ずっと君だけ。

しゅく

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「熱・・・っ」

あおるは大きな浴槽に浸かろうと片足を入れて思わず声が漏れた。
少し熱めの湯にゆっくりと全身を入れていくとゾクゾクと鳥肌が立つ。

寮には大浴場もあるらしいが、緑川には必要ないだろう。
そう思えるほど緑川の部屋にある風呂場は綺麗で立派だった。

引き寄せられて抱きしめられた後、風呂に入るよう促され、今に至る。


・・・あんなふうに抱きつかれたのは初めてだった。

あおるはお湯に浸かりながらボーッと考えを巡らせる。
緑川のあんなに切羽詰まったような声を聞いたのも初めて。

嫌がって泣いてもいつもみたいに余計に泣かされるものだと思っていた。

でも止めてくれた。

自分の意思なんてまるっきり無視で、自分を蔑ろに扱ってきたあの緑川が。
ただの気まぐれだったのかも知れないけれど・・・。

嫌いな相手のはずなのに、抱きしめられて安堵した自分がいた。

緑川にこんな感情を抱いたことも初めてだった。


「だけどあんな事・・・・・・っ!」

強制的だったとは言え、緑川の口内に熱を放った事を思い出してあおるは湯船でバシャバシャと顔を洗う。

猛烈な恥ずかしさが込み上げてきて、逆に見えなくて良かったのかもしれない・・・なんて事まで思った。

顔を合わせづらいのと気まずさから、あおるはなかなか風呂から上がろうとしなかったが「いつまで入ってんの?」と脱衣所から声がして慌てて浴室を出た。


あおるが風呂から上がった後、緑川も入浴し終え、あとは寝るだけの状態になって気付いた。

恥ずかしさと気まずさから顔を合わせにくいが、二人きりでしかも緑川の部屋であるからそうもいかない。

「・・・っ緑川!」

寝室のベッドに潜り、今にも部屋の電気を消そうとしている緑川に切り出す。

「なに?」

何事もなかったかのように、すっかりいつも通りに戻っている緑川にあおるは少し怯む。

「お、俺の布団とかって・・・」

「無いよ」

フローリングの床に敷かれている・・・絨毯で寝ろという事なのだろうか。

「俺、床でもいいからせめて毛布貸してほしい・・・」

「は?なに言ってんの、ほら早く」

「え・・・は、早くって・・・」

小学生の頃は緑川とベッドに寝ても狭くはなかった。
が、お互い成長した今では絶対に狭いし、高校生にもなって同じベッドで寝たりなんか普通はしない・・・と思う。
戸惑っておろおろするあおるに緑川が声を低くして言う。

「・・・来たくないわけ?」

「い、いや、そんな事は・・・」

ムッとした顔で聞いてくる緑川に圧され、あおるは緑川のベッドで寝ることになり、窮屈に感じつつも向かい合わないように外向きに横になった。


電気が消され、あおるがうとうとし始めた頃だった。

「・・・なあ」

「・・・う・・・ん?」

「・・・そーいやあおる、スマホは?」

「んー・・・・・・」

「は、もう寝てんの・・・?」

眠気が強くてまともに返事をしきれてないあおるに気付き、緑川は外を向いているあおるの方へ向き直って肘を支えに上体を起こすとあおるの頬をムニッと摘まんだ。

「っん・・・なに・・・?」

「スマホどこ?」

「・・・ブレザーの、ポケットの中に・・・」

「わかった」

緑川はベッドから起き上がり、あおるのスマホを手にすると再びベッドに入った。

「・・・え、あおるスマホロックかけてないとか」

不用心だなと言いながら、勝手に人のスマホを手際よく操作し始めると、連絡先を交換しお互いのスマホに登録した。

「俺が連絡したらちゃんと応えろよ?もしシカトでもしたら・・・その時は分かってるよな」

すぐ後から甘く低く耳元で囁かれる。


スマホの事を聞かれた時点でこうなることは予想していたけれど。
連絡先を知られたことで、あおるは生活がさらに制限されるような感覚を覚えた。
それでも今は、逆らえないから言う通りにしないといけないんだ。

「・・・うん、わかった」

「つーか、何だよこの気持ち悪い履歴・・・」

あおるのスマホをチェックするように見て、電話もメッセージ履歴も霧丘しか名前のない事に気付いた緑川の声が低くなる。


いくら仲がいいにしても、ほぼ毎日のペースで通話履歴が残されている事が更に緑川を苛々させる。

緑川はデータを全て消そうとしたが、相手のスマホにも同じように消さないと意味が無いので、やめた。


「・・・・・・あいつにまた夕飯作るとか言ってたよな?」

スマホを枕元に置くと、緑川が外向きで横になっているあおるを後からグイッと引き寄せた。

「わぁっ!な、なに急に・・・ちょっ・・・少し離れ・・・っ」

「なあ・・・、俺にも作ってよ」

首元でボソボソ言われ、くすぐったくて仕方ない。
身を捩ったが緑川の腕の力が弱められる事はなく、あおるは諦めたようにはぁ・・・と小さく溜め息をこぼした。

「何を・・・?」

「お弁当」

「・・・べ、弁当?」

そう言えば学食が飽き飽きだとか緑川が言っていたのを微かに思い出す。
やっぱり傍にいてもいいように扱き使うつもりなのだろう。
どうせ自分の弁当は自分で作るからついでだと思えばそれでいいけれど。

朝から早起きして作る大変さを知っているのだろうか・・・
少しくらい俺の事も考えてほしい。

「・・・わかった」

不満を抱きながらも、あおるはそう返事するしかなかった。
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