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1.置いてかれた二人
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嫌われているのは承知していたけれど、まさか実習中に置いて行かれるとは思わなかった。
僕、アイセスは森の中で途方に暮れていた。
僕は魔王学園に在籍する学生だ。身分は近接魔法使い見習い。
学問と魔法と戦闘技術を身につけるため、田舎から出てきた。学園にはよくいるタイプの生徒だ。
魔法学園はとても特殊な場所だ。
施設とか教育内容とかそういうのではなく、存在自体がとても変わっている。
まず、学園は僕たちの世界とは少し違う場所に存在している。大昔の大魔法使いが、学園を作るためだけの異世界を作り、そこで施設の運営を初めたのが起源らしい。
世界中から魔法の才能のある人材を集め、教育し、魔法を研究して世界をよりよくする。
あらゆる国家に属さない独立した小国家として、各国に優秀な人材や研究成果を提供しながら存続し続けているのが魔法学園である。
僕はこの学園に通い始めて2年が経つ。簡単な魔法の習得から始まった授業もだんだん実践的になり、2年次の進級試験において、授業内容は一段と飛躍した。
今日、僕たちは命がけの実戦を経験することになった。
五人ごとの班に分かれ、学園の敷地内に存在する白銀の森という場所を抜け、目的地である湖に到達。そこにある魔法陣に魔力を注ぐ。
「道中で魔獣による襲撃が予想されるが、この学園で2年を過ごした君達なら問題ないだろう」
先生の一人はそう言っていた。
実際、先輩達からも似たようなことを言われた。2年の進級試験まで残れたなら、大丈夫。
そういう話だったんだけど……。
問題は班の編制だった。
どういう理屈かわからないけど、言い渡された班編制で、僕を敵視している連中と一緒になってしまった。
そして、実習開始早々、置いて行かれた。
ご丁寧に、地図もない。
「困ったな。これじゃあ、目的地がわからないや。ごめんね、シルヴィさん」
僕は隣に座る女子生徒に謝罪した。
置いて行かれたのは僕だけじゃ無い。
黒髪黒目黒眼鏡、そして黒いローブに身を包み、身長よりも大きな木の杖を肩に乗せた少女。
同級生のシルヴィさんだ。
年齢は僕より一つ上の17歳。学園は入学の年齢制限がないので、若い方だ。
彼女は魔女。
魔法使いの中の魔法使いだ。
僕のような「最新式の高速起動魔法と剣術の併用で戦えます」とかいう現代風の魔法使いとは根本的に違う存在だ。
彼女が扱う魔法は古代からごく一部に伝えられる秘術。
どうやら魔女とはそういう存在らしい、シルヴィさんの魔法は見たことないけれど。
森の中、まばらに差し込む日差しでローブを斑に染めながら、彼女は静かに座っている。
シルヴィさんとは殆ど話したことが無い。
いや、彼女が他の人と話すところも殆どみたことがない。授業中に必要最低限という感じだ。
美人で、神秘的で、近寄りがたい。
それがシルヴィさんだ。
「平気よ。私もあいつらに色々されてたから、班決めも含めて、狙ってやったのね。きっと」
僕の謝罪の言葉に反応したシルヴィさんは事も無げに言った。あいつら、僕だけを標的にしていたわけじゃなかったのか。
「僕だけじゃなかったのか……」
「自分よりも目立ちすぎる人間が気に入らない人種というのはいるものね。……さて、アイセス君はこれからどうするつもり? 多分、あいつらの狙いは私達の脱落だけど」
進級試験の続行が困難だと判断したら、魔法による合図を行うこと。
そうすれば、こっそり監督している教員が助けに来てくれる。
そして、留年できる。
留年、それこそが僕たちを陥れたクメルの狙いだろう。あの貴族の三男坊、性格はともかく優秀なのに、なんで僕みたいな並程度の成績の生徒を目の敵にするのか。それがわからない。
「僕だってこの学年まで来た学園生徒だからね。簡単に脱落するつもりはないよ。目的はわかってる。目的地がわからないのが問題だけど、何とかなるでしょ」
努めて気楽に僕が言うと、シルヴィさんがにっこり笑った。
驚いた、冷たい感じの眼鏡美人と思っていたんだけど、笑顔になるととても優しい人に見える。
「うん。アイセス君が諦めの悪い人で安心したわ。一緒に行きましょう」
そう言って、シルヴィさんは僕に手を伸ばしてきた。
僕は少し迷った後、その手を取った。
シルヴィさんは立ち上がり、そのまま先導するように森の中へ歩き出した。
「ちょ、シルヴィさん、行き先わかってるの?」
「勿論。クメルの持っている地図をちょっと覗き見て覚えたの」
「ちょっと覗き見って、この森の地図ってかなり複雑なはずだけど」
「大丈夫。私、魔女だから。この程度の森じゃ迷わないわ」
自信たっぷりにシルヴィさんは断言した。
数千人の生徒が学ぶ魔法学園において、魔女は10人くらいしかいない。
魔女というのはそれだけ特別で、常識では計り知れない存在だと聞く。
それにシルヴィさんは成績優秀だ。
ここはその明晰な頭脳を頼るべきだろう。
「それじゃ、道案内はお願いしてもいいかな」
「勿論よ。見捨てられた者同士で協力して、やり返してやりましょう」
