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■7.ただ俺が見てみたいんだよ ◆浅石佑次
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だってすべては佑次が吹奏楽応援をやりたいなんて言ったから起こったことだ。なにも言わなければ、例年どおり応援と名の付くものはすべからくバンカラで行い、この時期、吹部は大会の練習にだけ集中していられるはずだったのだから。
吹部の連中をこんなにも引っかき回した張本人は、紛れもなく佑次なのだ。
どんな責めでも負うつもりだ。なにを言われても謝るしかない。自分にできることがそれくらいしかないのが、ひどく歯痒いし申し訳ないけれど、でも佑次にはそれしかない。
「……そんなことのために大会前の俺らを駆り出すなよ」
ゆるゆると首を振って再度ため息を吐き出した中島は、佑次の口から発せられたあまりにも単純な動機に脱力したのか、垂れる頭を片手で支えて、そのまま俯いてしまった。
「でも」
しかし続きがあった。
「生徒総会で言ったときのような薄っぺらくて胡散臭い文言よりは、〝そんなこと〟のほうがいくぶん信じられるかもしんない。野球応援に吹奏楽を加える意義とかなんとか、もっともらしい言葉を使って切実に訴えてたけど、じゃあお前はどうなんだ? って感じだったし。単純に〝見たいから〟って言ってもらったほうが、まだ納得の余地はあるよ」
「……へ? あ、そ、そうか?」
「あくまで少年漫画的発想だけど。……でも、そういうの、わりと嫌いじゃないし」
「うはっ!」
とたんに佑次の顔に笑みが広がる。だから男って好きだ。どんなに現実を見ようとしても心のどこかでは永遠に少年で、バカみたいに潔いこととか単純な思考に否応なしに胸が震えてしまう。憧れたり心奪われたり心酔したり、いつか自分も漫画の中の主人公みたいになりたいなんていうイタ恥ずかしい願望を抱くことも、一度や二度じゃないはずだ。
中島も同じだった。中島だって同じなのだ。
「じゃあ、辞退の話は撤回してくれるよな!?」
中島の机にバンッと両手を付き、勢い込んで尋ねる。わりと嫌いじゃないはイコール、超好きだということだ。はじめはなかなか複雑な性格で懐柔するのは難しそうだと頭を抱えもしたけれど、なんだ案外いいやつじゃん、と佑次の顔は嬉々とする。
「……いや、俺からはなんとも言えない」
しかし中島の返事は煮え切らないものだった。当然だ、即座に西窪なずなのことが頭をよぎったに違いない。衝突して以来、部に顔を出さなくなった部長。この様子だと謝るタイミングを完全に逸してしまっている部長のことを、中島は考えているのだろう。
それは佑次も同じだった。
自分が無茶苦茶なことを言い出したばっかりに、傷つかなくてもいいことで西窪なずなを傷つけてしまった。部に顔を出さないなんて、きっとよっぽどのことがあったのだろう。あのときの泣き顔も、ずっと頭から離れない。でも、謝らなければいけないと常々思っていながら、今日までズルズルときてしまったのだ。目の前に発生した〝吹部辞退〟の問題に駆けずり回っているふりをして、彼女のことを考えないようにしていた。
たとえ許してもらえなくても、ますます機嫌を損ねることになったとしても、西窪なずなのところへ行かなければならないのは、もしかしたら佑次のほうかもしれない。
「よっしゃ。じゃあ、今から一緒に謝りに行くべ」
「……は?」
「だって全部、俺のせいだし。俺、バカだからさ。部長がどんな気持ちで俺らと吹部の間を取り持ってたのか、全然考えてなかったんだ。ほんとバカだった。だから謝りたい」
言うと、驚いた中島の顔に初めて否定的以外の感情が差した気がした。リストの見直しに否定し、吹奏楽応援自体も完全否定。自分たちの楽器の音で学校のみんなが肩を揺らして応援する姿を見てみたくないかと尋ねたさっきだって、迷惑だと突っぱねられた。
