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しおりを挟む二上先輩が入部して、部活に顔を出すようになった。
基本的に彼女は毎日やってくる。熱心なのか、他の何かを求めているのかはわからない。
一緒に放課後を過ごすようになって二週間。
最近の二上先輩は少し傲慢になっていた。
「ねぇねぇ、納谷君」
「…………」
「ねぇねぇねぇ、納谷君」
「……………」
「ねぇねぇ、読書してたり勉強できそうな見た目の割に成績は中頃くらいの納谷君」
「どこでそんな情報を掴んできたんですか!」
「あ、反応した」
くそ、反応せざるを得なかった。最近は暇をもてあますとどうにか俺と話そうとしてくるんだよな。なんか俺の知り合いから情報仕入れたりしてるし。こわい。
「納谷君。勉強苦手なの?」
「…………得意ではないですね」
俺はそれなりに勉強してるつもりだけど、いまいち結果が出ない。効率が悪いのか、勉強時間が少ないのか、あるいはその両方なのかもしれない。
「見た目は結構できそうなのにねぇ」
「人は見た目じゃ判断できないんですよ。二上先輩みたいに」
「……へぇ、納谷君は私をどんな人だと思ってたのかな?」
「WIFI求めてジャンプする人だとは思ってませんでした」
「うっ……。そのことは忘れて欲しいな。ほら、勉強教えるから」
苦し紛れの回答が先輩に思いの外ダメージを与えていた。
「私、そこそこ成績はいいつもりだからさ」
確かに、聞いた話では二上先輩は勉強が出来る。容姿端麗成績優秀。人物像だけは非の打ち所がない。
「じゃあ、お願いします」
「お願いされましたっ」
なんだか嬉しそうに胸を張る二上先輩であった。
それが間違いだった。
「納谷君。そこ間違ってる。ちょっともう一回教えるね」
「はい」
「あ、そこちょっと違うよ。あと、面倒でも公式はちゃんと書く」
「はい」
「ここの文法、さっき教えたよ。うーん。単語を覚えるところからかな。家で覚えてきて」
「はい……」
「納谷君、現代文だけはできるんだね」
「うぅ……」
二上先輩の指導方針は微妙に厳しかった。いや、ちゃんと優しく、何度でも教えてくれる。 だが、たまに苛ついて言葉に棘が混ざるのだ。
それと、先輩は熱中するタイプらしく、一度指導が始まると帰るまでずっとこの状態が続くのも良くない。
というか、完全に勉強会になってしまった。
これは少なくとも、部活じゃ無い。
一週間、隣に二上先輩が座って教える状態が続いたところで、俺はようやくそのことに気づいたのだった。
「二上先輩。これだと部活じゃ無くて学習塾です……」
「はっ。つい嬉しくてやり過ぎた……」
俺が指摘すると、眼鏡をかけた二上先輩が我に返った。なんだか途中から伊達眼鏡をかけるようになったのだ、この人は。人によっては凄く怒るぞ。
「嬉しくて?」
「あ、いや……」
何故だかうろたえる先輩。
なるほど。勉強を教えるのが嬉しかったんだな。
「二上先輩、教えるのが好きなんですね」
「……そうよ。かなりの上から目線ができるからね」
俺の言葉に二上先輩は何故か不機嫌そうに答えた。
「なるほど」
「納得した……。納谷君の中で、私がどういう人になってるか不安だよ」
俺の中の先輩像はかなり現実に迫っていると思います。
「勉強を教えてくれるのは嬉しいですけど。少し減らしませんか? これじゃあ、何のためにここにいるのかわからない」
そもそも俺は、落ちついた時間を求めてここにいるのだ。
多分、二上先輩も同じような理由でここにいるはずなんだけど。
「……わかった。ちょっと気を付ける」
「ええ、でも勉強は教えて貰えると助かります」
「うん。テスト前とか、一緒に勉強しようね」
なんだか嬉しそうな二上先輩なのだった。
しかし、考えてみれば、先輩に直接指導を受けてるなんて、知ったらどれだけの人に羨まれるだろう。できるだけ隠さなければならない。
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