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4(緑川視点)
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珍しく父さんが家に帰ってきた時だった。
「6年間だ。よそ者の学校だが・・・小学校卒業まではお前の好きなようにするといい。但し、中学からは私の学園に通わせる。」
わかったな、とまだまだ幼い俺に釘を刺してくる父親に承諾するしかない。
「・・・分かりました」
「お前は私の大事な一人息子で、大事な跡取りなんだよ。離れたくない友人がいるからって甘いことは言ってられないんだ。大きくなればきっと分かる。」
「はい・・・」
これが父さんとの約束だった。
曾祖父の代からずっと緑川家は大規模な学園を所有している。
偉大な曾祖父が小中高一貫の学園を創設し、血の滲むような努力の成果で今では名門と呼ばれるような私立校になった。
本来なら俺も小学校から父さんの学園に通うはずだった。
小学校に上がる時、仲の良い友達と離れたくないと珍しくわがままを言って縋る俺に根負けした母さんが父さんに交渉してくれた。
冗談じゃない。
せっかくからかいがいのある奴を見つけたのに、簡単に離されるなんてたまったもんじゃない。
結局母さんは俺に弱くて、父さんは母さんに弱い。
母さんから説得された父さんはやはり条件を付けてきた。
中学からは緑川家の学校に通うこと。
・・・仕方が無い、そう思った。
母さんと父さんの愛情という弱みにつけ込んであおるも一緒に転校させたいとお願いしてみたが、それはできなかった。
それならまずは父さんの言う通りにして、後から迎え入れればいい。
お互い3年間、違う環境に身を置いて・・・そしてどんな手を使ってでもこの学園に来させる。
家は相変わらず住まわせてやってるんだから生活自体は掌握しているも同然だ。
卒業式の日、人の気も知らず嬉しそうに笑っていたあおるが心底憎らしかった。
あおると離れてから毎日が退屈で、時間が経つのが遅い。喧嘩別れしたのが、もう随分と前の事のように感じる。
今頃あいつがどうしてるのか、気になって仕方が無い。
「はぁー・・・だる・・・」
放課後、クラスメートに囲まれ、その流れで男女数人で近場のチェーン店に入り軽食を摂りながらひとしきり雑談したその帰り道。
緑川は街灯が照らす夜道をひとり歩きながら、大きくため息をついた。
特別きれいでも無い、平々凡々な人物に、なぜこんなに引きずられないといけないのか。
声や言動、表情がいちいち印象的で頭から離れないのが本当に腹立たしい。
実際に顔を見てみればこの焦燥感が消えるのか・・・・・・
険しい表情のまま緑川は普段の帰り道とは違う方向へ足を向け、目的の場所へと夜道を進んだ。
◇
「あらぁ~、修くん久しぶりね。また少し背、伸びたんじゃないかしら?」
「孝子さんこんばんは、こんな遅くにすみません・・・」
「いいのよ~いつもお世話になってるんだから、時間なんて気にせず修くんの好きな時にいつでも来てちょうだい」
ささ、上がって?と22時過ぎにも関わらず、嫌な顔一つせず迎え入れるあおるの母親に緑川は丁寧にお辞儀をすると促されるままリビングへと向かった。
「これ、この間ね、頼子さんから頂いたものなんだけど」
緑川の母親から貰ったというハーブティーを注いだマグカップをテーブルに2つ準備され、緑川は辺りを見回した。
「・・・あの、あおるは2階ですか?」
「ふふ、あの子も久々に修くんに会えて喜ぶと思うわ。今、呼んで来るわね」
「あ、大丈夫です。俺が行きます」
「あらそう?ゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます」
緑川はまたお辞儀をするとあおるの母親の柔らかい視線を背に、2階へ上がりあおるの部屋の前で立ち止まる。
今までのようにそのままドアノブを握り扉を開けようか一瞬迷って、コンコンとドアをノックした。
「・・・・・・」
返事もなければ物音もしない。
なんで今更気を遣う必要があるのかと思い出したように緑川はガチャッとドアを開けた。
「・・・暗っ」
明りが消されて真っ暗な中、ベッドでスヤスヤと寝息だけが聞こえる。
近くまで近付いても布団を肩までかけて眠っているあおるは起きる気配すらない。
ギシッと音を立てて緑川がベッドに腰を下ろす。
それでも起きないあおるに緑川は手を伸ばし頬に触れた。
「・・・んっ」
一瞬眉間に皺を寄せたがそれだけで、まだ眠り続けている。
小さい頃から見慣れた顔、久しぶりに見た無防備な顔に、胸がどうしようもなくざわついて辛い。
「・・・起きろよ」
緑川はあおるの唇に自分の口を軽く押し付けた。
いつかとは違い、あおるからの抵抗は全くない。
完全に力が抜けて、ぐっすり眠ったままのあおるの柔らかい唇をもう一度知りたくなって緑川が顔を近づけた時。
「ぅ・・・んっ」
寝返りして動いたあおるにハッとした。
布団の中でモゾモゾ動いて、今にも目を覚ましそうな予感がした。
「・・・っ」