でも、今確かに中島の顔に〝行きたい〟という肯定の意思が感じられたのだ。
「行こう、中島」
もう一度、はっきりとした口調で中島を促す。どこかの漫画のヒーローみたいにすっと手を差し出したりはしないけれど。迷っているくらいなら、謝りたくて仕方ないって顔をしているくらいなら行こうという気概だけは、どんなヒーローにも負けない気持ちで。
そうしていると、ふと、綿貫先生のお見舞いに行こうとノンフレームやポニーテールを引っ張っていったときも、こんなふうに強引だったなと思い出して無性におかしくなった。きっと俺は死ぬまでこうなんだろうなとも思えて、そんな自分がバカバカしくて仕方がない。
ついに「ふっ」と笑い声が漏れてしまうと、それと同時に「なに笑ってんだよ」と中島も困ったように笑った。席を立つと無言で教室の戸のほうに歩いていってしまった気の強いトランぺッターのあとを急いで追いながら、それでも佑次は思い出し笑いが止まらない。
「ふっ。ふはっ」
「……あのな、今から謝るってのにヘラヘラ笑うってどういう神経なんだよ」
「いや、つい最近もこんなようなことをしたなって思い出しちゃって」
「こんなようなことって?」
「綿貫先生のお見舞いに、会長と副会長を強引に連れてった」
すると中島は、妙に合点がいったように「ああ……」と呟き、ふいに廊下の真ん中で立ち止まった。なんだろうと思っていれば、蛍光管がはめ込まれた天井に目をやり、それから、ふぅと息を吐くと上背のある佑次にひょいと視線をずらして口の端に笑みを作る。
「浅石のそういうとこ、クソ野郎だな」
「……は?」
「気にすんな、悪い意味じゃない」
「悪い意味以外に聞こえないんだけど」
なんなんだろう、こいつは。しかしすぐに中島が何事もなかったように歩きはじめてしまったので、佑次は釈然としないながらも付いていくしかない。
もしかして、この身長差に〝クソ野郎〟なのだろうか。中島の隣を歩いていると、なんだか自分が巨人にでもなったようで、つむじのあたりがムズムズするが、中島も中島で同性のデカいやつに隣に並ばれたらいい気はしないだろうと考えると、その発言にも妙に納得がいってしまう。
……中島は小柄なのである。見上げるときの角度が大きければ大きいほど、彼の中の自尊心は傷ついてしまうと、きっとそういうことなのだろう。
そうだよな、たぶんそういうことだ。佑次は無理やりそう結論付ける。でも、悪い意味ではないまでも、けしていい意味でもないのが、なんとなく悪意を感じるけれど。
それでも仕方なく並んで歩き、西窪なずなのクラスに足を踏み入れる。彼女はちょうど友人と話しているところで、佑次たちには背を向ける格好なので、まだ気づかない様子だ。
「小田島愛。吹部の副部長。戻ってきてほしくて頑張ってる」
それだけを言うと、中島は「小田島」とキノコカットに声をかけた。あまり相手にしていないようだった西窪なずなも、小田島愛とともに声のしたほうを振り向く。
佑次と中島の姿を認めた西窪なずなは、すぐに目を逸らした。小田島愛のほうは、なずなを気にかけながらも小走りでこちらに近づき、声を潜めて「どうしたの?」と問う。
「西窪に謝りたくて。あと、吹奏楽応援をするだけの理由も浅石から聞いて、悔しいけど納得した。バカバカしくて付き合ってらんない理由なんだけど、でも、こいつがどうしても見たいって言うからさ。……あとは部長の許可が必要なんだ。今、ちょっと話せる?」
怪訝な表情の小田島愛に、中島が淡々と事情を説明する。しかし、説明が終わっても彼女の表情は冴えない。それでも必死に考えている空気は、おそらく癖なのだろう、右手の親指の腹でしきりに下唇をなぞる彼女の仕草から痛いくらいに伝わってくる。
彼女は考えているのだろう。佑次たちが介入してきたときのメリットとリスク、なずなの心理状態やタイミングなどを多方面から、あらゆる場面を想像して。
