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銀の森の魔物退治、ウジャスの町の騒乱事件。
どちらも地域にとって大きな事件であり、それなりに話題になった。
そして、そういった話題になるような事件はそれほど頻繁に起こらないものだ。
そんなわけで、ユニアが家にやってきて一ヶ月あまり。
俺達は平穏に過ごしていた。冒険者としての依頼もなく、本業の雑貨屋に精を出すばかりだ。
「店長、清掃終わりました。それでは、行ってきます」
「はいよ。なにかあったら声をかけるよ」
看板に鈴をかけ、朝の清掃を終えたユニア。彼女は言うなり店舗裏に向かって歩き出す。着ている服はフレナさんに貰った良い物でなく、最初に仕立てたドワーフ服の改造品。つまりは作業着だ。
本業の雑貨屋は相変わらず暇である。たまに珍しいものの問い合わせがあったりもしたが、基本的に閑古鳥が鳴いている。ここは日本じゃないので本来の閑古鳥はいないが。
一応、収入面の方は問題ない。依頼の報酬とフレナさんの雑貨屋に納品した高級酒の分。それとハスティさんからユニアを預かっている報酬もそれなりに入る。生活するだけなら、問題はない。
そして、暇な時間が多い我々はそれぞれ好きなことに時間を費やしていた。俺はキャンプ道具の整備、ちょっとしたキャンプだ。二回ほど、銀狼達の様子見がてら、銀の森に出かけて来た。彼らは穏やかに暮らしているようだったので一安心だ。
こんな風に俺はいつも通りだが、ユニアの方にも意外にも動きがあった。
具体的に言うと、ユニアとその周辺だ。
「イスト君! 例のやつ入ったかしら! おはよう!」
「おはようございます。フレナさん、今日も元気そうですね」
開店早々入ってきたのは村の雑貨屋の看板娘、フレナさんだ。この人はユニアが家にやってきてから、もっと言うと服を着せてから来客頻度が増した。
「それで、例のブツは?」
「ブツって、そんな言い方どこで覚えたんですか」
客商売をしていれば変な言葉の一つも覚えるか。そんなことを思いつつ、カウンターの裏から荷物を取り出す。フレナさんの前に置いたのは小さめの箱、中を確認して貰うため、蓋を開ける。
「うん。いいわねぇ! わざわざ取り寄せて貰った甲斐があったわ!」
フレナさんが喜びの声と共に取り出したのは女性向けの服。それも小柄な、十代前半向けのサイズで、灰色の落ち着いた色合いのちょっと大人びたデザインのものだった。
他にもピンクや濃い赤といった別の色のものも二着ほど入っている。
どれもハスティさん経由でアウスト王国から取り寄せた品だ。大国はファッションも進んでいるので、中古のものでもビフロ王国の片田舎とは手に入る品が違う。
「あの、ユニアは喜んでますけど、あんまり買って貰うのは悪いんですけど……」
「いいのよ! お小遣いの範疇だし、これは教材だしねっ」
ユニアの着せ替えをしてから、フレナさんは目覚めた。服飾に。町に出ては目を更にして服を吟味した結果、自分で作ることにしたそうだ。教材として珍しい服を買うこともあるが、空いた時間は布を加工している。
「そのうちフレナさんの作った服がお店に並びそうですね」
「売れたら服のお店でも作って貰おうかしら。なんてね。でも、本気で気にしないでいいのよ、これは息抜きなんだから。自分の分も作ってるしね」
本人の言うとおり、フレナさんは自作の服をユニアだけでなく自分用にも作っている。量産ペースもそれほど早くない。ただ、思った以上に器用で出来がいい。ユニアの部屋にはすでに二着の新しい服があるが、着る機会に悩むくらいだ。
「ご本人が問題ないというなら、うちは毎度ありってとこですね」
「そうよ。今度ともよろしくね。こんなに簡単に外国から仕入れるなんて、さすがね」
「昔の仲間がたまたま居ただけですよ」
