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私の人生
しおりを挟む私の人生は、幸せだなんて言えるようなものじゃなかった。
お父さんの顔は覚えていない。お母さんの顔は思い出したくない。
気づけばお父さんは家にいなくって、お母さんに怒られないように押し入れの中で息を潜めて過ごす幼少期を送っていた。
児童養護施設に保護されるまで、小学校に行ったこともなかった。
十才の頃に児童養護施設に保護されて、学校に通うようになった私の世界は多少広がったけれど、待っていたのは幸せな毎日じゃなくて、虐めだった。
最初は何人か友達がいた、と思う。だけどいつの間にか私はひとりぼっちで、結局学校でも息を潜めて過ごしていた。
高校を卒業して、一人暮らしを始めて、ようやく自分の居場所ができたと思った。
息を潜めなくていい。安心できる場所。
だけどそれも、長くは続かなかった。
最初は視線だったと思う。どこにいても誰かの視線を感じた。
そのうち、無言電話、たくさんの手紙、何度も鳴るインターホン。
正体不明のストーカーだった。
毎日のそれらに、心休まる時なんてあるわけなくて、私の心と体は悲鳴をあげていたんだと思う。
安心できるはずの家が安心できなくて、私はフラフラと家を飛び出していた。
ぼんやりする頭で、とにかく逃げなきゃって。それだけが頭を占めてた。
逃げる場所なんて、私にはないのに。
フラフラと。フラフラと。
目的地もなく歩き続けて、いつの間にか人気がなく薄暗い公園にいた。
キイ、キイ、とブランコが揺れていて、私は引き寄せられるようにブランコに近づいた。
そのときだ。
ドン!と後ろから何かがぶつかってきて、私はフラりと前によろめいた。
なんだか、腰の辺りが熱い。
振り返ろうとした私の首の後ろを、熱い何かが走る。首を中心に、頭がカッと燃えるように熱くなって、目の前がチカチカする。
体に力が入らなくて、ガクンと崩れ落ちるように倒れた。
ゴポリ、と喉の奥からせり上がってきたそれを吐き出す。口の中に、鉄の味が広がる。
黒く塗りつぶされていく視界に、何も考えられない。
ああ、死ぬのか。
ぼんやりとそう思って、私の意識はぶつりと切れた。
こんなに呆気なく人生が終わるなら、幸せになるために、もっと足掻けばよかった……。
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