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しおりを挟む「・・・・・・なんか気が抜けた気分だ」
夕方の帰り道。
電車から降りて自宅へと歩く途中、あおるの口から独り言が漏れる。
霧丘の手を取って緑川から逃げた後、なにか仕返しされるかも知れないと、不安や恐怖心と戦いながらもあおるは今朝きちんと登校したのだった。
昨日、もう緑川の言う事なんて聞かなくていいと霧丘は言ってくれた。
それでもクラスが違えばずっと一緒にいるのは不可能だし、情けないことに一人じゃ緑川に逆らえない自分が居るのも事実だった。何より心細い。
それなのに、肝心の緑川は欠席。
心配した宮野が担任に休んだ理由を聞いていたが、詳しいことは担任も聞いていないようだった。
宮野は放課後に緑川の部屋に行くって周囲に言ってたけれど、確かに少し気になる。
どうして緑川は欠席したのだろうか。
ここは休みで良かったと安堵して言うべきところなのに・・・
緑川が休んだことを気にしている自分に気付いてあおるはハッとした。
これじゃまるで心配しているみたいじゃないか。
あんないつも自分勝手で横暴な緑川の事をなぜ考えなくちゃならないんだ。
大体、被害を被っているのは自分なのだとあおるは一昨日のことを思い出す。
たったラインの返事を忘れてたってだけであの怒り様。
霧丘が庇ってくれなかったら、酷い事になっていたと思う。
あの時、霧丘と走りながら後ろから聞こえた自分の名前を叫ぶ緑川の声。
・・・・・・あ、れ?
あおるは思い出してなぜか胸の辺りが痛むような感覚になる。
よくよく思い返すとあれは怒りで叫んでるっていうよりもむしろ悲痛な声にも聞こえたような・・・・・・と思って否定する。
ただの気のせいだ、そんな訳ない、と。
例えもし気のせいじゃ無かったとしても、どうして胸の辺りが痛まなくちゃいけないんだ。
そうあおるは自分自身に言い聞かせた。
あれこれと考えている間に、家に着いた。
明りが点いているという事は母親が帰って来ているのだろう。
あおるが玄関のドアを開けると夕飯の良い香りがした。
昨日も日曜であるにも関わらず、いつ帰って来ていたかも分からないくらい仕事で忙しそうなのに。
今日はこんな夕方早くに帰ってきて、さらに夕飯の準備までしているだなんて・・・いつぶりだろうか。
「ただいま・・・」
返事なんて期待はしていないが、あおるは帰宅した事を伝える。
いつものようにきちんと靴を揃えて上がろうとした時、あおるよりも大きめで光沢のある黒茶色のローファーが目に入る。
それとほぼ同時に、リビングから声がした。
「あおる、おかえり~」
返事が来たことじゃなく、その声にあおるは思わず耳を疑った。
まさかと思ったあおるは駆け寄るようにリビングへ向かい、そっと様子を窺う。
そこには夕食の準備をしながら穏やかな笑顔を浮かべている母親と、テーブルの椅子に座り綺麗な笑顔で母と談笑している緑川の姿。
「・・・・・・っ!?」
な、なんで居るんだ・・・!
ふとあおるに気付いた緑川が椅子から立ち上がって近づいてくる。
「おかえり、遅かったね。今日はビーフシチューだって」
綺麗な笑顔だけれど、何を思っているのか読み取れない。
「な、なんで・・・?今日は休みなんじゃ・・・」
「そう・・・こんな事初めてだよ。あまりにも行く気分になれなくて学校休むなんてさ。・・・だから休んだ分のノートあおる見せてくれない?」
ニッコリと綺麗な顔で微笑む緑川。
いつもお世話になってるんだからそれくらいしなさい、と緑川の後ろから聞こえる母親の声。
まさか家に来られるとは思ってなかった。
相変わらず、我が子よりも緑川の肩を持つ母親に今更思う事なんてない。
「う、うん、ノート貸せばいいんだよね」
「えぇー・・・あおる頭良いんだからついでに教えてよ」
早く帰って欲しいと言う思いはあっさり切られてしまう。
それに成績はいつも緑川の方が上。
明らかにノート見に、勉強しに来たっていう目的なんかじゃない。
母親がいる手前、手荒なことはしてこないとは思うけれど。
多分、いやきっと土日の事を責めに来たに違いない。
「・・・いいよね?あおる」
返事を催促してくる緑川にあおるは力なく頷くしかなかった。
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