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第12話:限界勇者の日常(ピクニック編)
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マイサが家に遊びに来るようになった。時間も曜日もまちまちで、孤児院での自分の役割が終わって空いた時に城門を飛び出してくる。
我が家は城門から歩いて十分。走ればもっと早い。周辺は俺が耕した地面と道しかなく、魔物はいない。安全は確保されているということで衛兵も咎めることはなかった。
「ねぇ、エンネさん。この辺りって全部クウトさんが耕したんだよね? どんな魔法を使ったの?」
「ん? んー、属性魔法の応用みたいなものじゃな。のう?」
「そ、そうだな。そのようなものだ」
まさか力技で無理矢理やったとは言えず、そんな風に誤魔化したりしつつ楽しく雑談をしている。
マイサに対して、俺は神聖魔法と属性魔法も使える万能系冒険者。エンネは魔法の専門家。そう説明してある。嘘ではないから問題ない。
マイサは働き者だった。午前中にくれば畑の手伝いをしてくれるし。午後にくれば夕食の準備に参加する。
冒険者の仕事も一緒に行きたいと言い出したが、まだ十一歳なので、遠慮してもらった。
「ボクも魔法使えるようになりたいなー。攻撃魔法じゃなくて、クウトさんがやってるような、水を撒くやつ」
「ふむ……。マイサは魔法使いの才覚があるから教えるのは構わんが。それでよいのか?」
「うん。生活に役立つほうが良さそうじゃん!」
家の前に植えた女神から貰った野菜類は順調に生育している。川まで遠いので、水まきの時は俺が魔法でやっているのをマイサは羨ましそうに眺めていた。
「生活に役立つ魔法なら俺でも教えられるぞ。とっておきのが」
「ほんと! 教えて教えて!」
「いやまて。あれは上級者向けじゃ。調節に失敗すると事故になる。……魔法はワシが教えよう」
クリエイト・ホット・ウォーターを伝授しようとしたら止められた。実際、繊細な魔法ではある。この前、エンネが試しにやろうとしたら水蒸気が物凄い勢いで出てくるだけで上手く行かなかった。……ちょっと悔しかったらしく、練習しているのを俺は気づかない振りをしている。
今日は朝から以前切り倒した木材を利用しての工作だ。簡単な衝立《ついたて》を目標にしている。
「ようやくこれに着手できたのう」
「なんか、普通に連日働いてたもんな」
まず、丸太をエンネの魔法で適当に乾燥させる。それを俺が魔力を通した斧でざっくりと板に加工。
あとは適当な長さの板をいい感じにつなげ、足になる部分を取り付ければ衝立は完成する。
一応、釘は買ってあったのでそちらを駆使して作業を進める。
「釘はここかな。マイサ」
「そうそう。そのまま。手加減してね」
そして、設計と監督はマイサだ。なんとなく勘で作ろうとする俺とエンネを見て、慌てて口を出してきた。
言われるままに釘を打つと、つなげた板材に足をつけた簡素な衝立が完成した。
「できた……。マイサ、ありがとう」
「うむ。見事なものよ。ワシらだけではこうはいかなかったじゃろう」
「二人とも、凄いことができるのに、肝心の所が雑すぎるんだよ……」
呆れ顔で言われてしまった。行き当たりばったりだったことは、否定できない。
「仕方ないよな。やったことないんだし」
「うむ。仕方のないことじゃ」
「二人とも、生活に関する意外な所が抜けてるよね」
「…………」
核心を突かれてしまい、ぐうの音も出ない。勇者や魔王の仕事に日曜大工は含まれないんだから、しょうがないじゃないのだ。
「ワシら。こういう生活は初心者じゃから仕方ないんじゃよ」
「そうだなあ。その通りだ」
「あんな凄いことできるんだもんね。それもそうか」
マイサは納得したようだった。日常の端々で俺達が魔法を使っているのを見て、最初は驚いていた。今は俺達が相当な経験をしてきたのだと想像しているようだ。
「そうだ。前から気になってたんだけどさ。二人は夫婦なの?」
「ふうふ?」
俺とエンネの口から同時に同じ言葉が出た。
そして、その意味を飲み込むのに、少しばかり時間がかかった。
「理由あって同居はしているが、結婚はしていないな」
「……うむ。そんな事実はないのじゃ。同居人じゃ。複雑な関係なのじゃ」
俺達が冷静に答えると、マイサは何故かちょっと残念そうにしていた。
「そうだよね。複雑な事情がありそうだもんね」
実際、説明しづらい複雑な事情を抱えてるのは事実だ。なので、ここは無言で肯定しておく。
「ごめんね。変なこと言って。そうだ、魔法ってすぐ教われるのかな? 水を出せるだけでも凄く助かるんだけど! 孤児院の井戸って外にあるから、冬は寒くて」
「それくらいならすぐじゃよ。少し、畑の方でやってみるとするのじゃ」
露骨に話題を変えられたのを理解しつつ、俺達はその流れに乗ってマイサへの魔法教室を始めたのだった。
◯◯◯
