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第五章 10月
続くトラブル
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えっ、とざわめく室内。何かの間違いでは、とメンバー総員で捜索を開始するが、やはり、どこを探しても仕分けされた確定分のマークは、どこにも見当たらなかった。
しかも。
「仕分け前のものも、何だか少なくなっているような気がする」
ミドリコが呆然とつぶやいた。
その時紀美はふと、委員長の病室前で聞いた会話を思い出した。
『みっちゃんちに置いてもらってる』。成島の夫は確かそう言っていた。
「実は、委員長のお見舞いに行った時に……」
一部始終を話して、
「委員長に訊けば、もしかしたらその『みっちゃん』という人がここに見当たらない分を持っているかも……」
そう告げたのだが、ミドリコはいつになく厳しい表情だった。
「『みっちゃん』というお名前は、私も初耳ですわ。委員長のことですから、よくよく信用のおけない方でなければ、サンマークは預けないと思いますが。それに委員長の指示ならば、仕分け前のものならばいざ知らず、仕分けしたものまでわざわざ、外部の方に預けることはないはずです。ご自分で作業されるのでしたら、仕分け前のものだけを持ち出すでしょうね」
「……誰かが盗んだ、ってコトなのかな」
伊藤が宙をにらんで、独り言のように言いつのる。
「確か、前にショージが来て鍵を引き受けたことがあったけど……週明けに会合あるから、とか何とか」
伊藤の口調はだんだんに熱を帯びてきた。
「でもあのあと、何となく気になって予定表見たんですけど、週明けに会合なんて、ひとつもなかったんです。その時はあまり深く考えなかったんだけど、もしかしたらショージのヤツが、教頭に言われて盗りにきた……とか。何か前々から、サンマークの様子を覗きにきてたし、アヤシイんじゃないかな、って」
「あやしい、あやしげなショージせんせ」
春日もつぶやいたその時
「あ、お疲れさまですー」
ガラガラと戸が開いて、伊藤の想い人・ヤマダが入ってきた。
「何だか、成島さん休まれたらしいですね。みなさんもタイヘンですね」
伊藤が、我がことのように「いえいえそんな」とお辞儀を返している。
「また、ヨージローが何かしたの?」
フジコの問いに、ヤマダは「いやいや」大げさに手を振った。
「たまたま通りかかったら、何だか大きな声が聞こえたので気になって」
何か、あったんですか? と心配そうな表情のヤマダに、ミドリコがいえ何でも、と涼しげに答えた。
なら良かった、とヤマダが去って行ってしばらくしてから、伊藤がミドリコに喰ってかかった。
「ヤマダ先生に相談しても、よかったんじゃありません?」
ミドリコは何も答えず、あごに手を当てている。
「ショージがもしかしたら、教頭とグルになって……」
「お待ちなさいな、伊藤さん」
おもむろに答えたミドリコ、あくまでも口調はのんびりしている。
「とりあえず、委員長に確認してから……その後また、対策を考えましょ」
いったんトラブルが起き始めると、悪いことは連鎖反応をみせることがあるようだ。
次の週には、作業開始直後に、いきなりミドリコとフジコが教頭に呼びつけられた。
二人が帰ってきたのは、すでに作業終了を少し過ぎた時間だった。
心配して残っていたメンバーを前に、ミドリコが言った。
どことなく、眉間に憂いをよせて。
「スーパーふじよしさんの三店舗で集めていたサンマーク回収箱を、すみやかに撤去してほしい、と連絡がありました」
フジコは床を見つめたままだった。伊藤が詰め寄る。
「なぜですか!?」
答えようとしないフジコに代わり、ミドリコが答える。
「ふじよし緑町店で、鴨池小の児童が不正な回収を行った、と」
フジコの肩がふるえている。
エミリはどこかで、話を聞いていたようだ。
「洋二郎くんが、なんかやらかしたって言われたんだ?」
本当に、申し訳ありません。
フジコの声はいつになく小さく、精気がなかった。
事の顛末を後から、紀美も詳しく知ることができた。
ふじよし緑町店には、かねてから鴨池小と並んで、近くの私立小中学校のサンマーク回収箱が設置されていた。
