かうんと・ゆあ・まーくす!

柿ノ木コジロー

文字の大きさ
10 / 39
第二章 7月

傘、忘れてたよ

しおりを挟む
 作業終了間近、紀美が心の中で大きく伸びをしていたところに、委員長が仕事ぶりを確認しにやって来た。
「どう、紀美さん」
「仕分けがだんだんと早くなってきましたわよ」
 ミドリコのコメントを受けて紀美に笑顔を向けたのはほんの一瞬で、委員長はすぐに仕分け箱を厳しい目つきで見渡した。すぐに
「これ」
 イチゴパックに溜められた46・ヤマト冷凍食品のマークに手を突っ込んだ。
「04のチクワがあるけど」
 紀美も目を近づけると、46のパックの中になぜか04が数枚混在していた。
 どちらも透明なビニル地に赤いインクで印刷されており、文字面も何となく似通ってはいるが、よく見れば違いはすぐ判るものだった。
「あ……すみません」
 身に覚えがあった紀美は、あわてて身を乗り出す。「すぐ直します」
 気をつけてね、と言われるかと身がまえていたが、意外にも委員長は優しく笑った。
「これは案外、間違えやすいんだよね」
 いいよ私がやるから、と、笑顔で言いながら、しかし委員長の指先はマッハのスピードで、04のマークだけつまみ出して本来の菓子箱の仕切りに移し換えていた。

 教室前までルイを探しに行ったら、今日はお友だちと帰るから、とあっさり言われて紀美はひとりさびしく、学校を出る。
 三波さんちのハルカちゃんとは相変わらず仲がよいようだが、なぜか一緒に帰ることはなくなっていた。代わりに、もう少し学校に近いあたりに住んでいる女の子たちと、この頃はよく付き合っているらしい。
 優香となるべく距離を置きたい紀美にとっては、正直ありがたいことだ。

 いつの間にか雨は上がっていた。

 学校から出て少し行ってから、紀美は雲の切れ間からのぞく青空に向かって大きく両腕をのばし大きく息をすって、今度こそ、ほんとうに、大きく息を吐いた。

「紀美さーん」
 通りの向こう側で、誰か手を振っている。
 と、思う間もなく、車の過ぎるのももどかしげにこちらに走って渡ってきた。
 驚いたことに、委員長だった。
「紀美さん傘、忘れてたよ」
 あっ、ありがとうございます、と紀美は何度も頭を下げる。
 委員長の家は学校を挟んで紀美の家とは反対方向と聞いていた。
 わざわざ届けに来てくれたのだろうか。
「でも昇降口におきっ放しだったのに……よく判りましたね」
「エミリさんが、これ紀美さんのだ、って」

 さすがエミリ。傘情報まで網羅していたのか。
『傘情報まで網羅。エミリ、恐るべし』
 脳内にはなぜか、春日の声でこうナレーションが入る。

「今日はお疲れさま」
 そう爽やかに言う委員長は、外で見るとまるっきり鬼オーラが感じられなかった。
「あのー」
「じゃ、また来週ね!」
 バイバーイ、と自分の傘を腰に構え、委員長は颯爽と帰っていった。
 手を振って見送ってから、今度はほお、と小さく息をつく。
 来週もまた、行ってしまうんだろうか、あの場所に。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...