「お主、ちょっとピクニックに行かんか? というか行くぞい」
マイサが帰った後、台所で何か作っていたエンネがいきなりそんなことを言い出した。
いつものローブ姿、その手には藤で編まれたバスケットがある。
「どうしたんだ、突然?」
室内で瞑想していた俺は驚くばかりだ。午後は予定もないので、冒険者組合に顔を出すつもりだった。
「マイサと話していて気付いたんじゃよ。……ワシら、殆ど休んでなくないかの?」
「……本当だ」
以前のような七十二時間や四十八時間連続労働をすることは減った。そこまですることがないから。しかし、休日を過ごした記憶はない。毎日冒険者組合に顔を出している。
「言われてみれば、バリオンさんとか、たまにいない日があったな。あれは休んでいたのか……」
「うむ。驚きの事実じゃ……」
エンネの持つ籠を見る。察するに中に入っているのは弁当的な食糧だろう。
「それで早速、休日にしようってことか。さすがだな、元参謀」
「任せるのじゃ。……できれば参謀呼びはやめてくれんか。昔を思い出す」
「ごめん」
そんなわけで、今日は休日ということになった。
幸い、我が家の側にピクニックにぴったりの小高い丘がある。俺が耕した後、雑草が生え始めて緑色になっている場所だ。植えるものがないので、そのままにしたら自然の状態に戻ってしまった。
我が家と畑、ホヨラの町を見下ろせるその場所に、二人で座る。
「思ったよりもいい眺めだな」
「うむ。存外、悪くない」
平地が多いこの地域は、少し標高が上がればかなり遠くまで見通せる。
ホヨラの町の南には大きな川が流れている。一部、川から水が取り入れられて、町の中に流れ込んでいる。
それは周辺の村も同様だ。生活用水だったり、産業である染色などにも使われているんだろう。綺麗な水が沢山あるのは、この地域の将来にとって良いことになるかもしれない。
西を見れば雄大な山脈。思い返したくもない、魔王城のあった地域がその向こうにある。
東は人類の領域。王都へと続く道がほっそりと続き、周辺の農村や町をうっすらと視認できる。
「穏やかじゃなぁ」
「ああ、本当に」
誰ともなく呟いたエンネの言葉に同意する。
どれくらいぶりだろう、ゆっくりと景色を眺めたのは。人の営みと自然を眺めているだけで、こんなに落ち着くことを忘れていた。
「ところで、ピクニックって何をするんだ?」
「わからぬ。とりあえず弁当でも食うか」
ピクニックの作法を知らない俺達は、唯一できそうな能動的行動。食事を始めた。
エンネの作った野菜とベーコンのサンドウィッチはとても美味しかった。
その後、俺達は夕方まで景色を眺め続けた。いつまでも飽きること無く。
「また来ようか」
「そうじゃな。ワシもそうしたい」
初めての明確な休日は、とても良い時間を過ごせたと思う。
我が家は城門から歩いて十分。走ればもっと早い。周辺は俺が耕した地面と道しかなく、魔物はいない。安全は確保されているということで衛兵も咎めることはなかった。
「ねぇ、エンネさん。この辺りって全部クウトさんが耕したんだよね? どんな魔法を使ったの?」
「ん? んー、属性魔法の応用みたいなものじゃな。のう?」
「そ、そうだな。そのようなものだ」
まさか力技で無理矢理やったとは言えず、そんな風に誤魔化したりしつつ楽しく雑談をしている。
マイサに対して、俺は神聖魔法と属性魔法も使える万能系冒険者。エンネは魔法の専門家。そう説明してある。嘘ではないから問題ない。
マイサは働き者だった。午前中にくれば畑の手伝いをしてくれるし。午後にくれば夕食の準備に参加する。
冒険者の仕事も一緒に行きたいと言い出したが、まだ十一歳なので、遠慮してもらった。
「ボクも魔法使えるようになりたいなー。攻撃魔法じゃなくて、クウトさんがやってるような、水を撒くやつ」
「ふむ……。マイサは魔法使いの才覚があるから教えるのは構わんが。それでよいのか?」
「うん。生活に役立つほうが良さそうじゃん!」
家の前に植えた女神から貰った野菜類は順調に生育している。川まで遠いので、水まきの時は俺が魔法でやっているのをマイサは羨ましそうに眺めていた。
「生活に役立つ魔法なら俺でも教えられるぞ。とっておきのが」
「ほんと! 教えて教えて!」
「いやまて。あれは上級者向けじゃ。調節に失敗すると事故になる。……魔法はワシが教えよう」
クリエイト・ホット・ウォーターを伝授しようとしたら止められた。実際、繊細な魔法ではある。この前、エンネが試しにやろうとしたら水蒸気が物凄い勢いで出てくるだけで上手く行かなかった。……ちょっと悔しかったらしく、練習しているのを俺は気づかない振りをしている。
今日は朝から以前切り倒した木材を利用しての工作だ。簡単な衝立《ついたて》を目標にしている。
「ようやくこれに着手できたのう」
「なんか、普通に連日働いてたもんな」
まず、丸太をエンネの魔法で適当に乾燥させる。それを俺が魔力を通した斧でざっくりと板に加工。
あとは適当な長さの板をいい感じにつなげ、足になる部分を取り付ければ衝立は完成する。