フレナさんが自分の店で仕入れなかったのは、うちで買う方が安いからである。外国経由だと時間がかかる上に輸送代が乗っかるので割高だ。その点、俺は特殊なルートを経由できるので安い……ということになっている。
「それで、ユニアちゃんは庭ね」
「ええ、いつも通りです」
代金を払った後、店の裏口を見ながら言うフレナさん。店内に俺一人しかいないのも、もういつものことだ。
「私が店番しててあげるから、手伝ってきなさい」
「いいんですか?」
問いかけるが、これもまたいつものことである。
「いいのよ。力仕事、得意でしょ? ユニアちゃんの綺麗な手の皮が厚くなったらどうするの」
この気遣い、全ては可愛いワルキューレのためである。
「わかりました。何かあったら呼んでください」
「ええ、お客さんが来たらね」
客が来る可能性はほぼ無いことにはお互い言及せず、俺は裏口から外に出た。
店の裏、それは自宅兼店舗の庭に通じている。町外れの土地付き物件を買ったおかげか、我が家の庭は結構広い。ちょっとした田んぼくらいある。
俺が住み着いて以来、キャンプ用品のテストをするくらいで殆ど手つかずで、草が伸びたら軽く刈るくらいしかしていなかったのだが、今は様変わりしていた。
煉瓦を積み重ねて作られた花壇。草を取り除かれ、黒い栄養たっぷりな地面を晒す畑。どちらも何らかの植物が生育しており、日の光をいっぱいに浴びている。
そんな畑の中央で、鍬を振るう少女が一人。今日も元気に畑の拡張中だ。
「いかがしましたか、店長」
「フレナさんが来て、手伝うように言われた」
「なるほど。では、そちらの道具で畑を広げる手伝いをお願いします」
「あんまり広げると、世話とか大変じゃないか?」
俺の問いかけに、地面に鍬を突き立て、ユニアは答える。
「それが良いのではないですか。育てる喜びですよ」
神界より遣わされたワルキューレは農作業にはまっていた。
どちらも地域にとって大きな事件であり、それなりに話題になった。
そして、そういった話題になるような事件はそれほど頻繁に起こらないものだ。
そんなわけで、ユニアが家にやってきて一ヶ月あまり。
俺達は平穏に過ごしていた。冒険者としての依頼もなく、本業の雑貨屋に精を出すばかりだ。
「店長、清掃終わりました。それでは、行ってきます」
「はいよ。なにかあったら声をかけるよ」
看板に鈴をかけ、朝の清掃を終えたユニア。彼女は言うなり店舗裏に向かって歩き出す。着ている服はフレナさんに貰った良い物でなく、最初に仕立てたドワーフ服の改造品。つまりは作業着だ。
本業の雑貨屋は相変わらず暇である。たまに珍しいものの問い合わせがあったりもしたが、基本的に閑古鳥が鳴いている。ここは日本じゃないので本来の閑古鳥はいないが。
一応、収入面の方は問題ない。依頼の報酬とフレナさんの雑貨屋に納品した高級酒の分。それとハスティさんからユニアを預かっている報酬もそれなりに入る。生活するだけなら、問題はない。
そして、暇な時間が多い我々はそれぞれ好きなことに時間を費やしていた。俺はキャンプ道具の整備、ちょっとしたキャンプだ。二回ほど、銀狼達の様子見がてら、銀の森に出かけて来た。彼らは穏やかに暮らしているようだったので一安心だ。
こんな風に俺はいつも通りだが、ユニアの方にも意外にも動きがあった。
具体的に言うと、ユニアとその周辺だ。
「イスト君! 例のやつ入ったかしら! おはよう!」
「おはようございます。フレナさん、今日も元気そうですね」
開店早々入ってきたのは村の雑貨屋の看板娘、フレナさんだ。この人はユニアが家にやってきてから、もっと言うと服を着せてから来客頻度が増した。
「それで、例のブツは?」
「ブツって、そんな言い方どこで覚えたんですか」