スーパーに来たついでにサンマークを寄付しようと思ったお客は、どちらかひいきの学校にマークを入れるか、両方に適当に分けていれるかという選択になる。
たいがいはどちらも同じ程度にサンマークが入っていたのだが、たまに回収箱に、どちらかの学校ばかり大量にマークが入れられていて、片方にはほとんど、ということもあった。
教頭からの話は、こうだった。
遊んだ帰りに、フジコの次男が緑町店に寄って、何気なく回収箱をのぞいてみた。
他校の回収箱はいっぱいになっていた、だが、鴨池小の箱がほとんど空に近かった。それを見て、腹を立てた彼はつい、他校の回収箱をひっくり返し、中身を自分の学校の箱に詰め込み始めた。
そこを店員に発見され、すぐさま店長が呼ばれたのだそうだ。
店長は社長に報告、社長は激怒して、すぐに学校に飛んできた。
「例えサンマークとは言え、他の団体のものを盗ろうとするのは、万引きに等しい行為だ、とふじよしの社長は校長にさんざん、噛みついたそうよ」
普段は温和な校長も、すぐさま教頭を呼んで事情を話し、教頭からメンバーに通達を、ということになったのだそうだ。
「洋二郎くんにも詳しい事情を尋ねたいんだけど、全然話してくれないらしくて」
ミドリコもかなり、弱気になっているようだった。
「今まで、ふじよしさんからの回収分がかなりの量になっていたけど、これからは、あてにせずに何とかがんばりましょう」
フジコはただ黙って、深く頭を下げた。
「……やっぱり、先生方のどなたかにちゃんと相談した方がいいと思います」
伊藤はいつになく神妙な面持ちだった。
「勝山校長は、サンマークにそれなりに理解ある方だったけど、教頭に押され気味だし、このままでは私たち、完全に潰されてしまいます。だから例えばヤマダ先生とか」
うん、とミドリコはうなずきはしたものの、しっかりと伊藤を見据えて言った。
「先生に相談することは、いったん私に預からせていただけないかしら? 見当たらないマークの件も必ず、解決させるから」
脇で聞いていた紀美は、思わず姿勢を正す。
いつもはふんわり、おっとりしたミドリコにふと、委員長の姿が重なってみえた。
伊藤も何か感じるものがあったのか
「……」間があったものの、素直に、「はい」と返事をして一歩退いた。
しかも。
「仕分け前のものも、何だか少なくなっているような気がする」
ミドリコが呆然とつぶやいた。
その時紀美はふと、委員長の病室前で聞いた会話を思い出した。
『みっちゃんちに置いてもらってる』。成島の夫は確かそう言っていた。
「実は、委員長のお見舞いに行った時に……」
一部始終を話して、
「委員長に訊けば、もしかしたらその『みっちゃん』という人がここに見当たらない分を持っているかも……」
そう告げたのだが、ミドリコはいつになく厳しい表情だった。
「『みっちゃん』というお名前は、私も初耳ですわ。委員長のことですから、よくよく信用のおけない方でなければ、サンマークは預けないと思いますが。それに委員長の指示ならば、仕分け前のものならばいざ知らず、仕分けしたものまでわざわざ、外部の方に預けることはないはずです。ご自分で作業されるのでしたら、仕分け前のものだけを持ち出すでしょうね」
「……誰かが盗んだ、ってコトなのかな」
伊藤が宙をにらんで、独り言のように言いつのる。
「確か、前にショージが来て鍵を引き受けたことがあったけど……週明けに会合あるから、とか何とか」
伊藤の口調はだんだんに熱を帯びてきた。
「でもあのあと、何となく気になって予定表見たんですけど、週明けに会合なんて、ひとつもなかったんです。その時はあまり深く考えなかったんだけど、もしかしたらショージのヤツが、教頭に言われて盗りにきた……とか。何か前々から、サンマークの様子を覗きにきてたし、アヤシイんじゃないかな、って」
「あやしい、あやしげなショージせんせ」
春日もつぶやいたその時
「あ、お疲れさまですー」
ガラガラと戸が開いて、伊藤の想い人・ヤマダが入ってきた。
「何だか、成島さん休まれたらしいですね。みなさんもタイヘンですね」
伊藤が、我がことのように「いえいえそんな」とお辞儀を返している。
「また、ヨージローが何かしたの?」