一応、釘は買ってあったのでそちらを駆使して作業を進める。
「釘はここかな。マイサ」
「そうそう。そのまま。手加減してね」
そして、設計と監督はマイサだ。なんとなく勘で作ろうとする俺とエンネを見て、慌てて口を出してきた。
言われるままに釘を打つと、つなげた板材に足をつけた簡素な衝立が完成した。
「できた……。マイサ、ありがとう」
「うむ。見事なものよ。ワシらだけではこうはいかなかったじゃろう」
「二人とも、凄いことができるのに、肝心の所が雑すぎるんだよ……」
呆れ顔で言われてしまった。行き当たりばったりだったことは、否定できない。
「仕方ないよな。やったことないんだし」
「うむ。仕方のないことじゃ」
「二人とも、生活に関する意外な所が抜けてるよね」
「…………」
核心を突かれてしまい、ぐうの音も出ない。勇者や魔王の仕事に日曜大工は含まれないんだから、しょうがないじゃないのだ。
「ワシら。こういう生活は初心者じゃから仕方ないんじゃよ」
「そうだなあ。その通りだ」
「あんな凄いことできるんだもんね。それもそうか」
マイサは納得したようだった。日常の端々で俺達が魔法を使っているのを見て、最初は驚いていた。今は俺達が相当な経験をしてきたのだと想像しているようだ。
「そうだ。前から気になってたんだけどさ。二人は夫婦なの?」
「ふうふ?」
俺とエンネの口から同時に同じ言葉が出た。
そして、その意味を飲み込むのに、少しばかり時間がかかった。
「理由あって同居はしているが、結婚はしていないな」
「……うむ。そんな事実はないのじゃ。同居人じゃ。複雑な関係なのじゃ」
俺達が冷静に答えると、マイサは何故かちょっと残念そうにしていた。
「そうだよね。複雑な事情がありそうだもんね」
実際、説明しづらい複雑な事情を抱えてるのは事実だ。なので、ここは無言で肯定しておく。
「ごめんね。変なこと言って。そうだ、魔法ってすぐ教われるのかな? 水を出せるだけでも凄く助かるんだけど! 孤児院の井戸って外にあるから、冬は寒くて」
「それくらいならすぐじゃよ。少し、畑の方でやってみるとするのじゃ」
露骨に話題を変えられたのを理解しつつ、俺達はその流れに乗ってマイサへの魔法教室を始めたのだった。
◯◯◯
「お主、ちょっとピクニックに行かんか? というか行くぞい」
マイサが帰った後、台所で何か作っていたエンネがいきなりそんなことを言い出した。
いつものローブ姿、その手には藤で編まれたバスケットがある。
「どうしたんだ、突然?」
室内で瞑想していた俺は驚くばかりだ。午後は予定もないので、冒険者組合に顔を出すつもりだった。
「マイサと話していて気付いたんじゃよ。……ワシら、殆ど休んでなくないかの?」
「……本当だ」
以前のような七十二時間や四十八時間連続労働をすることは減った。そこまですることがないから。しかし、休日を過ごした記憶はない。毎日冒険者組合に顔を出している。
「言われてみれば、バリオンさんとか、たまにいない日があったな。あれは休んでいたのか……」
「うむ。驚きの事実じゃ……」
エンネの持つ籠を見る。察するに中に入っているのは弁当的な食糧だろう。
「それで早速、休日にしようってことか。さすがだな、元参謀」
「任せるのじゃ。……できれば参謀呼びはやめてくれんか。昔を思い出す」
「ごめん」
そんなわけで、今日は休日ということになった。
幸い、我が家の側にピクニックにぴったりの小高い丘がある。俺が耕した後、雑草が生え始めて緑色になっている場所だ。植えるものがないので、そのままにしたら自然の状態に戻ってしまった。
我が家と畑、ホヨラの町を見下ろせるその場所に、二人で座る。
「思ったよりもいい眺めだな」
「うむ。存外、悪くない」
平地が多いこの地域は、少し標高が上がればかなり遠くまで見通せる。
ホヨラの町の南には大きな川が流れている。一部、川から水が取り入れられて、町の中に流れ込んでいる。
それは周辺の村も同様だ。生活用水だったり、産業である染色などにも使われているんだろう。綺麗な水が沢山あるのは、この地域の将来にとって良いことになるかもしれない。
西を見れば雄大な山脈。思い返したくもない、魔王城のあった地域がその向こうにある。
東は人類の領域。王都へと続く道がほっそりと続き、周辺の農村や町をうっすらと視認できる。
「穏やかじゃなぁ」
「ああ、本当に」
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どれくらいぶりだろう、ゆっくりと景色を眺めたのは。人の営みと自然を眺めているだけで、こんなに落ち着くことを忘れていた。
「ところで、ピクニックって何をするんだ?」
「わからぬ。とりあえず弁当でも食うか」
ピクニックの作法を知らない俺達は、唯一できそうな能動的行動。食事を始めた。
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