転生チートで英雄になったんですが、スローライフしたいです(切実)

みなかみしょう

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 敵の誘導のため、銀狼達が目の前から一瞬で消えた。森の中で目立ちそうな銀色はそんな心配は杞憂とばかりに森の闇に溶けた。
 残された俺は魔法を込めたマジックアイテムを地面や木の枝などに設置していく。極端な話、地面に適当に置いておくだけでも、俺の意志で起動できて相手を拘束してくれるので準備は楽だ。

 銀狼達を待ちながら、この状況について考える。
 今の俺は老後を過ごしているようなものだ。

 老後の期間が殆ど無かった前世、十歳から戦い漬けだったら今生。そろそろゆっくりして良い頃だと考えている。
 色々あったが仲間達も納得してくれ、こうして長閑な地方で過ごしているわけだが、この状況はどうだろう。

 共同体に馴染むために冒険者をやっているわけだが、ここまでの相手が出てくるとは思わなかった。
 ある意味、俺がいて良かったかもしれない。通常ならベテランの冒険者が依頼を受けて、そのまま半壊か全滅。犠牲を出しつつ国を挙げての討伐になってもおかしくない。
 
 ここでキメラを倒せば、俺の平穏な生活も守られる。犠牲も出ない。冒険者一人への依頼としては難易度は高すぎるけど、それで納得しておこう。

 無事に倒した後、報告は誤魔化しを交えて行おう。すでに銀狼によってキメラは半殺しだったとか。

 そんなことを考えているうちに、時間がすぎていく。
 銀狼が森に消えてから二時間ほどたった頃。森の空気が変わった。

「来たか……」

 東の方から獣の鳴き声が聞こえた。銀狼だ。それだけじゃない、なにか良くないものが近づいて来ている。この手の直感は割と当たる。

 接敵に備え、長剣を構え、待ち受ける。銀狼達は無事だろうか、ドラゴンの巣に潜り込んだ時と同じくらいのプレッシャーを感じる。嫌な予感がする。

 直感通り、徐々に東側が騒がしくなってきた。木々の折れる音、鳥たちが慌てて飛び立つ鳴き声、そして地響き。……地響き?

 囮の銀狼達が次々と森から現れた。銀色の地を這う流星のような速度で俺の横を次々と通り過ぎる。
 殿を務めていたリーダーが飛び出してきた直後だった。

「嘘でしょ……」

 破壊音と共にそれが現れた。
 大きさは五メートルはある。熊のような太く長い胴体に足が四本。ケンタウロスのようになっている上半身は胸から上がドラゴンそのもの。両腕は肩から手首までは熊だが、そこから先のかぎ爪まで含めてやはりドラゴン。背中に翼はない。
 陸戦に特化した熊とドラゴンのキメラだ。それも規格外にでかい。
 
 それが森の木々を破砕しながら俺の目の前に現れた。素なのか怒りのためなのかわからないが真紅の瞳はうっすら輝いている。
 魔王のキメラは広場の地面を蹴飛ばすというか破壊しながら真っ直ぐにこちらに向かってくる。

<<予測より早く完了した>>
 
 一足先に到着し俺の横に立った銀狼のリーダーはどこか誇らしげだった。

「でかすぎですよ! ちょっと大きい熊サイズで考えてました!」

<<あと二回り小さければ我らも苦戦しなかっただろう>>

 目の前に魔物が迫っているのに落ち着き払って言われてしまった。銀狼のサイズ感が人間と違うことに気づけなかった。いや、銀の森中心部の熊はこれが通常サイズだったか?

「とりあえずトラップを起動します! 止まれ!」

 懐から小さな杖を取り出し、魔力を込める。マジックアイテム起動のための道具で、俺の意志を受けてそこかしこに仕掛けたトラップが作動。
 地面、近くの木、森の中、合計十カ所で魔法が発動した。
 
 キメラの足下の地面が変異し、巨大な土の腕となって足を二本拘束。それから青、白、黄色、赤など、様々な色の魔法の鎖が全身を絡め取る。
 どれも拘束する魔法の鎖だが、熱に冷気、電撃や魔力の刃を常に生み出すなど攻撃用のものも含んだ多重拘束。

 空気と全身どころか、大地も揺れそうなほどの咆吼が広場に響く。吠え声にまで魔力が乗っている。並の冒険者なら恐慌状態か気絶しているはずだ。

<<見事。この混沌を拘束するとは>>

「効いて良かったですよ。ここまでの大物は想定していなかったんで」

 目の前でうなり声をあげて、怒りに燃える瞳で睨み付けてくるキメラを見る。
 一応停止したが、全然元気そうだ。拘束された身体をどうにかしようと、抗ってすらいる。
「止まってるけど、全然効いてないな……」

 キメラの各所から炎や血しぶきが上がるが、全然弱る様子がない。見た目ほどダメージが入っている気配がなかった。

 中型のドラゴンくらいなら拘束した上でそのまま倒しきれるほどの魔法を受けているはずなんだが……。

<<魔法による傷も癒すか。我らの牙も爪も傷痕すらつけられぬわけだ>>

「そうか。生命力特化の個体なんですね」

 銀狼の言葉と目の前の光景でわかった。あのキメラ、傷ついた端から治癒している。
 多分、古く強壮な存在が多数いる銀の森を滅ぼすため、ひたすら動き続ける個体を創造したんだろう。森がどうにかなるまで何十年もかかるかもしれないが、基本的に強い者ほど動かない銀の森では有効だ。

「とにかく、倒さないと」

 脳内で魔法を準備。拘束魔法の多重重ねで無理なら、強力な攻撃魔法。それも一般に出回ってないやつだ。

「……裁きの光槍よ、貫け!」

 言葉に反応するように俺の周囲に二十ほどの目映く光り輝く槍が生み出されると、キメラ目掛けて殺到する。

 これは師匠が開発した攻撃魔法だ。呪文を短縮する正式名称すらない試作品。光の槍には並の魔法使い一人分の魔力が込められており、相手を貫いた上で体内に攻勢魔力を流し込む。これを受けて無事な生き物はまずいない。
 そのはずだった。
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