転生チートで英雄になったんですが、スローライフしたいです(切実)

みなかみしょう

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「やあやあ、久しぶりだね。フィル改めイスト君」

 にこやかに手を挙げて挨拶してくる男を見て、俺は安心した。
 ここはハイエルフの施設の管理室。スライムの占拠していた動力部の真上に当たる部屋だ。 無事に仕事を終えたので、ようやくファルカインとご対面というわけである。

「今回は大丈夫だな」

「ん? なんだねその態度は?」

「初めて会った時のことを思い出してただけだ」

 俺が苦々しい気持で言うとファルカインは実に嬉しそうな笑みを浮かべた。

「ああ、あれは面白かったねぇ。十代前半の君はとても可愛かった」

 最初に会った時、こいつは映像だと男だが会ってみると女なんてことをやらかした。
 場所はここと同じような施設で、当時は女性体だったので、ちょっとした悪戯のつもりだったらしい。
 おかげでその時色々あった。ハスティさん含めた仲間達と。
 嫌な記憶の扉を開きそうだったので、とっとと話題を振ることにする。

「昔話はいい。これで問題ないのか?」

「大ざっぱなスキャンは済ませたよ。施設内はクリーンだ。周辺に魔物の気配はなし。いやあ、助かったよ。ありがとう。あのままではこの施設は陥落していたことだろう」

 言いながら律儀に頭を下げられた。こういう偉ぶらないところは非常に好感が持てるんだけれどな……。

「いいよ。俺もお前を探してたし。ついでに情報収集の約束も取り付けられて良かったくらいだ」

「正直だね。良いことだ。既に月の同胞に魔物達の動向について詳しいレポートを申請しているよ。君の欲しそうなものを一通りもたらしてくれるだろう」

 相変わらず仕事の早い奴だ。ノリ以外は的確で助かる。
 監視室の中は白一色の事務所みたいな場所だ。立体映像がモニター代わりに立ち並ぶ光景以外は地球のオフィスめいている。

 時間があるからだろう、ファルカインはどこからか電気ケトルのようなものを取り出して、お茶の準備を始めた。一緒にクッキーまで並べてくれる。
 俺が適当な椅子に腰掛けると、カップを置いて手際よくお茶を淹れてくれる。

「保存食と簡単なお茶しかないが味わってくれ。施設が大きい割に長期滞在用の備蓄はなくてねぇ」

 そうはいってもさすがは文明を極めたハイエルフ。カップから漂う爽やかな香りは、格別だ。値段をつければ、俺が収納しているどの銘柄よりも高級だろう。

「ありがたく頂くよ。しかし、事前に魔物がいることがわからなかったのか? その手の情報が入らないわけじゃないだろう」

「入ってはいたよ。その上で施設の点検を優先したんだ。魔物如きに我らの施設をどうこうできるわけがないという驕りがあったね。反省だ」

 自分で淹れたお茶を飲みながら、しみじみというファルカイン。是非とも反省を次回に生かして貰いたい。

「しかしイスト君。せっかく自由の身になったのに、相変わらずの冒険者暮らしかい? もっとゆっくり過ごしているものと思っていたのだが」

「冒険者は副業だよ。今は雑貨屋をやってる」

「ほう、雑貨屋……失礼。ふむふむ、流行らない店をやっているようだね。それで副業が冒険者。おや、最近はワルキューレと遭遇して同居とは! いやはや、君の人生は面白い!」

 手を振って立体映像を出したと思ったら、ペラペラと俺の情報を喋り出した。

「なんでそんなに詳しくわかるんだよ!」

 監視されてたのか。俺のプライバシーはどこにいった。

「君は神格持ちの人間だからね、情報収集の対象になっている。生活態度の詳細はわからないが、概要がわかる程度にはたまに見ているようだね」

 立体画像を動かしながら、当然だろうとばかりに言うファルカイン。様子からして、こいつは初めて見たらしい。あんまり立ち入らないよう配慮してくれていたのかもしれない。

「諦めたまえ。どうせ、神々も君のことを覗き見ている」

「プライバシーが失われた人生か……」

 嘆いてどうにかなるものじゃない。ある程度、わかっていたことだし。いや、やっぱちょっと嫌だな。

「話を戻そう。君達が魔王と名付けた個体が消え去って以降も、魔物の活動が活発になることがある。それは我々も注目していた。ここ最近はそれが少し激しい」


「その原因は?」

「ぼくは殆どこの世界にいるからわからない。でも、月の同胞ならちゃんと把握しているはずだ。知ってはいても、約束で手出しはできないんだけれどね」

「そちらの事情は承知しているよ」

 地上に極力手を出さない。それが、星界に至ったハイエルフと神々の約定だ。それがあるからこそ、彼らは星の世界を住処にできる。
 
「正直、君が来てくれて助かったよ。ようやく、この世界の人に情報を渡すことができる」

 ハイエルフは、こうして直接会った者にだけ、少しだけ手を貸してくれる。それが、彼らに許されたギリギリの立ち位置なのだ。
 神々のように信仰されないように、その立場を縛られている、というのが俺の見解である。
「と、来たようだ。書類として渡すから、詳しくはハスティちゃんとでも相談したまえ」

「書類って、そんな情報量があるほど把握してるのか?」

 問いかけに、ファルカインが頷いた。室内にプリンターでもあったのか、片隅から音がする。なんか、懐かしい気持になるな。

「ふむ。君がぼくを探す理由を作った魔物は、魔王の腹心だね。あるものを手に入れるため、色々と策を巡らしている。何十という策だ」

 状況把握のためか、自分でも立体映像を出して中身を見始めたファルカインが教えてくれる。いきなり核心に近づけたのは嬉しいが、凄く面倒くさいことになっていそうだ。

「それほどの手間をかけて手に入れたいものが、魔物達にあるのか……いや、あるな」

 魔王の腹心が手に入れたい「あるもの」、それについて、俺は一つだけ候補を思い至る。

「推測を言ってごらん。多分、合っているよ」

 ファルカインに促され、俺は口を開く。
 目の前の立体映像には色んな情報が表示されている、その中の一つが、ある大陸を表示しているのが目に入った。

「連中の狙いは、魔王の骸か」

 ファルカインは頷いて、大陸を拡大した。

 それは開拓地となっている辺境大陸。この世界での俺の生まれ故郷。
 
 その片隅に、赤い点がついている。
 その場所こそが、かつて、魔王と決戦があった場所だ。
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