魔法学園の魔眼持ち

みなかみしょう

文字の大きさ
1 / 6

1.置いてかれた二人

しおりを挟む
 嫌われているのは承知していたけれど、まさか実習中に置いて行かれるとは思わなかった。
 僕、アイセスは森の中で途方に暮れていた。
 僕は魔王学園に在籍する学生だ。身分は近接魔法使い見習い。
 学問と魔法と戦闘技術を身につけるため、田舎から出てきた。学園にはよくいるタイプの生徒だ。

 魔法学園はとても特殊な場所だ。
 施設とか教育内容とかそういうのではなく、存在自体がとても変わっている。
 まず、学園は僕たちの世界とは少し違う場所に存在している。大昔の大魔法使いが、学園を作るためだけの異世界を作り、そこで施設の運営を初めたのが起源らしい。
 世界中から魔法の才能のある人材を集め、教育し、魔法を研究して世界をよりよくする。
 あらゆる国家に属さない独立した小国家として、各国に優秀な人材や研究成果を提供しながら存続し続けているのが魔法学園である。

 僕はこの学園に通い始めて2年が経つ。簡単な魔法の習得から始まった授業もだんだん実践的になり、2年次の進級試験において、授業内容は一段と飛躍した。
 今日、僕たちは命がけの実戦を経験することになった。
 五人ごとの班に分かれ、学園の敷地内に存在する白銀の森という場所を抜け、目的地である湖に到達。そこにある魔法陣に魔力を注ぐ。

「道中で魔獣による襲撃が予想されるが、この学園で2年を過ごした君達なら問題ないだろう」
 
 先生の一人はそう言っていた。
 実際、先輩達からも似たようなことを言われた。2年の進級試験まで残れたなら、大丈夫。
 そういう話だったんだけど……。
 
 問題は班の編制だった。
 どういう理屈かわからないけど、言い渡された班編制で、僕を敵視している連中と一緒になってしまった。
 そして、実習開始早々、置いて行かれた。
 ご丁寧に、地図もない。

「困ったな。これじゃあ、目的地がわからないや。ごめんね、シルヴィさん」

 僕は隣に座る女子生徒に謝罪した。
 
 置いて行かれたのは僕だけじゃ無い。
 黒髪黒目黒眼鏡、そして黒いローブに身を包み、身長よりも大きな木の杖を肩に乗せた少女。
 同級生のシルヴィさんだ。
 年齢は僕より一つ上の17歳。学園は入学の年齢制限がないので、若い方だ。
 彼女は魔女。
 魔法使いの中の魔法使いだ。
 僕のような「最新式の高速起動魔法と剣術の併用で戦えます」とかいう現代風の魔法使いとは根本的に違う存在だ。
 彼女が扱う魔法は古代からごく一部に伝えられる秘術。
 どうやら魔女とはそういう存在らしい、シルヴィさんの魔法は見たことないけれど。
 森の中、まばらに差し込む日差しでローブを斑に染めながら、彼女は静かに座っている。
 シルヴィさんとは殆ど話したことが無い。
 いや、彼女が他の人と話すところも殆どみたことがない。授業中に必要最低限という感じだ。
 
 美人で、神秘的で、近寄りがたい。
 それがシルヴィさんだ。

「平気よ。私もあいつらに色々されてたから、班決めも含めて、狙ってやったのね。きっと」

 僕の謝罪の言葉に反応したシルヴィさんは事も無げに言った。あいつら、僕だけを標的にしていたわけじゃなかったのか。

「僕だけじゃなかったのか……」
「自分よりも目立ちすぎる人間が気に入らない人種というのはいるものね。……さて、アイセス君はこれからどうするつもり? 多分、あいつらの狙いは私達の脱落だけど」

 進級試験の続行が困難だと判断したら、魔法による合図を行うこと。
 そうすれば、こっそり監督している教員が助けに来てくれる。
 そして、留年できる。
 
 留年、それこそが僕たちを陥れたクメルの狙いだろう。あの貴族の三男坊、性格はともかく優秀なのに、なんで僕みたいな並程度の成績の生徒を目の敵にするのか。それがわからない。

「僕だってこの学年まで来た学園生徒だからね。簡単に脱落するつもりはないよ。目的はわかってる。目的地がわからないのが問題だけど、何とかなるでしょ」

 努めて気楽に僕が言うと、シルヴィさんがにっこり笑った。
 驚いた、冷たい感じの眼鏡美人と思っていたんだけど、笑顔になるととても優しい人に見える。

「うん。アイセス君が諦めの悪い人で安心したわ。一緒に行きましょう」

 そう言って、シルヴィさんは僕に手を伸ばしてきた。
 僕は少し迷った後、その手を取った。
 シルヴィさんは立ち上がり、そのまま先導するように森の中へ歩き出した。

「ちょ、シルヴィさん、行き先わかってるの?」
「勿論。クメルの持っている地図をちょっと覗き見て覚えたの」
「ちょっと覗き見って、この森の地図ってかなり複雑なはずだけど」
「大丈夫。私、魔女だから。この程度の森じゃ迷わないわ」

 自信たっぷりにシルヴィさんは断言した。
 数千人の生徒が学ぶ魔法学園において、魔女は10人くらいしかいない。
 魔女というのはそれだけ特別で、常識では計り知れない存在だと聞く。
 それにシルヴィさんは成績優秀だ。
 ここはその明晰な頭脳を頼るべきだろう。

「それじゃ、道案内はお願いしてもいいかな」
「勿論よ。見捨てられた者同士で協力して、やり返してやりましょう」
「それは楽しみだね」

 気楽に笑いあいながら、僕たちは森の奥へと歩みを進めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と側室母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

処理中です...