やり直し少女は幸せを目指す

香山

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目が覚めれば三才児?

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 私は死んだ。
 あのとき確かに、死んだはずだ。
 それなのにどうして、私はベッドに寝ているんだろう……。
 見覚えのない天井をじっと見つめて考える。

 ふかふかなベッドの感触に、心地よい温かさ。寝起き特有のぼんやりとした感覚。本の少しの喉の乾き。
 これが死後の世界だなんて思えない。

 もしかして、死んでなかった、とか……?
 いやいや、そんなわけない。私はあのとき確かに死んだ。
 だって、ブランコの近くで血だらけで倒れる私の体も、ひっそりと行われた私のお葬式も、ぼんやりとだけど見た記憶があるし。
 それに、しばらくいろんな所をさ迷ったあとに、スゥ……って自分の存在が消えていくのを感じた。

 それなのに、どうして……。

「………………」

 とりあえず、現状を把握するためにゆっくりと起き上がる。
 うん、やっぱり体の感覚がある…………って、え?!
 私は自分の手を見下ろして目を丸くした。
 だって……。

「ちいさい……」

 小さな小さな、まるで赤ちゃんのような小さな手。
 私が手を握ればその小さな手が拳を作り、私が手を開けば小さな手が手を開く。

「なん、で……?」

 わけがわからない。
 手だけじゃない。腕だって短くなってるし、視線も低い。
 体に掛かっていた毛布を退かせば、そこには小さな足がある。

 どういうこと?
 これじゃあまるで赤ちゃんだ。
 死んだら赤ちゃんの姿になるの?
 どうしてこんなにしっかり感覚があるの?
 私は死んだんじゃ……。

「しおりちゃーん。そろそろ起きる時間よ~……って、あら。もう起きてたのね」

 ぐるぐると考え込んでいると、がちゃりとドアが開いて女の人が入ってきた。
 栗色の長い髪に、華奢な体。ややたれ目のキレイな女性だ。
 なんとなく見覚えのあるその人は、私を見ると目を丸くして、それからにこりと笑った。

「おはよう、しおりちゃん。今日はしおりちゃんの三才のお誕生日よ」

 え……? この人は今、何て言った?
 言われた事が、理解できない。
 だって。なんで……。それじゃあ、この、人は……。

「お、かあ、さん……?」
「あら。しおりちゃん、寝ぼけてる?」

 笑顔で私の顔を覗き込む女の人。

 ウソだ。だって、そんな……。

 だけど“詩織”は私の名前だし、見覚えのあるこの人は、間違いなく若い頃のお母さんだ。
 まるで赤ちゃんのような自分の体に、若い頃のお母さん。そして今日は三才のお誕生日。
 つまり、これは……。

 時間が、巻き戻った……?

「う…………ぁ…………」
「しおりちゃん?」

 なんで?
 どうして?

「ヒュ…………っ……ぁ…………ハッ、ハッ、」

 だって私は死んだんだ。
 なのに、なんで……。

 意味がわからない。わかりたくない。
 なんでなんでなんで。
 ぐるぐると同じ言葉が頭の中を回っていて、頭がクラクラする。息が、苦しい。
 ポロポロと涙がこぼれる。

「史和さん! 詩織が! 詩織が……!」
「詩織?!」

 真っ青な顔で何か叫んでいる若い頃のお母さんと、焦った表情で部屋に飛び込んできた男の人を見たのを最後に、私は意識を手放した。


 
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