ゲームの世界に転生したら、いきなり全滅ルートに突入した件〜攻略知識を活かして、なんとかして生き延びる〜

みなかみしょう

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第26話:炎の魔神

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 最前線の様相は、酷いものだった。
 石造りの旧大聖堂。そこで大爆発が起きたので瓦礫の山だ。魔法の火は普通と違うのだろう。瓦礫の間でまで火がちろちろと燃えている。気温も一気に上がったのか、汗ばむくらい暑い。

 それと、神聖騎士団だ。アンデッド相手に無類の強さを誇っていた彼らの多くが地に伏している。

「……うぅ……」
「姉さん!」

 見れば、フォミナの姉も倒れている一人だった。装備のおかげか、あれだけの魔法を受けて五体は無事だが、全身を打ち付けたのか動けないみたいだ。

「ハイ・ヒール!」

 フォミナの範囲回復魔法が発動すると、セアラさんを含めた周辺の団員が一気に顔色が良くなり、動き出す。

「セアラさん、なにがあったんですか?」
「わからない……。封印の間の前に、人影がいたと思ったら、突然周りが炎に包まれたんだ。完全な奇襲だ。してやられた……」
「封印の間……」

 今いる場所は最前線でも後ろの方。神聖騎士団の本隊はもっと奥にいる。

「フォミナ、封印の間の方に行こう。騎士団の人達は後から来る冒険者が救助してくれる」
「……わかりました。行きましょう」

 これだけのことをしでかしたのが何者か、純粋に気になる。間違いなく神聖騎士団を狙っている。もしかしたら、帝国絡みかもしれない。

「お、おい二人とも。危険だぞ。やめておくんだ」

 セアラさんが止めにかかるけど、素直に聞くわけにはいかない。何なら、今後のオレの運命に関係あるかもしれないんだから。

「大丈夫です。ヤバそうなら逃げますから。冒険者と一緒に態勢を立て直してくださいね」

 それだけ言い残して、オレとフォミナは封印の間に向かって駆け出した。

 封印の間。旧大聖堂でも曰く付きの場所であり、複雑な紋様が描かれた魔法陣で封じられた場所。オレ達が到着した時、そこではまだ戦いが繰り広げられていた。

 といっても戦ってるのはエドモンド氏を含めた四人程。多分、騎士団の最精鋭で生き残ったんだろう。それも既にボロボロで旗色が悪い。
 
 彼らの相手を見て、オレは心底驚いていた。

「なにあれ、炎の魔神……?」
「魔族だ」

 それは、この場にいないはずの存在だった。
 全身から炎を吹き出す、二メートル近い巨体の人型。体つきから男性であることはわかるが、見た目があまりにも人とは離れた存在。
 魔族としての本性を現した者が、そこにいた。
 魔族はモンスターとは別口の人間や亜人とは別にカテゴライズされた種族だ。主に、過去において大きな戦乱を起こした時からそう呼ばれている。

 今、神聖騎士団と戦っているのは魔王の直属、炎のムスペル。四天王ならぬ四魔族の一人であり、魔王の忠実なる部下。まだ帝国との戦端が開かれてないのに、こんなところになんでいるんだ?

「魔族……そんな、昔の戦争でもう殆どいないはずなのに」
「目の前にいるんだから仕方ない。とにかく、助けに入ろう!」
 
 今、エドモンド氏が死んだりするのはまずい。今後の戦乱に必要な人だ。そして、ムスペルも実は同様なのだ。あいつ、意外と話がわかるやつなんだよな。

「フォミナ、回復魔法であの人達を援護だ!」
「はい! ハイ・ヒール!」

 とにかく、戦闘に加わって、ムスペルには退場願う方向で行こう。
 杖を掲げたフォミナの回復魔法で、エドモンド達が回復する。

「む、新手か? なかなか早いな」

 余裕の反応を見せるムスペルに、オレは即座に魔法を放つ。

「フロストレイ!」
 
 極低温の冷凍光線を放つ魔法だ。ウィザードで使える最高位の氷属性魔法。ムスペルは一応弱点属性が氷ではあるが、火力が高くて氷魔法が通りにくいという設定があり、<超高火力>という特殊なスキルを持っている。

