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しおりを挟む「ああ!」
スーパーで食材を買い、電車に乗って駅から寮まで歩いている途中、突然霧丘が声を上げる。
「ど、どうしたの霧丘?」
「あおるのから揚げ冷蔵庫に入れっぱなしだった・・・!」
何事かと思ったあおるは安心と同時に溜息が漏れる。
「なんだぁ・・・明日昼にでも自分で食べるよ」
「俺が持って帰って食うつもりだったのに・・・」
「どうせ忘れてなくて鞄に入れてても遊んでる間に味も落ちてたよ。それに寮には豪華なレストランあるからいいじゃん」
ガックリと肩を落とす霧丘にあおるが言う。
「そうかも知んねーけど、俺寮のより手作りが好きなんだよ。早くも味に飽きてきた」
「うわっ、贅沢だ霧丘。絶対レストランのが美味しいって・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・?」
喋りながら二人並んで寮へと歩いていた時、あおるが前方の寮の門前に佇む人影に気付いて足を止めた。
街灯が少なくて暗いためにぼんやりとしか見えないけれど、門にもたれ掛かるようにしている影は寮の生徒だろう。
なんだかこっちを見ているような気がして落ち着かない。
「あ・・・?なんだあいつ、こんな時間に門の前で・・・なんっか気味悪りぃな」
霧丘も前方の人影に気付き、訝しげな表情になる。
シカトして素通りしようぜ、と霧丘が歩き出したのにあおるも続いた。
歩いて行く事で、徐々に近づく人影。
近づくに連れてなぜか大きくなる胸騒ぎ。
やっと顔の判別が付くような距離になった時、あおるは息を呑んだ。
―――・・・緑川!!
緑川はまるで初めからこっちに気付いていたように、目が合っても無表情のまま崩れない。
緑川の冷めた目が、動かない表情が―――怖い。
あおるは何も言葉が浮かんで来ないし、緑川から話そうとする気配もない。
ただ見てるだけ。
なんとも言いようの無い空気の中、口を開いたのは霧丘だった。
「・・・なんだよ、緑川だったのかよ!」
「・・・緑川こんな所で何やってんだ?誰か待ってんのか?」
霧丘がそう尋ねるが、緑川は霧丘をチラリとも見ようとしない。
いつものニコやかな緑川とは違う事に気付いた霧丘が緑川に怪訝な表情を浮かべた。
「・・・なぁあおる、俺たちそろそろ行こうぜ」
すぐ横で何かに怯えるように固まったままのあおるの手首を掴み、歩き出そうとした時、冷めた目でずっとあおるを見ていた緑川の形の良い唇が動いた。
「・・・楽しかった?」
「・・・・・・っ!」
緑川の低い声に不意に問われたあおるの肩がビクッと揺れた。
「ねぇ、あおる・・・。俺に返事することも忘れるくらい楽しかった?俺を忘れるくらい夢中だった?」
映画を見る時に電源を切って、そのままだった事をあおるは思い出す。
「あ・・・ご、ごめんなさ・・・」
あおるが謝った途端、緑川の冷たい目がスッと細くなる。
「そんな言葉が聞きたいんじゃないよ」
静かな口調の中に込められた怒気。
じゃあどうしたらいいのか・・・
何を言っても、何をやっても緑川の怒気を大きくさせそうで、どうしていいのか分からず、あおるは俯いた。
そんなあおるを見た霧丘は掴んでいたあおるの腕を自分の方へ引き寄せ、口を挟む。
「・・・止めよろ緑川、ラインくらいで。あおる謝ってんだろ?」
霧丘があおるを庇ったことで緑川は眉間に皺を寄せる。
「・・・・・・霧丘・・・くんには関係ないよ」
霧丘は緑川の言葉に少なからずカチンときたらしく、反論した。
「俺とあおるが遊んでて緑川のラインの返信を忘れてたのが問題なんだろ?ならずっと一緒だった俺にも原因あるよな」
「返信とか、そんな事じゃない。たかが中学で仲良くなっただけの霧丘くんには分からないよ。ほら・・・あおる、こっち」
緑川は霧丘に言い捨てるとあおるの腕を掴み、強引に寮の入り口へと歩き始めた。
緑川の怒りは相当らしく、掴んでいる腕に痛いくらいの力が込められている。
痛いし、嫌だ。
そう思うのにこの手を振り払って霧丘の元へ走る勇気は無い。
きっとこの後で緑川の不機嫌さは全て自分に向けられるんだ。
ラインを忘れていた自分も悪かったけれど。
ただそれだけの事で、たった一回だけの失敗。
なんでこうなったんだろう。
さっきまでの楽しかった時間が嘘のよう。
さっき緑川に問い詰められた時、霧丘は自分を庇おうとしてくれた。
それなのに、黙って緑川に連れて行かれる自分を見て霧丘はどう思っているだろうか・・・
霧丘に申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「・・・・・・っあおる!!」
後からの声に慌てて振り返ると、霧丘が掴まれと言うように手を伸ばし、あおるの元へと駆け寄って来てくれようとしていた。
「霧丘・・・っ!」
咄嗟にその手を掴もうとした時、緑川の言葉によってそれは阻まれた。
「・・・あいつを選んだら、あいつは居なくなると思って」
あおるの行動を阻むには十分すぎる言葉だった。
一瞬だけ、突然転校した美守さんの顔が浮かんだ。
あおるは伸ばしていた手の力が抜け、霧丘にごめんと言おうと口を開いたが、霧丘の叫ぶような声の方がそれよりも早かった。
「・・・っいいから!あおる掴まれっ、俺はそんな脅しになんて負けないから!」
霧丘の言葉があおるの胸に大きく響いた。
思わず涙が出そうになるほど。
あおるは気付いたら霧丘の手を取り、自分の名前を叫ぶ緑川から遠ざかっていた。
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