彼女の返答次第では、もしかしたら門前払いを食らうかもしれない。でも、慎重に事を運んでいるキノコにとっては、それらを天秤にかけざるを得ないのだ。彼女は今、指の腹で唇をなぞりながら必死に考えている。なずなを思い、どうするべきかを。
固唾を飲んで見守っていると、やがて小田島愛が中島、佑次の順に顔を見た。もうひとりの自分が、さっきの中島に対してけっこう散々な言われようだな、などと心の中で苦笑を漏らしたりもしていたが、彼女の瞳に射られたとたん、シャキッと背筋が伸びた。
「話しに行ってもいいとは思うけど、なずなを刺激するようなことだけは言わないで。今、すっかり疑心暗鬼になってて、誰のことも信用しなくなっちゃったの。私たちは考えようとしてなかったんだよ、なずなの気持ちとか、どれだけ追い詰められていたかとか。そういうのが一気に出ちゃって……。きっかけは中島とケンカしたことだったけど、ずっとずっと、ひとりで溜め込んでたんだと思う。わかるでしょ? 中島なら」
「わかってる」
「浅石君も。いいね?」
「もとはと言えば全部俺のせいだ、絶対に刺激しない。約束する」
「うん。なら、行っていい」
小田島愛の声は淡々としていたが、目は中島のことも佑次のことも責めている色をしていた。当然だ。なずな、中島に続いて今度は彼女が板挟みになっているのだから。その元凶である佑次に向けられる目は、中島以上に厳しいものでなければおかしい。
それでも佑次は、小田島愛の非難の眼差しから目を逸らさずしっかりと頷き、なずなに向かって足を一歩踏み出す中島に続いて自身も床を踏みしめる足に力を込めた。あんなにも頑なだった中島に歩み寄りが見られはじめた今だからこそ、軋轢もわだかまりも解消して全員で同じ方向を向かなければ、ラスボス教頭を相手に勝ち目なんてあるはずがない。
話せばわかってくれる、誠心誠意謝ればきっと許してくれる。
そう自分に言い聞かせながら、そっぽを向いているなずなに一歩ずつ近づいていく。
けれど――。
「あっ」
「待って、ただ話がしたいだけだからっ」
なずなは突如、逃げ出した。自分のほうに近づいてくる気配を察知したのだろう、ガタンッと大きな椅子の音をさせるや否や、驚くクラスメイトたちの間を縫って廊下に駆け出していく。中島と佑次、それに小田島愛も彼女のあとを追って教室を飛び出す。
吹部の連中をこんなにも引っかき回した張本人は、紛れもなく佑次なのだ。
どんな責めでも負うつもりだ。なにを言われても謝るしかない。自分にできることがそれくらいしかないのが、ひどく歯痒いし申し訳ないけれど、でも佑次にはそれしかない。
「……そんなことのために大会前の俺らを駆り出すなよ」
ゆるゆると首を振って再度ため息を吐き出した中島は、佑次の口から発せられたあまりにも単純な動機に脱力したのか、垂れる頭を片手で支えて、そのまま俯いてしまった。
「でも」
しかし続きがあった。
「生徒総会で言ったときのような薄っぺらくて胡散臭い文言よりは、〝そんなこと〟のほうがいくぶん信じられるかもしんない。野球応援に吹奏楽を加える意義とかなんとか、もっともらしい言葉を使って切実に訴えてたけど、じゃあお前はどうなんだ? って感じだったし。単純に〝見たいから〟って言ってもらったほうが、まだ納得の余地はあるよ」
「……へ? あ、そ、そうか?」
「あくまで少年漫画的発想だけど。……でも、そういうの、わりと嫌いじゃないし」
「うはっ!」
とたんに佑次の顔に笑みが広がる。だから男って好きだ。どんなに現実を見ようとしても心のどこかでは永遠に少年で、バカみたいに潔いこととか単純な思考に否応なしに胸が震えてしまう。憧れたり心奪われたり心酔したり、いつか自分も漫画の中の主人公みたいになりたいなんていうイタ恥ずかしい願望を抱くことも、一度や二度じゃないはずだ。
中島も同じだった。中島だって同じなのだ。
「じゃあ、辞退の話は撤回してくれるよな!?」
中島の机にバンッと両手を付き、勢い込んで尋ねる。わりと嫌いじゃないはイコール、超好きだということだ。はじめはなかなか複雑な性格で懐柔するのは難しそうだと頭を抱えもしたけれど、なんだ案外いいやつじゃん、と佑次の顔は嬉々とする。
