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第六章 11月
サンマークうんどうってすごいよ
しおりを挟む活動終了後、「キミさん」、ミドリコから手招きで呼ばれていた。
「サンマークを車まで運ぶのを、手伝っていただけるかしら?」
すでにほとんど仕分けが済んでいたものを、また全て持ち帰ると言う。
「いいですけど」
紀美は箱を持ち上げながら言った。
「仕分け済みのもの、出てきたからもうだいじょうぶなのでは」
「仕分け前だったものが、まだ見つかりませんから」
そうだった。
そういえば、仕分け前のものが減っている気がする、とミドリコが言っていた。
今月に入ってから仕分け作業がかなり進んでいたが、やはり見込みよりはやや、点数が少なかった。
「ざっと見ただけ、半分以上抜き取られていたようなの。多分1万5千から2万点くらい。それについては委員長も覚えがない、と。ただ……」
「ただ?」
暗い目をしたミドリコが、はっと気づいて、紀美に笑いかけた。
「いえ、何でもないわ」
とにかく、『かうんと・ゆあ・まーくす』ね、と明るい声で言って昇降口に出る。
「それはそうと、」
目を見開いて、紀美に向き直った。
「娘さん、すごいじゃない」
ああ、と紀美の顔がついほころぶ。
ルイが学校の『調べ学習』で取り上げた『サンマークうんどうってすごいよ』が全校発表会で努力賞に輝いたのだった。
「私も、発表会を参観に伺いましたの」
紀美はたまたま検診が入って見に行けなかったのだが、ミドリコはPTAの役も兼任しているため、見学したのだそうだ。
内容は、サンマーク運動全般の仕組みを子どもなりに調べて、自分の学校でも活動に取り組んでいる様子をまとめたものだった。
「ルイちゃん、テーマはママから聞いたけど、あとはご自分で調べて、ちゃんと意見もまとめていて……」
すごいわ、としきりに褒めるので紀美は頬が熱くなるばかりだった。
学校で行うサンマーク活動についての反対意見もしっかり、入れてあったそうだ。
「『未来のサンマーク運動は、もっとコンピューターやインターネットを使って、便利になるといいです。学校でのたいへんなお仕事も減ると思います』って。一年生とは思えない、立派な内容でしたわ」
「あ、ありがとうございます」
驚いた。ルイはルイなりに、いろいろと考えていたんだ。
調べ学習をやっていた間、紀美もいくつか質問を受けたことがあった。
その時は、
「サンマークをあつめるので、たいへんなことはなに?」
とか、
「どんな時がたのしいの?」
など、子どもらしい他愛ない質問ばかりだったので、まあ、少しは興味をもってくれてよかった、と思った程度だった。
それに、内容についてもほとんどアドバイスをすることもなかったので、まさかそこまで踏み込んでいたのも知らなかった。
どりょくしょうもらった! と聞いた時もただ
「おめでとう! よかったねえ」
と褒めただけ、その後、急用だと実家からの電話が入ったりして、すっかり忘れていた。
大賞や優秀賞の子もいたというので、かわいい賞なのだろうと単純に思ったくらいだ。
ずっと小さな子どもだとばかり思っていた娘が、いつの間にか成長しているのを紀美はつくづく、感じていた。
駐車場に出ようとした時、ちょうどグラウンドから帰ってくる東海林と出くわした。
「あ」
東海林がいっしゅん立ち止まったところに、ミドリコは軽く頭を下げる。
「おつかれさまです」
いつものような軽口もなく、東海林は口の中でもごもごと何かつぶやいて、足早に校舎へと去っていった。
家に帰るとすぐ、紀美はルイに
「こないだの調べ学習、すごい内容だったんだね」
とすぐ声をかけた。
ルイははじめ、きょとんとしていたが、
「ああ、あれね」
さも当然でしょ、という顔になった。
「あれはねえ、ずいぶんくろうしたんだからね」
二階にある自分の部屋に駈けあがって行ったかと思うと、間もなく戻ってきて
「これ、見せてあげる。ママもさんこうにしていいから」
かなりの上から目線で、紀美に差し出した。
『サンマーク運動ってすごいよ』
とマジックで派手に書かれた色画用紙の表紙をめくると、意外にも、中はパソコンの文書ソフトを利用して、しかもインターネットからサンマーク財団の記事を切りはりしたり、自分の絵や吹き出しをはめ込んだりして、紙芝居のようにとても判り易くまとめてあった。
帰って来た泰介にも見せると
「今どきの子どもって、学校でパソコン使った授業もするんだねぇ」
と、ひとしきり感心していた。
「へえ、サンマークってこんな仕組みなんだ」
最後のページまでめくり、泰介がふと言った。
「『未来のサンマーク運動は、もっと……便利になるといいです。』か。これさ……システムの設計面から考えても、ちょっと、面白そうだね」
そうなの、と紀美は生返事をしながらも、放課後の東海林の姿を何となく、思い返していた。
何となく、いつもの東海林にない、よそよそしい感じだった。
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