限界勇者のスローライフ~追放気味に田舎暮らしに突入したけど、元魔王やら魔族の子と出会って何だか幸せに暮らせています~

みなかみしょう

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第30話:限界勇者の乱入1

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 まるで、勇者物語に出てくるような魔物だ。
 魔王との戦いの後半に現れる、異常な再生力をもった魔物。知性は低く、ただ暴れまわり、殺せない。ひたすら厄介な、魔王により生み出されたという存在。

 デルタン王国北部で突如出現した大型魔物はそれにとてもよく似ていた。
 数十年前、王国への反乱疑惑で所領を削られたという領主。
 家が潰されなかったのは反乱に間接的に関わっていたからだというが、その後が良くなかった。
 彼は密かに怪しげな魔法の研究を進め、数十年の歳月を費やして強力な魔物を生み出すことに成功してしまった。
 ことを起こしたタイミングも完璧だ。ちょうど国王が交代して、権力を握り直している最中のことだった。

 問題は、どうもこれが偶発的な出来事らしいということだった。
 件の領主は行方不明。……というか魔物の一部と化した可能性が高い。突如、屋敷の地下から飛び出した魔物が、散歩をしていた領主を取り込み、無差別な攻撃を開始したという情報が入っている。

 グースと名付けられた魔物はそのまま王都のある方向を目指した辺り、領主の恨みはしっかり年月として降り積もっていたようだが、これは不本意な形ではないだろうか。


 勇者達は例の魔物をどう倒したんだったか……。たしか、魔法使いが弱点を見つけて、やってくれたんだな。

「優秀な魔法使いでもいれば良かったか……」

 討伐隊向けに用意された天幕の中で、鎧を身につけながらゲイルが呟く。

「この国にいる魔法使いでは厳しいでしょうね。ルーンハイトから呼び寄せでもしなければ」
「難しいな」

 隣で佇む女性の言葉に短く返す。
 彼女はゲイルが家を出る際につけられた護衛兼お目付け役だ。自分と戦士としての能力に秀でている。それ以上に、世慣れしていることでゲイルは何度も助けられた。

 あの日、ルーンハイトを出て以降、ゲイル達は各地で魔物退治に勤しんだ。場合によっては傭兵として人間同士の小競り合いにも加わった。
 冒険者とも傭兵ともつかない生き方は、意外にもゲイルに馴染んだ。剣の腕なら初代に迫れると言われたこともあるくらいなので、本人としては納得のいく話でもある。

「政治ごっこより向いていると思ったけど、難しいもんだな」
「若様、今からでも間に合いますが……」
「わかってるだろ。それは無理だ。申し訳が立たない」

 誰に対してとは言わない。家だったり、友人だったり、望んで冷たい態度をとった勇者クウトだったり、あまりにも謝る相手が多すぎる。

 一番は、自分自身だろうか。ここで戦い、傷ついている人を見捨てるというのがどうしても思いつかなかった。

「ご立派です、若様。最後までお供致します」
「できれば逃げてほしいんだけどな。俺の勇者ごっこには付き合えないとか言って」
「ごっこではありません。ご先祖に恥じない行いかと」

 堅物のお付きは、いつも通り真面目くさって言い切った。思わずゲイルは苦笑する。

「物好きだな。生き残る保証なんてないぞ」
「戦場ならば当然のことです」

 その通りだな、と思いつつゲイルは大剣を引き抜く。
 家から持ち出した宝剣。魔王戦の際、先祖が使ったと言われる武器の一本。ドワーフが鍛え、エルフが魔法を込めたという、あの時代にはよくある名剣の一つだ。

 この剣は、使い手の魔力と刀身の崩壊とを引き換えにすることで強烈な一撃を放つことが出来る。
 更に、刀身は十日間月光を浴びることで再び蘇るという再生能力を持っている。

「この剣の力を使う。勇者物語では、最初は強引に力技で倒すことが出来ていた」
「承知致しました」

 もし、それでも駄目だったら。そんな言葉は二人の口からは出なかった。もう、他に手段はないのだから。

◯◯◯

 再生の魔物グースはとある森の付近に追い詰められていた。緊急事態にかき集められたデルタン王国の兵士と冒険者と傭兵。全力で攻撃を加えることで少しずつ王都への経路から逸らすことに成功。
 森の縁まで来た所でグースは停止した。
 
 死んだわけでもなく、暴れるわけでもないグース。怪我人多数だった討伐隊は様子を見つつ、最後の攻撃のため戦力を整え直した。

 ちょうどクウト達が町で人々を治療し終えた頃、最後の攻撃が始まった。

「全員攻撃! 魔法使いを守りながら戦うのだ!」
「おおっ!」

 指揮官の声と共に、気合いの籠もった叫びと共に戦士たちが殺到する。
 魔物グースは巨体だ。二階建ての建物くらいの大きさがある。
 その見た目は、でっぷりと太った腹の上半身の上に淀んだ目つきの獣と人が合わさったような頭が乗るという悪趣味なものだ。全身には紫色の体毛がびっしりと生えており、これはまるで鉄のように硬い。
 驚いたことに下半身は存在せず、上半身と地面に接する部分がまるでヘビのようにうねらせて移動するようだった。

「よし、行くぞ」
「お供します。若様」

 ゲイル達も近接職としてグースに突撃する。眼前では魔法だけでなく、バリスタに代表される攻城兵器を打ち込まれる巨大な魔物。
 並の魔物なら、十回は死ぬであろう攻撃。
 

「るおぉぉぉぉ!」

 不気味な方向が辺りに響く。ゲイルの鼓膜だけでなく、肌まで揺らす凄まじいものだ。

 怒涛の攻撃を、グースはまるで意に介していなかった。いや、効いてはいる。殆ど同時といっても良い勢いで再生しているのだ。

「できるだけ弱らせてから一撃叩き込みたいが……」
「承知……若様っ」

 お付きの鋭い声と同時、グースが動いた。
 魔物は走っていた。前進だ。咆哮を上げながら、人よりもゆっくりだが、確かに走っている。
 問題は、その巨体だった。鋼鉄の外装を持つ家のような大きさの存在がそれなりの速度で動く。
 それは、死を伴う突撃だった。

 先に突撃していた人々の悲鳴が聞こえた。先陣は、槍を持った騎兵。その突撃力でグースに一撃入れる役割だった。
 馬に乗ったその速度が仇となり、眼の前で騎兵たちが蹴散らされていく。

「っ! 宝剣よ! 輝く刃を!」

 ゲイルの言葉に応え、剣の刀身が光り輝く。

「いけっ!」

 そのまま、グースめがけて剣を振り抜く。刀身から光り輝く刃がいくつも飛び出し、魔物の体を切り裂いた。
 魔法を使えない者でも魔力はある。武器を持って戦う者は肉体の強化に魔力を使う。この宝剣は、武器によって魔法に近い攻撃をすることを目的としたものだった。
 
 ご先祖様は、間合いが合わなくて苦労したみたいだからな。

 それにはゲイルも同感だ。長距離から魔法使いに発見されたらどうしようもない。今回のように近づきたくないような魔物もいるだろう。

「若様、こちらに来ます!」

 言葉通り、グースの視線はゲイルに注がれていた。思えば、こうして森に追い詰められたのも、ゲイルの全力を尽くした攻撃が効いたからだ。執念深い性格だからか、しっかり覚えていたらしい。

「できる限り保たせる。弱らせるんだ。一度、伝令に行ってくれ」
「はっ」

 宝剣に光をまとわせ、ゲイルはグース目掛けて突撃する。
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