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第一章

漆黒のナイフ使い

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 目が覚めるとオッドアイの少女がこちらの顔を覗きこんでいた。

 「あ、目が覚めたみたいだね」
 「私としては二度寝をしたい気分ではあるがね」

 その言葉を聞いてケーレスはくすりと笑ってちょこんと地べたに座った。
 彼女の服装はそこまで露出の多いものじゃない。
 だが太ももとか胸の鎖骨辺りは見えるようになっていて、それがひどく艶
なまめ
かしいように感じた。

 「起きていたのなら起こしてくれても良かったのだがね」
 「さすがに……寝ている人に声をかける勇気はないよ。人って寝起きだと機嫌が悪くなるんだろう?」

 そこらへんは死神と人間の違いと言うべきなのか。難しいところではあるが。
 もっとも自分は寝起きだろうと機嫌が悪くなったりはしない。
 否、女の子に起こされて機嫌が悪くなったりはしないと言う方が正しいのかも知れんな。
 元々、感情の起伏はそこまで無いので案外、どっちでも良いのかも知れないが。

 「私が起きるまで暇だっただろ? それとも何かしていたのか」
 「ああ、一応ね……料理を作ってたかな。その後はずっと君の寝顔を見ていたよ」

 顔を赤くしながら、だけども誇らしく言うケーレス。
 彼女に料理が出来るとは思っていなかった。てっきり不器用なヤツだと思っていたのだが。
 ふむ……いかんな。人を見た目で判断しては。以後、気をつけねばなるまい。

 「料理か……どのような味か楽しみだ。一体、どんな料理を作ったのかな」
 「一応、コーンスープなんだけどね…………不味いなら捨ててくれても構わないよ」
 「食べてから決める事にしよう。もっともケーレスが作ってくれたのだろう? 美味いに決まっているさ」

 私の言葉を聞いて照れ恥ずかしそうにしながらも少し笑みを浮かべるケーレス。
 その手には多少の傷が付いていて料理に苦戦していた事を思わせる。

 「手に傷が出来ているようだが」
 「え? ああ、本当だね……やっぱり馴れない事をするもんじゃないね。すぐに治すよ」

 彼女はそう言って掌から光の粒子を浮かべる。それは緑色の聖なる光、おそらくは回復魔法だろう。
 それを自分の傷の部分に当てていく。すると傷はテレビの逆再生のようにみるみる内に消えていった。

 「しかし有難いものだ。久しぶりの……いや、はじめての手料理かも知れんな」

 「そっか……それならちゃんと味わって食べてくれよ。その方がボクも嬉しい」

 ケーレスは厨房からスープを取ってきて私に渡す。
 本当は料理をテーブルで食べてみたいのだが、ここにはそれがない。だから仕方なくベットに座って食べた。

 「宗室くん。今日はボクも戦ってみようと思うんだ」
 「そうか」
 「え、えっとだからさ……その……」
 「言いたい事ぐらい分かっている。私も元より君と同行するつもりだ」
 「ふぅ……そっか。安心したよ」

 そう言ってケーレスは胸を撫で下ろす。だがそんな彼女に一つ疑問が浮かんだ。

 「だが、君は戦うのが嫌いではなかったかな?」
 「まあね、だけど君だけに戦わせておくのも申し訳がないだろう?」
 「それは分かった。しかし武具店の話によるとこの世界のモンスターは一般的なモンスターでも十分強いらしいが大丈夫なのか?」

 それを聞くとケーレスは膨らまない平らな胸を張って鞘から武器を取り出した。
 それは一本のナイフ。刃は黒でコーティングされていて柄の部分も黒い。

 「それは……?」
 「ここの宿の無料サービスだそうだよ。君は寝ていたからね、その間にボクが貰っておいたんだ」

 つまりは見た目こそ良いものの性能はあまり期待するべきではないようだ。
 とはいえ、少女に丸腰で戦われるよりはマシな訳で。

 「よし……これから君は漆黒のナイフ使いだ。私と共にモンスターを倒そうじゃないか」

 その言葉にケーレスはナイフを両手で持ちながらこくんと頷いた。



 と言うわけで外の草原、さすがにゴブリン相手は危険なので異世界最弱のモンスター。スライムと戦わせているのだが。

 「て、ていっ……やあっ」
 「ふしゅる? しゅるしゅる?」

 えいえいと必死でナイフを振り回すケーレス。攻撃はしっかりと当たっていてスライムにある程度のダメージは与えているのだが。
 いかんせん、力が弱すぎるのかそれほど攻撃が効いているようには見えない。

 「も、もうダメだ……」

 僅か数回ナイフを振っただけで息が荒れて倒れそうになっている。

 「ほら……頑張ってごらん。君ならきっと出来る」 
 「む、無理……ボクには…………ひうっ!」

 ナイフの振るい過ぎが原因で疲れている所にモンスターの触手が襲い掛かる。
 ぺちぺちという音と共に触手に叩かれる少女。私はそれを黙って観察する。

 「あう……もう死んじゃうよ、ボク。ひうっ、やぁっ」
 「そろそろ助けるか……」

 私は歩いてスライムの所まで歩くとスライムに軽く触れる。
 するとスライムが粉々に飛び散り、水しぶきのように辺りに飛び散った。

 「ううっ……濡れてしまったよ」

 そう言って犬のように身体をぱたぱたさせてスライムの残骸を振り払うケーレス。
 そしてその後、彼女は半目で私を見ながら。

 「次はもっと早く助けてくれよ……そうじゃなきゃ死んでしまうだろう?」 
 「すまない。次からは気をつけるとしよう」

 冗談めいた風に言って、それにケーレスは少し不機嫌そうな顔はするが、私達は手を繋いで町へと帰った。
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