ずっと君だけ。

しゅく

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9(緑川視点)

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「あ、あの・・・!緑川先輩、握手してください!」
「私もお願いします・・・っ!」

中学3年になり、卒業式が近づいているせいか緑川は最近やたらとラブレター、告白、握手だのを求められることが多かった。
今回は一つ下の後輩にあたる女子2人。
休み時間の移動教室中を狙って来たようだった。

告白は丁寧にお断りをしていたが、握手は断るに断れない。

「俺でよければいくらでも」

にっこりと綺麗な笑顔を作って手を差し出すと、その手を2人の女子は一人ずつ両手でギュッと握った。

「ありがとうございました・・・っ!」

頬を染めた2人の女子達はキャーと言い合いながら小走りで去って行った。
そんな彼女達の背中を見る緑川の表情はさっきまでの笑顔は消え、無表情で冷めたものだった。


「すげーな。俺なら絶対断る・・・」

知らない奴に触られたくないと、緑川のすぐ横で黙って一部始終を見ていた香村かむらが呟く。

香村は自他共に認める、美形だ。
少しつり上がり気味な黒い目に少し長めの漆黒な前髪がかかり、薄めの形の良い唇はいつも不機嫌そうだが、鼻筋の通った綺麗な顔をしている。
その鼻に掛かっているフレームの薄いシンプルな眼鏡は知的な魅力を醸し出していた。

嫌なことは嫌だとはっきり態度に表し、愛想っていうものを知らない。
挨拶されてもシカトは当たり前、そういう男だ。
逆にその冷めたところが堪らないという者も多い。

緑川とは中学1年からの仲で、2人が並ぶと学園のアイドルだとかで、学校中が騒がしくなる。

「・・・・・・香村は愛想くらい俺見て学べ」

「お前のその猫被った性格より今のままがマシだ」

「はっ、そうかよ」

周りからチヤホヤされ、必要以上に注目を浴びてきた中学3年間は緑川にとって苦痛なくらいに長かった。
特に親密なわけでもないが、素を出せる香村がいなかったら気が狂っていたかもしれない。


―――卒業して高校の校舎に移動するのが楽しみで仕方が無い。


つい先日、父さんに高校推薦の受験者名簿を見せて貰ったら当然あいつの名前があった。


中三の秋頃、母さんと久々に食事をした時、あおる以上に気が合う友達は居ないと、寂しくて学校に通いたくない、と言った。
照れくさいからあおる本人には言えない、と付け加えて。
息子がぐれたら大変だと思ったのか、母さんは父さんに交渉し、父さんは推薦枠を多くするといった話をあおるの学校に持ちかけていた。

あおるの母親には母さんが電話で「あおるくんの担任の先生には既に連絡してありますので、お勉強は少し大変かも知れませんがぜひ夫の学園に来て下さい」と話していた。

あおるの母親は願ってもないお話だと喜んでいたらしい。


人からの頼まれごとを無下にできない所や褒められたり応援される事に免疫のないあおるの性格からして、絶対推薦の話を受け入れるという確信があった。
そして、それは見事に的中だった。


あと少しで再会できる。

中一の頃、寝ていたあおるに会って以降は敢えて会いに行くことをしなかった。


「・・・・・・いろいろと楽しみだな」

「・・・は?」

香村が訝しげに聞き返す。

「いや・・・なんでもねぇよ」

そう言う緑川は、いつもの王子様と言われる笑みとはかけ離れた、妖艶な笑みだった。

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