客商売をしていれば変な言葉の一つも覚えるか。そんなことを思いつつ、カウンターの裏から荷物を取り出す。フレナさんの前に置いたのは小さめの箱、中を確認して貰うため、蓋を開ける。
「うん。いいわねぇ! わざわざ取り寄せて貰った甲斐があったわ!」
フレナさんが喜びの声と共に取り出したのは女性向けの服。それも小柄な、十代前半向けのサイズで、灰色の落ち着いた色合いのちょっと大人びたデザインのものだった。
他にもピンクや濃い赤といった別の色のものも二着ほど入っている。
どれもハスティさん経由でアウスト王国から取り寄せた品だ。大国はファッションも進んでいるので、中古のものでもビフロ王国の片田舎とは手に入る品が違う。
「あの、ユニアは喜んでますけど、あんまり買って貰うのは悪いんですけど……」
「いいのよ! お小遣いの範疇だし、これは教材だしねっ」
ユニアの着せ替えをしてから、フレナさんは目覚めた。服飾に。町に出ては目を更にして服を吟味した結果、自分で作ることにしたそうだ。教材として珍しい服を買うこともあるが、空いた時間は布を加工している。
「そのうちフレナさんの作った服がお店に並びそうですね」
「売れたら服のお店でも作って貰おうかしら。なんてね。でも、本気で気にしないでいいのよ、これは息抜きなんだから。自分の分も作ってるしね」
本人の言うとおり、フレナさんは自作の服をユニアだけでなく自分用にも作っている。量産ペースもそれほど早くない。ただ、思った以上に器用で出来がいい。ユニアの部屋にはすでに二着の新しい服があるが、着る機会に悩むくらいだ。
「ご本人が問題ないというなら、うちは毎度ありってとこですね」
「そうよ。今度ともよろしくね。こんなに簡単に外国から仕入れるなんて、さすがね」
「昔の仲間がたまたま居ただけですよ」
フレナさんが自分の店で仕入れなかったのは、うちで買う方が安いからである。外国経由だと時間がかかる上に輸送代が乗っかるので割高だ。その点、俺は特殊なルートを経由できるので安い……ということになっている。
「それで、ユニアちゃんは庭ね」
「ええ、いつも通りです」
代金を払った後、店の裏口を見ながら言うフレナさん。店内に俺一人しかいないのも、もういつものことだ。
「私が店番しててあげるから、手伝ってきなさい」
「いいんですか?」
問いかけるが、これもまたいつものことである。
「いいのよ。力仕事、得意でしょ? ユニアちゃんの綺麗な手の皮が厚くなったらどうするの」
この気遣い、全ては可愛いワルキューレのためである。
「わかりました。何かあったら呼んでください」
「ええ、お客さんが来たらね」
客が来る可能性はほぼ無いことにはお互い言及せず、俺は裏口から外に出た。
店の裏、それは自宅兼店舗の庭に通じている。町外れの土地付き物件を買ったおかげか、我が家の庭は結構広い。ちょっとした田んぼくらいある。
俺が住み着いて以来、キャンプ用品のテストをするくらいで殆ど手つかずで、草が伸びたら軽く刈るくらいしかしていなかったのだが、今は様変わりしていた。
煉瓦を積み重ねて作られた花壇。草を取り除かれ、黒い栄養たっぷりな地面を晒す畑。どちらも何らかの植物が生育しており、日の光をいっぱいに浴びている。
そんな畑の中央で、鍬を振るう少女が一人。今日も元気に畑の拡張中だ。
「いかがしましたか、店長」
「フレナさんが来て、手伝うように言われた」
「なるほど。では、そちらの道具で畑を広げる手伝いをお願いします」
「あんまり広げると、世話とか大変じゃないか?」
俺の問いかけに、地面に鍬を突き立て、ユニアは答える。
「それが良いのではないですか。育てる喜びですよ」
神界より遣わされたワルキューレは農作業にはまっていた。
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