ずっと君だけ。

しゅく

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27(緑川視点)

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「ねぇ緑川くん・・・今日こそお部屋に行ってもいい?」

金曜の夜、寮のレストランで宮野と夕食を摂って部屋に戻る途中の廊下で宮野が上目遣いで緑川に尋ねる。
最近、いや、高等部に上がってからというもの頻繁にこうしてすり寄ってくる。

「・・・あのね、宮野。もうフリはしなくていいんだよ?」

優しく拒否する言葉を述べるが、毎回緑川に躱されている宮野はなかなか諦めようとはしない。

「どうして!?僕のこと、嫌いになったの?」

「好きとか嫌いとかの前に、そもそも恋人のふりだったよね。俺たち」

「それでもいい・・・っ、やめるなんて言わないで・・・」

目には涙を溜め、顔を紅潮させて訴えてくる宮野を見て、緑川は内心溜め息をつく。

「俺たち、お互い利害一致の関係だったでしょ?」

「じゃあ僕と過ごしてた時間は・・・全部嘘だったの?」

フリでもいいから付き合ってと迫ってオッケーしてくれた事、クラスで皆の前で可愛いねって言ってくれた事、二人で歩く時なんか腕を組んでも微笑んで受け入れてくれた事。
自分に向けてくれた緑川の綺麗な笑顔が、全部嘘だったなんて思いたくない。

「・・・っ、僕、本気で緑川くんの事を・・・」

とうとう目から大粒の涙が溢れ出した宮野に緑川は困った表情を作る。

「・・・ごめんね」

「・・・っ緑川く・・・」

宮野が切羽詰まったように声を上げ、また何か言おうとした丁度その時、

「・・・おい、何の話かは知らないがいい迷惑だ。人の部屋の前でごちゃごちゃと」

向かい側から歩いて来ていた香村が緑川と宮野を見て、心底迷惑そうに言う。

「ああ、香村・・・ごめんな。お前の部屋だったなんて・・・」

「・・・・・・・・・・・・丁度良かった、入れ。俺もお前に言いたいことがあった」

香村が鍵で部屋のドアを開け、宮野をまるっきり無視して緑川に言う。

「・・・宮野、そういう事だから。ごめんね」

「早く入れ緑川、閉めるぞ」

「あ・・・っ緑川く・・・!」

宮野は緑川を呼び止めようとしたが、そんなのはお構い無しに香村がドアを閉めたため宮野の声は届かなかった。





「・・・っなんで・・・緑川くん・・・」

香村の部屋の前で取り残される形になった宮野は、脱力し、俯きながらポツリと言葉が漏れる。

一目惚れだったのに。可愛いねって言ってくれたのに。
どんな人のどんな言葉よりも一番嬉しかったのに・・・!

・・・緑川くんに近づく奴らを徹底的に排除してきた事が知られた?


―――違う。


もともと緑川くんは呼び出されて告白されるのも嬉しそうでは無かった。
だからそんな事が問題なんじゃない。

緑川くんが話しかけてくれる事が減ったのも、笑顔を向けてくれる事が減ったのも、可愛いねって言ってくれなくなったのも、全部あいつが来てから。


「・・・そうだよ、あいつが来てから緑川くんはあいつの事ばっかりで・・・・・・あいつが一番邪魔なんだよね。邪魔な掛田が居なくなればいいんだよ・・・」


誰に言うでもなく、独り言を呟きながら宮野はその場を去って行った。





「おい、もう行ったぞ」

香村はドアの覗き穴で宮野の姿がない事を確認するように見ると、まるで自分の部屋のように遠慮も無くソファーに堂々と座っている緑川に言う。

「・・・・・・タイミング良かったよ」

緑川は溜め息をつく。

「なにが、香村の部屋だったなんて・・・だ。ずっと前から知ってるだろお前」

「最近ちょっとあまりにもしつこいからな」

親同士が知り合いってだけで、特別に仲がいいわけでもないが、こんな時に香村は頼りになる。

「騒いでればいつか俺が出てくるってか?・・・・・・いっそのこと抱いてやれ」

「は?バカだろお前・・・」

ギロリと香村を見る緑川の目に本気で怒気が込められているのを察して香村が話を逸らす。

「・・・だいたい、なんで付き合うフリなんかやってたんだよ」

「名前も知らねー奴らから好きだの言われて、呼び出されて、迷惑だったんだよ。お前も分かるだろ?」

「だからってなぁ、なにも宮野じゃなくても」

「たまたま同室になった宮野ってだけで、別に誰でも良かったんだよ」

苦痛なくらいに長く感じた中等部。
あおるが居ない中学なんてどうでもよかった。

「・・・・・・俺には分からんな」

「だろーな」







「・・・いい加減もういいだろ、緑川さっさと帰れ」

宮野が居なくなって随分と時間が経っているのにも関わらず、ソファーに寝転び、スマホを弄っている緑川に香村が言う。

「・・・・・・なぁ、そーいや霧丘って奴、今日の夕食ん時居たか?」

香村の言うことには答えず、緑川は寝転んだまま何の脈絡もない事を香村に問う。

「・・・は、誰だそれ?」

「スポーツ科の特待で入った奴だったな」

「俺が知るわけないだろ」

香村は呆れ気味に返すが、緑川が他人の事を聞いてくるのが珍しく、興味が湧いた。

「で?その、霧丘って奴がどうかしたのか」

「別に。あおるがライン返さねぇから、まさかと思っただけだ」

「あおるって掛田のことだろ・・・?だからってその霧丘って奴とどう関係するんだ」

「・・・・・・小さい頃から俺だけだったあいつが、コソコソ他の奴のところに会いに行ってんのって不愉快だと思わねぇ?」

緑川は目だけが笑ってない表情で香村に問いかける。

「・・・時間見ろ、12時近いぞ。返信来ないからってお前の考えすぎだろ」

「・・・そうかもな」

香村のソファーを占領して横になっていた緑川は、ゆっくり起き上がると気怠そうに玄関へと向かう。

「・・・もうくだらん事で来るなよ」

香村の声を背中に、緑川は適当に手を振り、部屋を出た。



・・・・・・なぜ返信が来ない?

休みの前日は夜中2時ごろにラインしても大抵あおるからの返事は来ていた。
週末、出された課題は金曜の夜に終わらせるあおるはいつも遅くまで起きているのだ。
珍しく返信が来ない事に緑川は苛立つ。

・・・まさか、とは思うけれど。

「明日の朝、霧丘の部屋に行くか・・・」

緑川の低い声が小さく口から漏れた。


もしあいつが俺に黙って霧丘に会いに行って、その上、部屋に泊まってでもいたらどうしてやろうか・・・
俺に声をかけるように釘をさしておいたのに。

行くなとまでは言わなかった俺なりの優しさだったのに・・・・・・

本当にあおるは、どうしようもないなあ・・・


―――あいつにもし奪われそうな時には、仲を引き裂くしかないよな

緑川は口角を僅かに上げ、深夜でひと気の無い暗い廊下を歩いて自室へと戻って行った。

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