ゲームの世界に転生したら、いきなり全滅ルートに突入した件〜攻略知識を活かして、なんとかして生き延びる〜

みなかみしょう

文字の大きさ
27 / 51

第27話:勧誘と返し技

しおりを挟む
 神聖騎士団は無事に封印の強化を行い。ここに旧大聖堂の討伐任務は終了した。終わってみれば犠牲者もいない、良い結末だったといえよう。

 ただ、指揮官のエドモンド氏にとってはまったく良くないようだった。

「やはりあれが魔族であるのは間違いないということですな」
「はい。それと、何者かの命令で動いてるようですね。旧大聖堂で何をしてたのかはわかりませんでしたが」

 旧大聖堂の外、指揮官用の天幕の中にオレとフォミナはいた。話し相手はエドモンド氏。話題はもちろん、戦いを妨害した魔族ムスペルについてだ。

「推測だが、ここ最近のアンデッド増加は魔族によるものだろう。彼らは魔法の力に秀でている。封印を弱めることくらいできるはずだ」
「なるほど……」

 つまり、開戦前から帝国側が工作をしてたってことだろうか。ここで神聖騎士団の戦力を削げれば、かなり有利に戦える。戦争って恐いな……。

「なんで魔族がそんなことをしてきたんでしょうか? メイナス王国は魔族には温和な態度の国ですが」

 魔族への対応は国によってかなり変わる。メイナス王国はその辺がかなり緩い。

「……曖昧な情報だが、帝国と商業連合の戦場に魔族が現れたという情報がある。帝国の味方としてでな」

 来た。やっぱりその話になったか。

「じゃあ、魔族の中に戦争に加担している者がいると?」
 
 エドモンド氏はゆっくりと頷く。

「当然、魔族も国家に所属する国民であれば、そういうこともあるだろう。問題は、この国で何かをしていたかということだが……」
「戦争……ですか?」

 その言葉を口にしたのは、オレではなくフォミナだった。

「国境に怪しい動きがあるのは確かだ。自分が君達に話せるのはここまでだが……」

 さすがに詳しい話は教えて貰えないみたいだった。でも助かる。すでに状況は大分動いてるみたいだ。国境付近にいけば、情報を得ることができるかもしれない。

「すいません。オレ達もあれが魔族だということくらいしか、わからなくて」

 オレがムスペルに伝言を頼んだ件は、幸いにも聞かれていなかった。戦場は混乱してるからね。周りはそれどころじゃなかったし。ムスペル自体の情報も秘させてもらおう。なんで知ってるか問われたら大変だ。

「いや、あの場で助けに入ってくれただけで十分。正直、命拾いしたよ。なんなら、神聖騎士団に誘いたいくらいである」

 エドモンド氏が笑みを浮かべつつ、握手を求めてきたのでそれに応じる。どうやら、話はこれで終わりらしい。

「騎士団務めも魅力がありますが、しばらく冒険者でいたいです。学校を出たばかりですし」
「なるほど。若い頃の自由な時間は貴重なものだ。では、お二人の報酬の方は少し色をつけておこう」

 そんなやり取りをして、オレ達はエドモンド氏の天幕を後にした。

「マイス君、後で説明してくれるんですよね?」

 外に出るなり、フォミナがじっとりとした目をしながら言ってきた。やっぱり気づくよな。オレが魔族ムスペルのことを知ってるとか、その辺のこと。

「わかってる。宿に帰ったらちゃんと話します。これからのことも含めて」
「これからのことっていう言い方……ちょっといいですね。じゃなくて、宜しくお願いしますよ。びっくりしたんですから」

 喜びつつも怒るという器用なことをしている。なかなか珍しい。
 フォミナに説明するのは問題ないけど、今後の方針もおおまかには決まった。ミレスの町からは近いうちにさよならだろう。

「フォミナ! マイス君!」

 報酬を貰えるのは明日以降なので、今日は宿に戻ろうかと話していたら、声をかけられた。 オレ達の前に来たのはセアラさんだ。鎧も直って、すっかり元気な模様。

「セアラ姉さん、どうしたんですか?」
「礼を言うために探していたんだ。あの場では、そんな余裕もなかったからな」

 そういうと、セアラさんは居住まいを正し、綺麗に一礼した。

「あの場の援護、助かった。マイス君もフォミナも、立派だった。以前の失礼な態度は謝罪する」

 おお、ちゃんと謝れる人だったのか。というか、横のフォミナが驚いて凄い顔してる。多分、珍しい光景だこれ。

「姉さんがそんな殊勝な態度をするなんて」
「命の危険を感じれば、こうもなるさ。それで二人とも、団長に会って騎士団に誘われたんだろう? これから一緒とは頼もしいな」
「あ、それなら断りました」
「ごめんなさい。姉さん」
「なっ……」

 セアラさんが死ぬほど驚いた顔をしていた。表情の変化の激しい人だ。

「な、なんで断る。安定収入、安心の職場だぞ?」

 変なものでも見るかのような目でこちらを見ている。それほどですか。
 どう対応したものか困っていると、フォミナが軽く溜息をついた。

「姉さん、良く聞いてください。……私達の収入、一日で三百万シルバーを超えることがあるんですよ」
「な……っ!!!」

 セアラさんは腰を抜かしてその場に崩れ落ちた。

「な、なんだその収入は。それだと年収は? 一体どんなライフプランを……。いや、税の申告を……」

 なんか呟き始めた。色々と具体的で世知辛い気分になるな。

「それじゃあ、姉さん、お元気で。また会いましょう」

 余裕の笑みを浮かべて姉に別れを告げるフォミナ。きっと、子供の頃からムカついてたんだろうなぁ……。
 そもそもフォミナは結構いい性格してるんだよな。そこがいいんだが。

「それじゃ、機会があればまた」

 そう告げると、フォミナがオレの手を取ってさっさとその場から去ることになってしまった。なんか地面に計算式書いてるけど、平気かなあの人……。

「良かったの? あれで」
「いいんですよ。ちょっとスッキリしましたし」

 本当にスッキリした笑顔のフォミナを見て、オレはこの子にあんまりストレスをかけないようにしようと、心から誓ったのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...