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中学生1
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◇ ◇ ◇
「ごめん!教科書見せてくんねぇ?」
「え!?う、うん」
中学校の入学式翌日で、授業が始まる初日のこと。
数学の授業開始早々、顔の前で両手を合わせ、申し訳なさそうにしつつも爽やかな笑顔でそう頼んできた隣席の人物にあおるは驚いた。
教科書を見せてほしいとお願いされたのはこれが2時間連続で、ついさっき、1時間目の国語も見せていたのだ。
教科書は昨日配布されたばかり。
初日から教科書持って来ないなんて・・・
春休みの宿題も出てたのに・・・。
「二回もごめん!」
「い、いいよ・・・全然」
申し訳なさが伝わって来ないのはニカッと笑顔で言われたからだろうか。
仕方が無いと思いながらもあおるは再び隣と机をくっ付けるべく自分の机を横に移動させる。
さっきまでは気にしないようにしていたが、先生の注意を無視し続けて私語をする生徒たちや、スマホを堂々と弄っているクラスメート達を見てあおるは何だか自分ひとりが浮いているような気がした。
そんな1年E組。
成績最下位集団の集まるクラス。
見た限り、まともに授業を受ける生徒は見当たらない。
まして、教科書見せてほしいと頼んできた隣がやる気があるだけまだマシなのではないか、と思えてくる程。
―――小学校の時のクラスメートを避けた結果がこれだった。
中学校では入学前に受けたテストの成績順で最優秀がA、普通がC、最下位がEとクラス分けされる。
普通の上がBで普通の下がDだ。
このクラスは優秀者が多いからE組になる人物は居ないだろう、と前に小学校のHRで担任が言っていたのを思い出す。
目指すはAクラス、勉強で落ちぶれるわけにはいかないんだ・・・とその時は思っていた。
しかし、それはつまりテストの成績が悪かったらみんなと違うクラスになれるという事だ。
緑川が居なくなり、新しい環境でスタートしたかったあおるは小学校の時の知り合いと同じクラスになるのは避けたかった。
―――普通に友達を作って、遊んで、楽しく過ごしたい。
だがもしEクラスになったらきっと母親から叱られてしまうだろう。
・・・苦肉の策だった。
あおるはテストの回答欄を空白にしたり、わざと間違った答えを書いた。
それで案の定、誰一人として知っている人の居ないEクラスになったのだった。
母親からは怒りを通り越して、呆れられ溜め息をつかれた。
「・・・すげぇ!お前、真面目だなっ」
春休みの宿題だった問題の答えを書き込んでいたページを見た隣の人物が声を上げた。
「あ、ありがとう・・・」
皮肉じゃない彼の言い方に、あおるも褒め言葉として素直に受け取って言葉を返した。
クラスメート達が予想外に不真面目だったとか、内気な自分が早くも元気過ぎるみんなについていけずに浮き気味だとか、そんなの大したことない、と自分に言い聞かせる。
こうやって緑川以外の人から普通に話しかけられたり、教科書を見せてほしいと頼られる事があおるにとって新鮮なものだった。
雰囲気だけでクラスに馴染めそうにないと感じても、まだ入学して2日目だ。
成績落としてでもこのクラスになって良かったと思える日がいつか来るかもしれない。
少し考え方を変えただけで、小さな希望に心が躍った。
「・・・・・・では、今日はこれで終わります。さっき配布したプリントは宿題となります」
「ええー最悪」
「宿題なんかやってらんねぇー」
「全然わかんねぇし」
チャイムが鳴り、授業終了後に宿題を出した数学教師が生徒から口々に不満を浴びていた。
まともに授業を受けてもいない生徒からブーイングを受ける先生も大変だな・・・とあおるは思ったが、教師はさらりと無視して立ち去っていった。
「はぁ~・・・マジかよ、こっちだって忙しいんだよ」
隣も宿題が出たのが不満だったらしく、大きな溜め息が聞こえた。
「な、何かあるの?」
どもってしまったが、気になったので聞いてみた。
「部活!俺スポーツ推薦で来たからさ、放課後はずっと部活で宿題やってる暇ないんだよなぁ」
「何の部活・・・?」
「バドミントン」
ずっと帰宅部なあおるは部活を経験したことはないが、きっと大変なんだろう。
「そうなんだ・・・!が、頑張ってね」
「おう!・・・あ!教科書ありがとうな、あおる!」
もういいかなと思い、いそいそと机を元の位置に戻そうとしていたあおるに明るく声がかけられた。
「え・・・!?名前なんで・・・」
「教科書の後ろに書いてあった」
「ああ、そっか」
突然名前で呼ばれてあおるはドキリとした。それは嫌ではなくて、むしろ嬉しくて。
「今更だけど俺は霧丘暁名。好きに呼んでくれていいから」
「じゃあ霧丘くん・・・?」
「うーんそうだな、苗字でもいいけど、くん、は無しで!」
よろしくなっと綺麗で人懐っこい笑顔を向けられる。あおるにはそれがとても嬉しかった。
「こ、こちらこそ・・・!!」
思わず勢いよくそう答え、霧丘の明るい笑顔につられてあおるの顔にも笑みが浮かんだ。
「おっ、笑ったの初めて見た」
入学したてで緊張もしていた上、もしかしたら暗い人物とでも思われていたのかも知れない。