「……いや、俺からはなんとも言えない」
しかし中島の返事は煮え切らないものだった。当然だ、即座に西窪なずなのことが頭をよぎったに違いない。衝突して以来、部に顔を出さなくなった部長。この様子だと謝るタイミングを完全に逸してしまっている部長のことを、中島は考えているのだろう。
それは佑次も同じだった。
自分が無茶苦茶なことを言い出したばっかりに、傷つかなくてもいいことで西窪なずなを傷つけてしまった。部に顔を出さないなんて、きっとよっぽどのことがあったのだろう。あのときの泣き顔も、ずっと頭から離れない。でも、謝らなければいけないと常々思っていながら、今日までズルズルときてしまったのだ。目の前に発生した〝吹部辞退〟の問題に駆けずり回っているふりをして、彼女のことを考えないようにしていた。
たとえ許してもらえなくても、ますます機嫌を損ねることになったとしても、西窪なずなのところへ行かなければならないのは、もしかしたら佑次のほうかもしれない。
「よっしゃ。じゃあ、今から一緒に謝りに行くべ」
「……は?」
「だって全部、俺のせいだし。俺、バカだからさ。部長がどんな気持ちで俺らと吹部の間を取り持ってたのか、全然考えてなかったんだ。ほんとバカだった。だから謝りたい」
言うと、驚いた中島の顔に初めて否定的以外の感情が差した気がした。リストの見直しに否定し、吹奏楽応援自体も完全否定。自分たちの楽器の音で学校のみんなが肩を揺らして応援する姿を見てみたくないかと尋ねたさっきだって、迷惑だと突っぱねられた。
でも、今確かに中島の顔に〝行きたい〟という肯定の意思が感じられたのだ。
「行こう、中島」
もう一度、はっきりとした口調で中島を促す。どこかの漫画のヒーローみたいにすっと手を差し出したりはしないけれど。迷っているくらいなら、謝りたくて仕方ないって顔をしているくらいなら行こうという気概だけは、どんなヒーローにも負けない気持ちで。
そうしていると、ふと、綿貫先生のお見舞いに行こうとノンフレームやポニーテールを引っ張っていったときも、こんなふうに強引だったなと思い出して無性におかしくなった。きっと俺は死ぬまでこうなんだろうなとも思えて、そんな自分がバカバカしくて仕方がない。
ついに「ふっ」と笑い声が漏れてしまうと、それと同時に「なに笑ってんだよ」と中島も困ったように笑った。席を立つと無言で教室の戸のほうに歩いていってしまった気の強いトランぺッターのあとを急いで追いながら、それでも佑次は思い出し笑いが止まらない。
「ふっ。ふはっ」
「……あのな、今から謝るってのにヘラヘラ笑うってどういう神経なんだよ」
「いや、つい最近もこんなようなことをしたなって思い出しちゃって」
「こんなようなことって?」
「綿貫先生のお見舞いに、会長と副会長を強引に連れてった」
すると中島は、妙に合点がいったように「ああ……」と呟き、ふいに廊下の真ん中で立ち止まった。なんだろうと思っていれば、蛍光管がはめ込まれた天井に目をやり、それから、ふぅと息を吐くと上背のある佑次にひょいと視線をずらして口の端に笑みを作る。
「浅石のそういうとこ、クソ野郎だな」
「……は?」
「気にすんな、悪い意味じゃない」
「悪い意味以外に聞こえないんだけど」
なんなんだろう、こいつは。しかしすぐに中島が何事もなかったように歩きはじめてしまったので、佑次は釈然としないながらも付いていくしかない。
もしかして、この身長差に〝クソ野郎〟なのだろうか。中島の隣を歩いていると、なんだか自分が巨人にでもなったようで、つむじのあたりがムズムズするが、中島も中島で同性のデカいやつに隣に並ばれたらいい気はしないだろうと考えると、その発言にも妙に納得がいってしまう。
……中島は小柄なのである。見上げるときの角度が大きければ大きいほど、彼の中の自尊心は傷ついてしまうと、きっとそういうことなのだろう。
