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第二章 7月
傘、忘れてたよ
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作業終了間近、紀美が心の中で大きく伸びをしていたところに、委員長が仕事ぶりを確認しにやって来た。
「どう、紀美さん」
「仕分けがだんだんと早くなってきましたわよ」
ミドリコのコメントを受けて紀美に笑顔を向けたのはほんの一瞬で、委員長はすぐに仕分け箱を厳しい目つきで見渡した。すぐに
「これ」
イチゴパックに溜められた46・ヤマト冷凍食品のマークに手を突っ込んだ。
「04のチクワがあるけど」
紀美も目を近づけると、46のパックの中になぜか04が数枚混在していた。
どちらも透明なビニル地に赤いインクで印刷されており、文字面も何となく似通ってはいるが、よく見れば違いはすぐ判るものだった。
「あ……すみません」
身に覚えがあった紀美は、あわてて身を乗り出す。「すぐ直します」
気をつけてね、と言われるかと身がまえていたが、意外にも委員長は優しく笑った。
「これは案外、間違えやすいんだよね」
いいよ私がやるから、と、笑顔で言いながら、しかし委員長の指先はマッハのスピードで、04のマークだけつまみ出して本来の菓子箱の仕切りに移し換えていた。
教室前までルイを探しに行ったら、今日はお友だちと帰るから、とあっさり言われて紀美はひとりさびしく、学校を出る。
三波さんちのハルカちゃんとは相変わらず仲がよいようだが、なぜか一緒に帰ることはなくなっていた。代わりに、もう少し学校に近いあたりに住んでいる女の子たちと、この頃はよく付き合っているらしい。
優香となるべく距離を置きたい紀美にとっては、正直ありがたいことだ。
いつの間にか雨は上がっていた。
学校から出て少し行ってから、紀美は雲の切れ間からのぞく青空に向かって大きく両腕をのばし大きく息をすって、今度こそ、ほんとうに、大きく息を吐いた。
「紀美さーん」
通りの向こう側で、誰か手を振っている。
と、思う間もなく、車の過ぎるのももどかしげにこちらに走って渡ってきた。
驚いたことに、委員長だった。
「紀美さん傘、忘れてたよ」
あっ、ありがとうございます、と紀美は何度も頭を下げる。
委員長の家は学校を挟んで紀美の家とは反対方向と聞いていた。
わざわざ届けに来てくれたのだろうか。
「でも昇降口におきっ放しだったのに……よく判りましたね」
「エミリさんが、これ紀美さんのだ、って」
さすがエミリ。傘情報まで網羅していたのか。
『傘情報まで網羅。エミリ、恐るべし』
脳内にはなぜか、春日の声でこうナレーションが入る。
「今日はお疲れさま」
そう爽やかに言う委員長は、外で見るとまるっきり鬼オーラが感じられなかった。
「あのー」
「じゃ、また来週ね!」
バイバーイ、と自分の傘を腰に構え、委員長は颯爽と帰っていった。
手を振って見送ってから、今度はほお、と小さく息をつく。
来週もまた、行ってしまうんだろうか、あの場所に。
「どう、紀美さん」
「仕分けがだんだんと早くなってきましたわよ」
ミドリコのコメントを受けて紀美に笑顔を向けたのはほんの一瞬で、委員長はすぐに仕分け箱を厳しい目つきで見渡した。すぐに
「これ」
イチゴパックに溜められた46・ヤマト冷凍食品のマークに手を突っ込んだ。
「04のチクワがあるけど」
紀美も目を近づけると、46のパックの中になぜか04が数枚混在していた。
どちらも透明なビニル地に赤いインクで印刷されており、文字面も何となく似通ってはいるが、よく見れば違いはすぐ判るものだった。
「あ……すみません」
身に覚えがあった紀美は、あわてて身を乗り出す。「すぐ直します」
気をつけてね、と言われるかと身がまえていたが、意外にも委員長は優しく笑った。
「これは案外、間違えやすいんだよね」
いいよ私がやるから、と、笑顔で言いながら、しかし委員長の指先はマッハのスピードで、04のマークだけつまみ出して本来の菓子箱の仕切りに移し換えていた。
教室前までルイを探しに行ったら、今日はお友だちと帰るから、とあっさり言われて紀美はひとりさびしく、学校を出る。
三波さんちのハルカちゃんとは相変わらず仲がよいようだが、なぜか一緒に帰ることはなくなっていた。代わりに、もう少し学校に近いあたりに住んでいる女の子たちと、この頃はよく付き合っているらしい。
優香となるべく距離を置きたい紀美にとっては、正直ありがたいことだ。
いつの間にか雨は上がっていた。
学校から出て少し行ってから、紀美は雲の切れ間からのぞく青空に向かって大きく両腕をのばし大きく息をすって、今度こそ、ほんとうに、大きく息を吐いた。
「紀美さーん」
通りの向こう側で、誰か手を振っている。
と、思う間もなく、車の過ぎるのももどかしげにこちらに走って渡ってきた。
驚いたことに、委員長だった。
「紀美さん傘、忘れてたよ」
あっ、ありがとうございます、と紀美は何度も頭を下げる。
委員長の家は学校を挟んで紀美の家とは反対方向と聞いていた。
わざわざ届けに来てくれたのだろうか。
「でも昇降口におきっ放しだったのに……よく判りましたね」
「エミリさんが、これ紀美さんのだ、って」
さすがエミリ。傘情報まで網羅していたのか。
『傘情報まで網羅。エミリ、恐るべし』
脳内にはなぜか、春日の声でこうナレーションが入る。
「今日はお疲れさま」
そう爽やかに言う委員長は、外で見るとまるっきり鬼オーラが感じられなかった。
「あのー」
「じゃ、また来週ね!」
バイバーイ、と自分の傘を腰に構え、委員長は颯爽と帰っていった。
手を振って見送ってから、今度はほお、と小さく息をつく。
来週もまた、行ってしまうんだろうか、あの場所に。
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