かうんと・ゆあ・まーくす!

柿ノ木コジロー

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第二章 7月

セレブの手は止まらないそうまるで蝶のごとく

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 ハギラップをようやく『5種類の』小袋に仕分け終えると、今度は委員長に一番隅のテーブルに呼ばれた。
「おつかれ、紀美さん」
 キサラギサンというのが微妙にめんどくさくなったのか、いつの間にか委員長にキミサンと呼ばれている。
「けっこう作業が早かったね」

 そりゃ一回すべてのハギラップマークを『間違えて』仕分けていたので、指先で扱う感触に、まだ慣れがあったかもしれない。

「今日は、もう少し前段階の作業でね、『番号別の仕分け』をやってほしいんだけど」
「はあ」
「まあ見て」
 招かれた先のテーブル上には、大きな段ボール箱と中くらいの段ボール箱。
 その間に座り、コケシエミリが黙々とハサミを使っている。
 左に据えられた大箱には、回収されて一ヶ所に集められたマークが箱からはみ出さんばかりに山盛りになっていた。
 あるものは茶封筒に詰められ、あるものはビニル袋に入り、またあるものはそのまんまの姿で。紙のものあり、ビニルらしいものあり、それぞれの家庭で切ったままの姿で、箱の中に一大混沌を作り上げている。
 エミリはその大箱からひとつかみマークを取り出して、黙々とハサミで周りを切りそろえ、整えられた紙片を今度は右にある中くらいの箱に投げ入れている。
 周りの切りくずは、ある程度溜まると、テーブルの縁に養生テープで留めた大きなビニル袋に払い落している。
 大箱と中箱は覗きこむとどちらも模造紙できっちりと内張りがされていた。
 聞くと、クラスごとに置いた小さな箱にも内張りはしてあるのだそうだ。
「回収箱にバラで投げ込む子もけっこういるから、小さなマークがすき間に入らないようにしてるんだ」

 本当に細かい気配りをしているようだ。

「エミリさんがやってるのが、マークの切りそろえ作業。家庭によって切り方が微妙に違うから、ここでだいたい揃えるのが、仕事」
「へええ」
 感心とも呆れ声ともつかぬヤギじみた返答をしてしまったが、委員長はおおらかにうなずく。
「うちのサークルでは、台紙に貼る方法を採用しているから、台紙に貼り易くてしかも、メーカーや点数の判別をつけやすくするために、ここでひと手間かけるんだ。で、次」
 中くらいの箱の向こうに、今度はミドリコが座っている。
 ミドリコは中箱の中からひとすくい、マークをすくって目の前に拡げ、それを今度は目にもとまらぬ速さで右脇にずらりと並べられたイチゴパックと菓子箱に放り込んでいる。
 どの菓子箱も中が細かい仕切りで十二くらいに分けられていて、それぞれの仕切りの上にはタグシールで番号がついている。二十くらい並んだイチゴパックにもそれぞれ番号がついていた。
「ミドリコさんがやっているのが、サンマーク番号ごとの仕分け。で、今日お手伝いしてほしいのが、これね」
「よろしくね」
 ミドリコが嫣然たる笑みで顔を上げた。驚いたことに、手は止まっていない。
「向かい合わせで座っていただければ、作業がしやすいかしら。紀美さん、利き手はどちら?」
「左ですけど」
「じゃあ好都合ね。わたくし右利きだから、この向かい側に座ってちょうだい」
 中箱を右側に、イチゴパック等の仕分けエリアを左に据えて、紀美は席についた。
 まん中に山にした各種マークを、少しずつ手近に寄せ、番号別に分けていき、ある程度溜まったら左側のエリアに移せばいいらしい。
 イチゴパックと菓子箱とそれぞれ番号別に、しかも紀美の側から見ても一目で番号が判るようになっているのは良かったが、なぜか微妙に番号順になってはいない。
 それでも作業を始めねば、とまずは、ひとつかみ山から取り上げて目の前に拡げる。
「慣れないうちは」遠くから飛ぶ委員長の声に、紀美はびくりと手を止める。
「拡げたマークをまず、全部表返しにして、番号を確認ね」
 委員長、さりげなく初心者を監視していたようだ。
「はあ」
 目の前には圧倒的に、エンジェルというメーカーのマークが多かった。
 マヨネーズやドレッシングの蓋を覆っていたプラ素材ばかりだったが、大きめのものが多くてエンジェルのイラストもあって、判り易い。
 とりあえずそれをまとめて区分け箱に……
「ない……?」
 エンジェルマヨネーズの区分け箱を探しまくっていた紀美に、ミドリコが優しく
「エンマヨは数が多いでしょ? 一番はしっこの大きな箱に」
「ああ! ほんとだ」
 確かに、07の『エンマヨ』のマークは、端のVIPルームとも言えそうな特別用意された大きな箱に溜めこまれていた。
「サンマークって、何種類あるかご存知?」
「えっと、確か……」
 冷蔵庫に貼った一覧表を脳内に蘇らせる。「三十くらい、かな」
「現在、五十六種類なの、でもマークではなくて、インクカートリッジとか牛乳なんかの紙パックを回収する企業もあるから、ここでマークを仕分けるのは約五十くらいよ」
 五十、それでもじゅうぶん多すぎる。
 それでも、ぱっと見ただけで、あんなに悩まされたハギラップだけは一目で見分けられるようになっていた。
 そう告げると、ミドリコがうふふ、と笑って言った。
「あなたのファースト・マークね」
「なんですかそれは」
「わたくしにも、ありましたわ……そんな頃が」
 遠い目になりながらも、それでもミドリコの手は一瞬たりとも休むことなく、美しき蝶のように動き続けていた。
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