3 / 5
目が覚めれば三才児?
しおりを挟む私は死んだ。
あのとき確かに、死んだはずだ。
それなのにどうして、私はベッドに寝ているんだろう……。
見覚えのない天井をじっと見つめて考える。
ふかふかなベッドの感触に、心地よい温かさ。寝起き特有のぼんやりとした感覚。本の少しの喉の乾き。
これが死後の世界だなんて思えない。
もしかして、死んでなかった、とか……?
いやいや、そんなわけない。私はあのとき確かに死んだ。
だって、ブランコの近くで血だらけで倒れる私の体も、ひっそりと行われた私のお葬式も、ぼんやりとだけど見た記憶があるし。
それに、しばらくいろんな所をさ迷ったあとに、スゥ……って自分の存在が消えていくのを感じた。
それなのに、どうして……。
「………………」
とりあえず、現状を把握するためにゆっくりと起き上がる。
うん、やっぱり体の感覚がある…………って、え?!
私は自分の手を見下ろして目を丸くした。
だって……。
「ちいさい……」
小さな小さな、まるで赤ちゃんのような小さな手。
私が手を握ればその小さな手が拳を作り、私が手を開けば小さな手が手を開く。
「なん、で……?」
わけがわからない。
手だけじゃない。腕だって短くなってるし、視線も低い。
体に掛かっていた毛布を退かせば、そこには小さな足がある。
どういうこと?
これじゃあまるで赤ちゃんだ。
死んだら赤ちゃんの姿になるの?
どうしてこんなにしっかり感覚があるの?
私は死んだんじゃ……。
「しおりちゃーん。そろそろ起きる時間よ~……って、あら。もう起きてたのね」
ぐるぐると考え込んでいると、がちゃりとドアが開いて女の人が入ってきた。
栗色の長い髪に、華奢な体。ややたれ目のキレイな女性だ。
なんとなく見覚えのあるその人は、私を見ると目を丸くして、それからにこりと笑った。
「おはよう、しおりちゃん。今日はしおりちゃんの三才のお誕生日よ」
え……? この人は今、何て言った?
言われた事が、理解できない。
だって。なんで……。それじゃあ、この、人は……。
「お、かあ、さん……?」
「あら。しおりちゃん、寝ぼけてる?」
笑顔で私の顔を覗き込む女の人。
ウソだ。だって、そんな……。
だけど“詩織”は私の名前だし、見覚えのあるこの人は、間違いなく若い頃のお母さんだ。
まるで赤ちゃんのような自分の体に、若い頃のお母さん。そして今日は三才のお誕生日。
つまり、これは……。
時間が、巻き戻った……?
「う…………ぁ…………」
「しおりちゃん?」
なんで?
どうして?
「ヒュ…………っ……ぁ…………ハッ、ハッ、」
だって私は死んだんだ。
なのに、なんで……。
意味がわからない。わかりたくない。
なんでなんでなんで。
ぐるぐると同じ言葉が頭の中を回っていて、頭がクラクラする。息が、苦しい。
ポロポロと涙がこぼれる。
「史和さん! 詩織が! 詩織が……!」
「詩織?!」
真っ青な顔で何か叫んでいる若い頃のお母さんと、焦った表情で部屋に飛び込んできた男の人を見たのを最後に、私は意識を手放した。
0
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
最高魔導師の重すぎる愛の結末
甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。
いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。
呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。
このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。
銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。
ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。
でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする……
その感は残念ならが当たることになる。
何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。
私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる