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第27話:勧誘と返し技
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神聖騎士団は無事に封印の強化を行い。ここに旧大聖堂の討伐任務は終了した。終わってみれば犠牲者もいない、良い結末だったといえよう。
ただ、指揮官のエドモンド氏にとってはまったく良くないようだった。
「やはりあれが魔族であるのは間違いないということですな」
「はい。それと、何者かの命令で動いてるようですね。旧大聖堂で何をしてたのかはわかりませんでしたが」
旧大聖堂の外、指揮官用の天幕の中にオレとフォミナはいた。話し相手はエドモンド氏。話題はもちろん、戦いを妨害した魔族ムスペルについてだ。
「推測だが、ここ最近のアンデッド増加は魔族によるものだろう。彼らは魔法の力に秀でている。封印を弱めることくらいできるはずだ」
「なるほど……」
つまり、開戦前から帝国側が工作をしてたってことだろうか。ここで神聖騎士団の戦力を削げれば、かなり有利に戦える。戦争って恐いな……。
「なんで魔族がそんなことをしてきたんでしょうか? メイナス王国は魔族には温和な態度の国ですが」
魔族への対応は国によってかなり変わる。メイナス王国はその辺がかなり緩い。
「……曖昧な情報だが、帝国と商業連合の戦場に魔族が現れたという情報がある。帝国の味方としてでな」
来た。やっぱりその話になったか。
「じゃあ、魔族の中に戦争に加担している者がいると?」
エドモンド氏はゆっくりと頷く。
「当然、魔族も国家に所属する国民であれば、そういうこともあるだろう。問題は、この国で何かをしていたかということだが……」
「戦争……ですか?」
その言葉を口にしたのは、オレではなくフォミナだった。
「国境に怪しい動きがあるのは確かだ。自分が君達に話せるのはここまでだが……」
さすがに詳しい話は教えて貰えないみたいだった。でも助かる。すでに状況は大分動いてるみたいだ。国境付近にいけば、情報を得ることができるかもしれない。
「すいません。オレ達もあれが魔族だということくらいしか、わからなくて」
オレがムスペルに伝言を頼んだ件は、幸いにも聞かれていなかった。戦場は混乱してるからね。周りはそれどころじゃなかったし。ムスペル自体の情報も秘させてもらおう。なんで知ってるか問われたら大変だ。
「いや、あの場で助けに入ってくれただけで十分。正直、命拾いしたよ。なんなら、神聖騎士団に誘いたいくらいである」
エドモンド氏が笑みを浮かべつつ、握手を求めてきたのでそれに応じる。どうやら、話はこれで終わりらしい。
「騎士団務めも魅力がありますが、しばらく冒険者でいたいです。学校を出たばかりですし」
「なるほど。若い頃の自由な時間は貴重なものだ。では、お二人の報酬の方は少し色をつけておこう」
そんなやり取りをして、オレ達はエドモンド氏の天幕を後にした。
「マイス君、後で説明してくれるんですよね?」
外に出るなり、フォミナがじっとりとした目をしながら言ってきた。やっぱり気づくよな。オレが魔族ムスペルのことを知ってるとか、その辺のこと。
「わかってる。宿に帰ったらちゃんと話します。これからのことも含めて」
「これからのことっていう言い方……ちょっといいですね。じゃなくて、宜しくお願いしますよ。びっくりしたんですから」
喜びつつも怒るという器用なことをしている。なかなか珍しい。
フォミナに説明するのは問題ないけど、今後の方針もおおまかには決まった。ミレスの町からは近いうちにさよならだろう。
「フォミナ! マイス君!」
報酬を貰えるのは明日以降なので、今日は宿に戻ろうかと話していたら、声をかけられた。 オレ達の前に来たのはセアラさんだ。鎧も直って、すっかり元気な模様。
「セアラ姉さん、どうしたんですか?」
「礼を言うために探していたんだ。あの場では、そんな余裕もなかったからな」
そういうと、セアラさんは居住まいを正し、綺麗に一礼した。
「あの場の援護、助かった。マイス君もフォミナも、立派だった。以前の失礼な態度は謝罪する」
おお、ちゃんと謝れる人だったのか。というか、横のフォミナが驚いて凄い顔してる。多分、珍しい光景だこれ。
「姉さんがそんな殊勝な態度をするなんて」
「命の危険を感じれば、こうもなるさ。それで二人とも、団長に会って騎士団に誘われたんだろう? これから一緒とは頼もしいな」
「あ、それなら断りました」
「ごめんなさい。姉さん」
「なっ……」
セアラさんが死ぬほど驚いた顔をしていた。表情の変化の激しい人だ。
「な、なんで断る。安定収入、安心の職場だぞ?」
変なものでも見るかのような目でこちらを見ている。それほどですか。
どう対応したものか困っていると、フォミナが軽く溜息をついた。
「姉さん、良く聞いてください。……私達の収入、一日で三百万シルバーを超えることがあるんですよ」
「な……っ!!!」
セアラさんは腰を抜かしてその場に崩れ落ちた。
「な、なんだその収入は。それだと年収は? 一体どんなライフプランを……。いや、税の申告を……」
なんか呟き始めた。色々と具体的で世知辛い気分になるな。
「それじゃあ、姉さん、お元気で。また会いましょう」
余裕の笑みを浮かべて姉に別れを告げるフォミナ。きっと、子供の頃からムカついてたんだろうなぁ……。
そもそもフォミナは結構いい性格してるんだよな。そこがいいんだが。
「それじゃ、機会があればまた」
そう告げると、フォミナがオレの手を取ってさっさとその場から去ることになってしまった。なんか地面に計算式書いてるけど、平気かなあの人……。
「良かったの? あれで」
「いいんですよ。ちょっとスッキリしましたし」
本当にスッキリした笑顔のフォミナを見て、オレはこの子にあんまりストレスをかけないようにしようと、心から誓ったのだった。
ただ、指揮官のエドモンド氏にとってはまったく良くないようだった。
「やはりあれが魔族であるのは間違いないということですな」
「はい。それと、何者かの命令で動いてるようですね。旧大聖堂で何をしてたのかはわかりませんでしたが」
旧大聖堂の外、指揮官用の天幕の中にオレとフォミナはいた。話し相手はエドモンド氏。話題はもちろん、戦いを妨害した魔族ムスペルについてだ。
「推測だが、ここ最近のアンデッド増加は魔族によるものだろう。彼らは魔法の力に秀でている。封印を弱めることくらいできるはずだ」
「なるほど……」
つまり、開戦前から帝国側が工作をしてたってことだろうか。ここで神聖騎士団の戦力を削げれば、かなり有利に戦える。戦争って恐いな……。
「なんで魔族がそんなことをしてきたんでしょうか? メイナス王国は魔族には温和な態度の国ですが」
魔族への対応は国によってかなり変わる。メイナス王国はその辺がかなり緩い。
「……曖昧な情報だが、帝国と商業連合の戦場に魔族が現れたという情報がある。帝国の味方としてでな」
来た。やっぱりその話になったか。
「じゃあ、魔族の中に戦争に加担している者がいると?」
エドモンド氏はゆっくりと頷く。
「当然、魔族も国家に所属する国民であれば、そういうこともあるだろう。問題は、この国で何かをしていたかということだが……」
「戦争……ですか?」
その言葉を口にしたのは、オレではなくフォミナだった。
「国境に怪しい動きがあるのは確かだ。自分が君達に話せるのはここまでだが……」
さすがに詳しい話は教えて貰えないみたいだった。でも助かる。すでに状況は大分動いてるみたいだ。国境付近にいけば、情報を得ることができるかもしれない。
「すいません。オレ達もあれが魔族だということくらいしか、わからなくて」
オレがムスペルに伝言を頼んだ件は、幸いにも聞かれていなかった。戦場は混乱してるからね。周りはそれどころじゃなかったし。ムスペル自体の情報も秘させてもらおう。なんで知ってるか問われたら大変だ。
「いや、あの場で助けに入ってくれただけで十分。正直、命拾いしたよ。なんなら、神聖騎士団に誘いたいくらいである」
エドモンド氏が笑みを浮かべつつ、握手を求めてきたのでそれに応じる。どうやら、話はこれで終わりらしい。
「騎士団務めも魅力がありますが、しばらく冒険者でいたいです。学校を出たばかりですし」
「なるほど。若い頃の自由な時間は貴重なものだ。では、お二人の報酬の方は少し色をつけておこう」
そんなやり取りをして、オレ達はエドモンド氏の天幕を後にした。
「マイス君、後で説明してくれるんですよね?」
外に出るなり、フォミナがじっとりとした目をしながら言ってきた。やっぱり気づくよな。オレが魔族ムスペルのことを知ってるとか、その辺のこと。
「わかってる。宿に帰ったらちゃんと話します。これからのことも含めて」
「これからのことっていう言い方……ちょっといいですね。じゃなくて、宜しくお願いしますよ。びっくりしたんですから」
喜びつつも怒るという器用なことをしている。なかなか珍しい。
フォミナに説明するのは問題ないけど、今後の方針もおおまかには決まった。ミレスの町からは近いうちにさよならだろう。
「フォミナ! マイス君!」
報酬を貰えるのは明日以降なので、今日は宿に戻ろうかと話していたら、声をかけられた。 オレ達の前に来たのはセアラさんだ。鎧も直って、すっかり元気な模様。
「セアラ姉さん、どうしたんですか?」
「礼を言うために探していたんだ。あの場では、そんな余裕もなかったからな」
そういうと、セアラさんは居住まいを正し、綺麗に一礼した。
「あの場の援護、助かった。マイス君もフォミナも、立派だった。以前の失礼な態度は謝罪する」
おお、ちゃんと謝れる人だったのか。というか、横のフォミナが驚いて凄い顔してる。多分、珍しい光景だこれ。
「姉さんがそんな殊勝な態度をするなんて」
「命の危険を感じれば、こうもなるさ。それで二人とも、団長に会って騎士団に誘われたんだろう? これから一緒とは頼もしいな」
「あ、それなら断りました」
「ごめんなさい。姉さん」
「なっ……」
セアラさんが死ぬほど驚いた顔をしていた。表情の変化の激しい人だ。
「な、なんで断る。安定収入、安心の職場だぞ?」
変なものでも見るかのような目でこちらを見ている。それほどですか。
どう対応したものか困っていると、フォミナが軽く溜息をついた。
「姉さん、良く聞いてください。……私達の収入、一日で三百万シルバーを超えることがあるんですよ」
「な……っ!!!」
セアラさんは腰を抜かしてその場に崩れ落ちた。
「な、なんだその収入は。それだと年収は? 一体どんなライフプランを……。いや、税の申告を……」
なんか呟き始めた。色々と具体的で世知辛い気分になるな。
「それじゃあ、姉さん、お元気で。また会いましょう」
余裕の笑みを浮かべて姉に別れを告げるフォミナ。きっと、子供の頃からムカついてたんだろうなぁ……。
そもそもフォミナは結構いい性格してるんだよな。そこがいいんだが。
「それじゃ、機会があればまた」
そう告げると、フォミナがオレの手を取ってさっさとその場から去ることになってしまった。なんか地面に計算式書いてるけど、平気かなあの人……。
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