そうだよな、たぶんそういうことだ。佑次は無理やりそう結論付ける。でも、悪い意味ではないまでも、けしていい意味でもないのが、なんとなく悪意を感じるけれど。
それでも仕方なく並んで歩き、西窪なずなのクラスに足を踏み入れる。彼女はちょうど友人と話しているところで、佑次たちには背を向ける格好なので、まだ気づかない様子だ。
「小田島愛。吹部の副部長。戻ってきてほしくて頑張ってる」
それだけを言うと、中島は「小田島」とキノコカットに声をかけた。あまり相手にしていないようだった西窪なずなも、小田島愛とともに声のしたほうを振り向く。
佑次と中島の姿を認めた西窪なずなは、すぐに目を逸らした。小田島愛のほうは、なずなを気にかけながらも小走りでこちらに近づき、声を潜めて「どうしたの?」と問う。
「西窪に謝りたくて。あと、吹奏楽応援をするだけの理由も浅石から聞いて、悔しいけど納得した。バカバカしくて付き合ってらんない理由なんだけど、でも、こいつがどうしても見たいって言うからさ。……あとは部長の許可が必要なんだ。今、ちょっと話せる?」
怪訝な表情の小田島愛に、中島が淡々と事情を説明する。しかし、説明が終わっても彼女の表情は冴えない。それでも必死に考えている空気は、おそらく癖なのだろう、右手の親指の腹でしきりに下唇をなぞる彼女の仕草から痛いくらいに伝わってくる。
彼女は考えているのだろう。佑次たちが介入してきたときのメリットとリスク、なずなの心理状態やタイミングなどを多方面から、あらゆる場面を想像して。
彼女の返答次第では、もしかしたら門前払いを食らうかもしれない。でも、慎重に事を運んでいるキノコにとっては、それらを天秤にかけざるを得ないのだ。彼女は今、指の腹で唇をなぞりながら必死に考えている。なずなを思い、どうするべきかを。
固唾を飲んで見守っていると、やがて小田島愛が中島、佑次の順に顔を見た。もうひとりの自分が、さっきの中島に対してけっこう散々な言われようだな、などと心の中で苦笑を漏らしたりもしていたが、彼女の瞳に射られたとたん、シャキッと背筋が伸びた。
「話しに行ってもいいとは思うけど、なずなを刺激するようなことだけは言わないで。今、すっかり疑心暗鬼になってて、誰のことも信用しなくなっちゃったの。私たちは考えようとしてなかったんだよ、なずなの気持ちとか、どれだけ追い詰められていたかとか。そういうのが一気に出ちゃって……。きっかけは中島とケンカしたことだったけど、ずっとずっと、ひとりで溜め込んでたんだと思う。わかるでしょ? 中島なら」
「わかってる」
「浅石君も。いいね?」
「もとはと言えば全部俺のせいだ、絶対に刺激しない。約束する」
「うん。なら、行っていい」
小田島愛の声は淡々としていたが、目は中島のことも佑次のことも責めている色をしていた。当然だ。なずな、中島に続いて今度は彼女が板挟みになっているのだから。その元凶である佑次に向けられる目は、中島以上に厳しいものでなければおかしい。
それでも佑次は、小田島愛の非難の眼差しから目を逸らさずしっかりと頷き、なずなに向かって足を一歩踏み出す中島に続いて自身も床を踏みしめる足に力を込めた。あんなにも頑なだった中島に歩み寄りが見られはじめた今だからこそ、軋轢もわだかまりも解消して全員で同じ方向を向かなければ、ラスボス教頭を相手に勝ち目なんてあるはずがない。
話せばわかってくれる、誠心誠意謝ればきっと許してくれる。
そう自分に言い聞かせながら、そっぽを向いているなずなに一歩ずつ近づいていく。
けれど――。
「あっ」
「待って、ただ話がしたいだけだからっ」
なずなは突如、逃げ出した。自分のほうに近づいてくる気配を察知したのだろう、ガタンッと大きな椅子の音をさせるや否や、驚くクラスメイトたちの間を縫って廊下に駆け出していく。中島と佑次、それに小田島愛も彼女のあとを追って教室を飛び出す。
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