かうんと・ゆあ・まーくす!

柿ノ木コジロー

文字の大きさ
25 / 39
第五章 10月

洋二郎くんがそんなことするなんて

しおりを挟む
 スーパーでの事件、以前にも何かあったんですよね、と紀美は帰りがけにまたエミリに訊いてみた。
「ああ、あれはねー」
 特に感慨もないように、エミリが答える。
「あの時は、まだホンテツストアに回収箱を置いてもらってたんだ」

 ホンテツストアは、地域で一番規模の大きなスーパーチェーンだった。
 鴨池小では、数年にわたりホンテツの数ヶ所に回収箱を置かせてもらっていた。

 ある日、通りかかった誰かが、その箱の中にペットボトルのジュースを注ぎ入れた。
 いたずらなのか嫌がらせなのか、犯人は誰なのか結局判らず終いだったが、結果的にトラブルを好まないスーパー側から、『今後このような回収箱を置かないでほしい』と連絡を受けた。
 それが、第三次六合時代のことだったらしい。

 今度は、メンバーの身内が関わってるからねえ、しかも万引きに値するなんて言われて。

 今回の噂を聞いた公民館からも、サンマーク回収箱をこのまま置いても大丈夫なのかという声が出ているらしい。

 次のエミリの言葉に、紀美は思わず彼女の方をまともに見た。
「まあ、洋二郎くんがそんなことするなんて、ウチは信じないけどね」
「そうなんですか?」
「うん、うん」エミリはひとり、うなずいている。こけしの赤べこバージョンだ。
「うちのかおりのめんどうも、よく見てくれてる」
 へえ、学年違うのに、と首をかしげた紀美は、続く言葉に完全に立ち止まった。
「あの子さ、去年、洋二郎くんと同じ通級に行ってたんだ。学校行きたくなーい、ってよく言って休んでさ、教頭から、知的な遅れがあるかもだから、知能検査ちゃんと受けて、通級指導でも受けるように、って言われて」

 教頭という立場で、そこまで言えるのだろうか。紀美が疑問を投げかけると、エミリが
「それそれ」思い切り、くいついてきた。
「委員長にも言われた。教員が、お宅のお子さんに○○という障害があるかもですよ、なんて言うのは間違ってる、って。しかるべき機関を勧めることはあるかもしれないけど、判断はあくまでも、資格のある人がやるものだから、ってね」

 でも結局、しばらくは通級指導で様子をみることになった。
 そこで何度か、洋二郎とも会ったのだそうだ。

「洋二郎くん、とにかく自分より弱い子にやさしくてさ、泣きそうになってる子にはすぐに駆け寄って、だいじょうぶか? って言うし、ティッシュをすっと出してくれたりするし、それに正義感も強いから、かおりのこともずいぶんかばってくれて、逆にかおりが間違ったことをすれば、それはいけないことだ、ってちゃんと諭してくれたね。だから、例え母親のためでも、他所の学校のサンマークに手を出したりは、しないと思うけどね」
「あのもしかして」
 紀美はつい、エミリにこう訊こうとした。

 林さんも、サンマークを、サンマークのメンバーを愛しているんですか?

 しかしつい、奇麗に揃った髪をみたせいで
「こけしさんも」
 そこまで口にして、うっ、と言葉に詰まった。
「ず、ずみまぜん」
 エミリは、おおらかに答える。
「ま、ダンナにもよく言われるからねー」

 エミリの話を聞いただけでは、洋二郎がどんな思いでサンマークを盗ろうとしたのかはうかがい知れない。
 ただ、スーパーからは完全に撤退したという事実が残ったのみだ。

 次の作業前に、ミドリコは、委員長からのメッセージをこう伝えた。
「なくなったものは、しょうがない。まあ、気楽にやりましょう」
 あまりにも委員長に似つかわしくないことばに、伊藤すら
「デスヨネー」を封印したようで
「……なんだかなぁ」
 そうつぶやいて、春日も
「きらくにやりましょう……とは。委員長、ゆーほーにさらわれて、宇宙人にあやつられているのでは」
 そう言って、うううオイタワシヤ、と呻いた。

 十月も日が経つにつれ、使用済みカートリッジが、以前にも増して続々と集まるようになった。
 今まで夫を頼みとしなかった彼女らが、急に、『使えるものは有効に使う』大作戦を開始したからだった。
 事務職についている伊藤の夫と、プログラマーだというエミリの夫とが、キャプソンとエノンの使用済みカートリッジ、トナーカートリッジなどをかき集めてくれた。
 メンバーの個人的ツテで、保護者仲間などを通じて各職場に声をかけてもらう方法も効果があった。
 フジコは手をまっ黒にして、毎回時間いっぱい作業にまい進していた。
「ひと箱、二五〇〇点が目標だから」
 そう言いながら、フジコの後ろにはすでに数箱分の使用済みカートリッジが積み上がりつつあった。
 
 見えなくなったサンマークのことについて、ミドリコは『必ず解決させる』と言ってから、一言も口にしなくなっていた。

 しかし……作業が終わる毎に、ミドリコは段ボール箱にすべてのサンマークを詰め込み、作業室から持ち出すようになっていた。
 次回の作業でまた、自宅からマークを持ってくるようだ。

 確実に何かを疑っているらしいのは、紀美にも痛いほど感じられた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...