「馬鹿め! 小生に氷の魔法などぬおおおおお!」

 めっちゃ効いた。やっぱズルいわ、スキル『貫通』。属性防御とかスキルとかお構いなしだしな。

「き、貴様何者だ。小生の火力を突破する氷使いなど、人間にはいないはず」

 体を半分ほど氷らせながら、驚愕の表情でオレを見るムスペル。
 ちなみにエドモンド氏とかも驚いてるが、今は目の前に集中だ。

「ただの冒険者だよ。あんた、魔族だろ。なにか企んでたみたいだけど、退いた方がいいんじゃないか? そろそろ騎士団が立て直して反撃してくるぜ?」

 それは事実だ。あの爆発がムスペルの奇襲で、かなり上手くいってたとしても神聖騎士団が全滅したわけじゃない。すでに怪我人は回復され、戦線に復帰している。ここまで来ないのは、周囲のアンデッドも集まってきてるからだ。

「ふん。少々強力な魔法が使える程度で粋がって貰っては困るな。小生の炎はこの程度では燃え尽きんよ!」

 叫びと共に、氷った半身が音を立てて崩れ、炎が吹き出した。そりゃそうだ。一撃で倒せるとは思っちゃいない。

「パラライズ!」
「なんだと! ぐっ……動けん! 馬鹿な!」

 便利だな、状態異常魔法。そしてやっぱりボスは強いな。麻痺しても喋ってる。

「もう一度言う。撤退しろ。それで、あんたの親玉に伝えろ。もっと別の道はある、と」
「貴様、何者だ……」
「そのうちわかる……」

 頼む、これで退いてくれ。ここで倒すことはできるけど、できればやめておきたい。ムスペルは上手くすれば魔王を説得するのを協力してくれる可能性があるんだ。

「冒険者殿! こちらも立て直しが終わった! 助太刀するぞ!」

 声をかけてきたのはエドモンド氏だ。フォミナの援護の下、周囲を立て直してたらしい。ここ、封印の間の前だからアンデッドもいて結構危ないんだよね。

「くっ。ここは退かせて貰う。小僧、名前は?」
「マイスだ。主にちゃんと伝えろよ」
「面白い。小生をメッセンジャーにするとは。マイスとやら、また会おう」

 ちょうどそこでパラライズの効果が切れたのか、ムスペルの体が淡く輝いたかと思うと、消え去った。

「転移魔法か。そりゃ、そのくらいは使えるか」

 意外と器用なんて設定があったのを思い出した。

「マイス君! 大丈夫ですか!?」

 フォミナが近寄ってくる。傷ついた騎士団の人達を治して大活躍だ。

「見ての通り、傷一つないよ。撤退してくれて良かったよ」

 大げさに息を一つ吐いて、危機的状況だったアピールをしておく。

「冒険者殿、助太刀感謝する。先ほどの炎の魔神について見当が?」
「見た目から魔族と判断しただけです。なにか用があって来たんじゃないかと思って、探りを入れましたが、引き出せませんでした」
「ほう。後で詳しい話を聞いても良いだろうか? まずは、ここでの仕事を終わりとしたい」

 神聖騎士団はここの封印強化が仕事だ。ちょっと危なかったけど、そちらのほうは無事に完了できそうだ。

「わかりました。お願いします」

 ラッキーだ。予定外のトラブルが発生したけど、情報をもってそうな人と接触できたぞ。

「マイス君、ちょっと嬉しそうですけれど?」
「そんなことないよ。無事に終わって安心してるだけだよ」

 フォミナに本心を見破られかけたが、オレは何とか誤魔化した。
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