多額の金銭で売買されているとしても、そう言えるのか?」

 なんだそれは、とスズカが呆然と言う。

「参加しなければ星系間の戦争に巻き込まれ、この星は瞬く間に植民地とされてしまう。売買される戦士たちは十分に説明をし、望むならば親類縁者と共に送り出してきたが、無事に帰ってきた者は少ない」

 淡々としたサングィスの言葉に、スズカはついに立ち上がって叫ぶ。

「なんだそれは! まるっきり家畜ではないか!」
『ええ。ですが、この星の平穏を保つためには必要なことでした。私たちがこの星に来てからサヴロスの方々と共闘し、組織は一度壊滅させました。私はそれで終わったと思っていました』
「しかし潰した組織はただの末端。奥にあった組織は銀河系を包むほどに巨大で強固。これを潰すことは銀河系の安寧を脅かすことと我が先祖は悟り、属することに決めたのだ。末端の組織を潰した前例を盾に細かな規定を作り、戦士たちの尊厳を高めるよう働きかけながらな」
『組織は柔軟でした。末端ではありながら組織に牙を剥いた我々を、むしろより強い相手と試合が組めると喜んでいるぐらいでした』

 ふたりに言われ、スズカは座り直し、緑茶をすすってひと呼吸置いて。

「それを、お前たちサヴロスが全てやっていたのか」

 うむ、と頷く。

「地球人たちが来てくれなければ我らサヴロスはとうに滅んでいた。闘技大会への参加は彼らへの恩義を果たしているだけだ。戦士たちもそれは納得している」

 そうか、と返し、スズカは何かに気付いたように目を見開く。

「じゃあ姫はなんで連中の手に落ちた。サトルもだ。あいつこそユヱネスで一番関係がないだろう」

 それに答えたのはベスだった。

『ユヱネスの血が、サヴロス、ひいては龍種全ての遺伝子的欠損を解消するからです』

    *

「……で、なんでぼくを攫ったんです? サョリさんが目的だったんじゃないんですか?」

 首と両手首を一枚の板で拘束され、サトルは薄暗い通路を歩く。
 足裏に伝わる感覚から、床の素材は金属。肌を撫でる風はひんやりとしていて冷房されたものだと感じる。いまだ服を着ていないので、この気温だと風邪をひいてしまいそうで困る。

「本当はね、あんたの母親で十分片付く問題だったのよ」
「母さんが?」
「そ。ユヱネスの子宮で育てたサヴロスの種。それがあればあのトカゲたちの寿命はあと一万年は伸びた。でもあいつはユヱネスをやめた。だから仕方なくあんたの生殖器にある種で代用しようってことになったの」
「なんで、そうまでして」

 前を歩くガスマスクの女はくるりと振り返り、サトルの鼻先に人差し指を当てる。

「あんた意外と冷たいのね」
「そ、そういうことじゃ」
「なによ。あんたは自分で最後だから、他の種族が滅んでも構わないってことでしょ?」
「そんなことひと言も!」

 そもそも、この女の言動には腹に据えかねるものがあった。

「あたしたちはね。単純に学者としての興味本位であのトカゲたちを研究してるの。あんたはユヱネス。あたしたちの亜種。そういう考え方を持っててもおかしくないって言ってるの」

 言い切られ、サトルは黙ってしまう。
 なにか言わなければ、と考えて考えて。

「でも、でもぼくは、たぶん、あなたとは違う意味で、サヴロスの人たちに滅んでほしくないとおもっています」

 あっそ、と返して女は振り返り、歩き出す。女の手にはサトルの枷と繋がった鎖紐が握られているので、一歩目がどうしてもつんのめってしまう。
 ぺたぺたと冷たい廊下をしばらく歩いて、歩いて。

「あ、あの」
「もうすぐよ」
「そうじゃなく、て、くしゅんっ!」

 冷房からくる風で思わずくしゃみをしてしまう。

「ああ、ごめんごめん、あんたまっぱだったわね」
「は、はい。だから服を、くしゅんっ!」
「しょうがないわね。変にストレスかけて種に不具合出たら困るし」

 何を言っているのか分からず、「種?」とオウム返しをしてしまう。

「さっきのあたしの話、聞いてなかったの?」
「え、えっと」
 あのね、と振り返った顔は、薄がりの中でも笑顔だと分かるほど。
「あんたは家畜になったの。これから一生、トカゲたちに種ばらまいてもらうんだから」
 え、と間の抜けた声が出た。
「二本足で歩かせてるだけ感謝しなさいよ? あたしたちの亜種なんだから四つん這いにさせても歩きにくいっていうのもあるんだけど、ね」

 さらりと言って壁に埋め込まれているテンキーをたたく。
 言葉だけ取れば侮辱されたと感じるだろう。だが、本当に動物へ話しているような女の口調に、サトルは自分に言われているとすら感じなかった。
 ごうん、と重い音を響かせて壁が縦に割れ、横に開いていく。
 部屋があった。
 床張りのリビングキッチンに、木製のテーブルと椅子。テーブルにはクッキーなどが入ったボウルと湯気の立つコーヒーカップ。

「暗示かけて草原にまっぱで放って、自由に種付けさせても良かったんだけど、やっぱり家畜はちゃんと管理しないとね」

 女の言葉と状況に呆気にとられている間に、かしゃん、と枷にかけられていた南京錠が外され、両手が自由になる。

「おお、サトル。待っていたぞ」

 タリアがいた。

「なんだその格好。お前たちは服を着るんじゃなかったのか」

 コーヒーカップを両手で持ちながら、タリアは薄く笑った。
 意味が、分からなかった。
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