「それは楽しみだね」
気楽に笑いあいながら、僕たちは森の奥へと歩みを進めるのだった。
僕、アイセスは森の中で途方に暮れていた。
僕は魔王学園に在籍する学生だ。身分は近接魔法使い見習い。
学問と魔法と戦闘技術を身につけるため、田舎から出てきた。学園にはよくいるタイプの生徒だ。
魔法学園はとても特殊な場所だ。
施設とか教育内容とかそういうのではなく、存在自体がとても変わっている。
まず、学園は僕たちの世界とは少し違う場所に存在している。大昔の大魔法使いが、学園を作るためだけの異世界を作り、そこで施設の運営を初めたのが起源らしい。
世界中から魔法の才能のある人材を集め、教育し、魔法を研究して世界をよりよくする。
あらゆる国家に属さない独立した小国家として、各国に優秀な人材や研究成果を提供しながら存続し続けているのが魔法学園である。
僕はこの学園に通い始めて2年が経つ。簡単な魔法の習得から始まった授業もだんだん実践的になり、2年次の進級試験において、授業内容は一段と飛躍した。
今日、僕たちは命がけの実戦を経験することになった。
五人ごとの班に分かれ、学園の敷地内に存在する白銀の森という場所を抜け、目的地である湖に到達。そこにある魔法陣に魔力を注ぐ。
「道中で魔獣による襲撃が予想されるが、この学園で2年を過ごした君達なら問題ないだろう」
先生の一人はそう言っていた。
実際、先輩達からも似たようなことを言われた。2年の進級試験まで残れたなら、大丈夫。
そういう話だったんだけど……。
問題は班の編制だった。
どういう理屈かわからないけど、言い渡された班編制で、僕を敵視している連中と一緒になってしまった。
そして、実習開始早々、置いて行かれた。
ご丁寧に、地図もない。
「困ったな。これじゃあ、目的地がわからないや。ごめんね、シルヴィさん」
僕は隣に座る女子生徒に謝罪した。
置いて行かれたのは僕だけじゃ無い。
黒髪黒目黒眼鏡、そして黒いローブに身を包み、身長よりも大きな木の杖を肩に乗せた少女。
同級生のシルヴィさんだ。
年齢は僕より一つ上の17歳。学園は入学の年齢制限がないので、若い方だ。
彼女は魔女。
魔法使いの中の魔法使いだ。
僕のような「最新式の高速起動魔法と剣術の併用で戦えます」とかいう現代風の魔法使いとは根本的に違う存在だ。
彼女が扱う魔法は古代からごく一部に伝えられる秘術。
どうやら魔女とはそういう存在らしい、シルヴィさんの魔法は見たことないけれど。
森の中、まばらに差し込む日差しでローブを斑に染めながら、彼女は静かに座っている。
シルヴィさんとは殆ど話したことが無い。
いや、彼女が他の人と話すところも殆どみたことがない。授業中に必要最低限という感じだ。
美人で、神秘的で、近寄りがたい。
それがシルヴィさんだ。
「平気よ。私もあいつらに色々されてたから、班決めも含めて、狙ってやったのね。きっと」
僕の謝罪の言葉に反応したシルヴィさんは事も無げに言った。あいつら、僕だけを標的にしていたわけじゃなかったのか。
「僕だけじゃなかったのか……」
「自分よりも目立ちすぎる人間が気に入らない人種というのはいるものね。……さて、アイセス君はこれからどうするつもり? 多分、あいつらの狙いは私達の脱落だけど」
進級試験の続行が困難だと判断したら、魔法による合図を行うこと。
そうすれば、こっそり監督している教員が助けに来てくれる。
そして、留年できる。
留年、それこそが僕たちを陥れたクメルの狙いだろう。あの貴族の三男坊、性格はともかく優秀なのに、なんで僕みたいな並程度の成績の生徒を目の敵にするのか。それがわからない。
「僕だってこの学年まで来た学園生徒だからね。簡単に脱落するつもりはないよ。目的はわかってる。目的地がわからないのが問題だけど、何とかなるでしょ」
努めて気楽に僕が言うと、シルヴィさんがにっこり笑った。
驚いた、冷たい感じの眼鏡美人と思っていたんだけど、笑顔になるととても優しい人に見える。
「うん。アイセス君が諦めの悪い人で安心したわ。一緒に行きましょう」
そう言って、シルヴィさんは僕に手を伸ばしてきた。
僕は少し迷った後、その手を取った。
シルヴィさんは立ち上がり、そのまま先導するように森の中へ歩き出した。
「ちょ、シルヴィさん、行き先わかってるの?」
「勿論。クメルの持っている地図をちょっと覗き見て覚えたの」
「ちょっと覗き見って、この森の地図ってかなり複雑なはずだけど」
「大丈夫。私、魔女だから。この程度の森じゃ迷わないわ」
自信たっぷりにシルヴィさんは断言した。
数千人の生徒が学ぶ魔法学園において、魔女は10人くらいしかいない。
魔女というのはそれだけ特別で、常識では計り知れない存在だと聞く。
それにシルヴィさんは成績優秀だ。
ここはその明晰な頭脳を頼るべきだろう。
「それじゃ、道案内はお願いしてもいいかな」
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気楽に笑いあいながら、僕たちは森の奥へと歩みを進めるのだった。
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