やりぃ!と白い歯を見せて爽やかに笑う霧丘が眩しかった。
「ごめん!教科書見せてくんねぇ?」
「え!?う、うん」
中学校の入学式翌日で、授業が始まる初日のこと。
数学の授業開始早々、顔の前で両手を合わせ、申し訳なさそうにしつつも爽やかな笑顔でそう頼んできた隣席の人物にあおるは驚いた。
教科書を見せてほしいとお願いされたのはこれが2時間連続で、ついさっき、1時間目の国語も見せていたのだ。
教科書は昨日配布されたばかり。
初日から教科書持って来ないなんて・・・
春休みの宿題も出てたのに・・・。
「二回もごめん!」
「い、いいよ・・・全然」
申し訳なさが伝わって来ないのはニカッと笑顔で言われたからだろうか。
仕方が無いと思いながらもあおるは再び隣と机をくっ付けるべく自分の机を横に移動させる。
さっきまでは気にしないようにしていたが、先生の注意を無視し続けて私語をする生徒たちや、スマホを堂々と弄っているクラスメート達を見てあおるは何だか自分ひとりが浮いているような気がした。
そんな1年E組。
成績最下位集団の集まるクラス。
見た限り、まともに授業を受ける生徒は見当たらない。
まして、教科書見せてほしいと頼んできた隣がやる気があるだけまだマシなのではないか、と思えてくる程。
―――小学校の時のクラスメートを避けた結果がこれだった。
中学校では入学前に受けたテストの成績順で最優秀がA、普通がC、最下位がEとクラス分けされる。
普通の上がBで普通の下がDだ。
このクラスは優秀者が多いからE組になる人物は居ないだろう、と前に小学校のHRで担任が言っていたのを思い出す。
目指すはAクラス、勉強で落ちぶれるわけにはいかないんだ・・・とその時は思っていた。
しかし、それはつまりテストの成績が悪かったらみんなと違うクラスになれるという事だ。
緑川が居なくなり、新しい環境でスタートしたかったあおるは小学校の時の知り合いと同じクラスになるのは避けたかった。
―――普通に友達を作って、遊んで、楽しく過ごしたい。
だがもしEクラスになったらきっと母親から叱られてしまうだろう。
・・・苦肉の策だった。
あおるはテストの回答欄を空白にしたり、わざと間違った答えを書いた。
それで案の定、誰一人として知っている人の居ないEクラスになったのだった。
母親からは怒りを通り越して、呆れられ溜め息をつかれた。
「・・・すげぇ!お前、真面目だなっ」
春休みの宿題だった問題の答えを書き込んでいたページを見た隣の人物が声を上げた。
「あ、ありがとう・・・」
皮肉じゃない彼の言い方に、あおるも褒め言葉として素直に受け取って言葉を返した。
クラスメート達が予想外に不真面目だったとか、内気な自分が早くも元気過ぎるみんなについていけずに浮き気味だとか、そんなの大したことない、と自分に言い聞かせる。
こうやって緑川以外の人から普通に話しかけられたり、教科書を見せてほしいと頼られる事があおるにとって新鮮なものだった。
雰囲気だけでクラスに馴染めそうにないと感じても、まだ入学して2日目だ。
成績落としてでもこのクラスになって良かったと思える日がいつか来るかもしれない。
少し考え方を変えただけで、小さな希望に心が躍った。
「・・・・・・では、今日はこれで終わります。さっき配布したプリントは宿題となります」
「ええー最悪」
「宿題なんかやってらんねぇー」
「全然わかんねぇし」
チャイムが鳴り、授業終了後に宿題を出した数学教師が生徒から口々に不満を浴びていた。
まともに授業を受けてもいない生徒からブーイングを受ける先生も大変だな・・・とあおるは思ったが、教師はさらりと無視して立ち去っていった。
「はぁ~・・・マジかよ、こっちだって忙しいんだよ」
隣も宿題が出たのが不満だったらしく、大きな溜め息が聞こえた。
「な、何かあるの?」
どもってしまったが、気になったので聞いてみた。
「部活!俺スポーツ推薦で来たからさ、放課後はずっと部活で宿題やってる暇ないんだよなぁ」
「何の部活・・・?」
「バドミントン」
ずっと帰宅部なあおるは部活を経験したことはないが、きっと大変なんだろう。
「そうなんだ・・・!が、頑張ってね」
「おう!・・・あ!教科書ありがとうな、あおる!」
もういいかなと思い、いそいそと机を元の位置に戻そうとしていたあおるに明るく声がかけられた。
「え・・・!?名前なんで・・・」
「教科書の後ろに書いてあった」
「ああ、そっか」
突然名前で呼ばれてあおるはドキリとした。それは嫌ではなくて、むしろ嬉しくて。
「今更だけど俺は霧丘暁名。好きに呼んでくれていいから」
「じゃあ霧丘くん・・・?」
「うーんそうだな、苗字でもいいけど、くん、は無しで!」
よろしくなっと綺麗で人懐っこい笑顔を向けられる。あおるにはそれがとても嬉しかった。
「こ、こちらこそ・・・!!」
思わず勢いよくそう答え、霧丘の明るい笑顔につられてあおるの顔にも笑みが浮かんだ。
「おっ、笑ったの初めて見た」
入学したてで緊張もしていた上、もしかしたら暗い人物とでも思われていたのかも知れない。
やりぃ!と白い歯を見せて爽やかに笑う霧丘が眩しかった。
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