フジコの問いに、ヤマダは「いやいや」大げさに手を振った。
「たまたま通りかかったら、何だか大きな声が聞こえたので気になって」
何か、あったんですか? と心配そうな表情のヤマダに、ミドリコがいえ何でも、と涼しげに答えた。
なら良かった、とヤマダが去って行ってしばらくしてから、伊藤がミドリコに喰ってかかった。
「ヤマダ先生に相談しても、よかったんじゃありません?」
ミドリコは何も答えず、あごに手を当てている。
「ショージがもしかしたら、教頭とグルになって……」
「お待ちなさいな、伊藤さん」
おもむろに答えたミドリコ、あくまでも口調はのんびりしている。
「とりあえず、委員長に確認してから……その後また、対策を考えましょ」
いったんトラブルが起き始めると、悪いことは連鎖反応をみせることがあるようだ。
次の週には、作業開始直後に、いきなりミドリコとフジコが教頭に呼びつけられた。
二人が帰ってきたのは、すでに作業終了を少し過ぎた時間だった。
心配して残っていたメンバーを前に、ミドリコが言った。
どことなく、眉間に憂いをよせて。
「スーパーふじよしさんの三店舗で集めていたサンマーク回収箱を、すみやかに撤去してほしい、と連絡がありました」
フジコは床を見つめたままだった。伊藤が詰め寄る。
「なぜですか!?」
答えようとしないフジコに代わり、ミドリコが答える。
「ふじよし緑町店で、鴨池小の児童が不正な回収を行った、と」
フジコの肩がふるえている。
エミリはどこかで、話を聞いていたようだ。
「洋二郎くんが、なんかやらかしたって言われたんだ?」
本当に、申し訳ありません。
フジコの声はいつになく小さく、精気がなかった。
事の顛末を後から、紀美も詳しく知ることができた。
ふじよし緑町店には、かねてから鴨池小と並んで、近くの私立小中学校のサンマーク回収箱が設置されていた。
スーパーに来たついでにサンマークを寄付しようと思ったお客は、どちらかひいきの学校にマークを入れるか、両方に適当に分けていれるかという選択になる。
たいがいはどちらも同じ程度にサンマークが入っていたのだが、たまに回収箱に、どちらかの学校ばかり大量にマークが入れられていて、片方にはほとんど、ということもあった。
教頭からの話は、こうだった。
遊んだ帰りに、フジコの次男が緑町店に寄って、何気なく回収箱をのぞいてみた。
他校の回収箱はいっぱいになっていた、だが、鴨池小の箱がほとんど空に近かった。それを見て、腹を立てた彼はつい、他校の回収箱をひっくり返し、中身を自分の学校の箱に詰め込み始めた。
そこを店員に発見され、すぐさま店長が呼ばれたのだそうだ。
店長は社長に報告、社長は激怒して、すぐに学校に飛んできた。
「例えサンマークとは言え、他の団体のものを盗ろうとするのは、万引きに等しい行為だ、とふじよしの社長は校長にさんざん、噛みついたそうよ」
普段は温和な校長も、すぐさま教頭を呼んで事情を話し、教頭からメンバーに通達を、ということになったのだそうだ。
「洋二郎くんにも詳しい事情を尋ねたいんだけど、全然話してくれないらしくて」
ミドリコもかなり、弱気になっているようだった。
「今まで、ふじよしさんからの回収分がかなりの量になっていたけど、これからは、あてにせずに何とかがんばりましょう」
フジコはただ黙って、深く頭を下げた。
「……やっぱり、先生方のどなたかにちゃんと相談した方がいいと思います」
伊藤はいつになく神妙な面持ちだった。
「勝山校長は、サンマークにそれなりに理解ある方だったけど、教頭に押され気味だし、このままでは私たち、完全に潰されてしまいます。だから例えばヤマダ先生とか」
うん、とミドリコはうなずきはしたものの、しっかりと伊藤を見据えて言った。
「先生に相談することは、いったん私に預からせていただけないかしら? 見当たらないマークの件も必ず、解決させるから」
脇で聞いていた紀美は、思わず姿勢を正す。
いつもはふんわり、おっとりしたミドリコにふと、委員長の姿が重なってみえた。
伊藤も何か感じるものがあったのか
「……」間があったものの、素直に、「はい」と返事をして一歩退いた。
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