咄嗟に緑川はこれ以上この場に居たくない衝動に駆られ、あおるの部屋を後にした。
「6年間だ。よそ者の学校だが・・・小学校卒業まではお前の好きなようにするといい。但し、中学からは私の学園に通わせる。」
わかったな、とまだまだ幼い俺に釘を刺してくる父親に承諾するしかない。
「・・・分かりました」
「お前は私の大事な一人息子で、大事な跡取りなんだよ。離れたくない友人がいるからって甘いことは言ってられないんだ。大きくなればきっと分かる。」
「はい・・・」
これが父さんとの約束だった。
曾祖父の代からずっと緑川家は大規模な学園を所有している。
偉大な曾祖父が小中高一貫の学園を創設し、血の滲むような努力の成果で今では名門と呼ばれるような私立校になった。
本来なら俺も小学校から父さんの学園に通うはずだった。
小学校に上がる時、仲の良い友達と離れたくないと珍しくわがままを言って縋る俺に根負けした母さんが父さんに交渉してくれた。
冗談じゃない。
せっかくからかいがいのある奴を見つけたのに、簡単に離されるなんてたまったもんじゃない。
結局母さんは俺に弱くて、父さんは母さんに弱い。
母さんから説得された父さんはやはり条件を付けてきた。
中学からは緑川家の学校に通うこと。
・・・仕方が無い、そう思った。
母さんと父さんの愛情という弱みにつけ込んであおるも一緒に転校させたいとお願いしてみたが、それはできなかった。
それならまずは父さんの言う通りにして、後から迎え入れればいい。
お互い3年間、違う環境に身を置いて・・・そしてどんな手を使ってでもこの学園に来させる。
家は相変わらず住まわせてやってるんだから生活自体は掌握しているも同然だ。
卒業式の日、人の気も知らず嬉しそうに笑っていたあおるが心底憎らしかった。
あおると離れてから毎日が退屈で、時間が経つのが遅い。喧嘩別れしたのが、もう随分と前の事のように感じる。
今頃あいつがどうしてるのか、気になって仕方が無い。
「はぁー・・・だる・・・」
放課後、クラスメートに囲まれ、その流れで男女数人で近場のチェーン店に入り軽食を摂りながらひとしきり雑談したその帰り道。
緑川は街灯が照らす夜道をひとり歩きながら、大きくため息をついた。
特別きれいでも無い、平々凡々な人物に、なぜこんなに引きずられないといけないのか。
声や言動、表情がいちいち印象的で頭から離れないのが本当に腹立たしい。
実際に顔を見てみればこの焦燥感が消えるのか・・・・・・
険しい表情のまま緑川は普段の帰り道とは違う方向へ足を向け、目的の場所へと夜道を進んだ。
◇
「あらぁ~、修くん久しぶりね。また少し背、伸びたんじゃないかしら?」
「孝子さんこんばんは、こんな遅くにすみません・・・」
「いいのよ~いつもお世話になってるんだから、時間なんて気にせず修くんの好きな時にいつでも来てちょうだい」
ささ、上がって?と22時過ぎにも関わらず、嫌な顔一つせず迎え入れるあおるの母親に緑川は丁寧にお辞儀をすると促されるままリビングへと向かった。
「これ、この間ね、頼子さんから頂いたものなんだけど」
緑川の母親から貰ったというハーブティーを注いだマグカップをテーブルに2つ準備され、緑川は辺りを見回した。
「・・・あの、あおるは2階ですか?」
「ふふ、あの子も久々に修くんに会えて喜ぶと思うわ。今、呼んで来るわね」
「あ、大丈夫です。俺が行きます」
「あらそう?ゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます」
緑川はまたお辞儀をするとあおるの母親の柔らかい視線を背に、2階へ上がりあおるの部屋の前で立ち止まる。
今までのようにそのままドアノブを握り扉を開けようか一瞬迷って、コンコンとドアをノックした。
「・・・・・・」
返事もなければ物音もしない。
なんで今更気を遣う必要があるのかと思い出したように緑川はガチャッとドアを開けた。
「・・・暗っ」
明りが消されて真っ暗な中、ベッドでスヤスヤと寝息だけが聞こえる。
近くまで近付いても布団を肩までかけて眠っているあおるは起きる気配すらない。
ギシッと音を立てて緑川がベッドに腰を下ろす。
それでも起きないあおるに緑川は手を伸ばし頬に触れた。
「・・・んっ」
一瞬眉間に皺を寄せたがそれだけで、まだ眠り続けている。
小さい頃から見慣れた顔、久しぶりに見た無防備な顔に、胸がどうしようもなくざわついて辛い。
「・・・起きろよ」
緑川はあおるの唇に自分の口を軽く押し付けた。
いつかとは違い、あおるからの抵抗は全くない。
完全に力が抜けて、ぐっすり眠ったままのあおるの柔らかい唇をもう一度知りたくなって緑川が顔を近づけた時。
「ぅ・・・んっ」
寝返りして動いたあおるにハッとした。
布団の中でモゾモゾ動いて、今にも目を覚ましそうな予感がした。
「・・・っ」
咄嗟に緑川はこれ以上この場に居たくない衝動に駆られ、あおるの部屋を後にした。
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