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しおりを挟む「い、痛いって・・・緑川・・・!」
掴まれた手首を強引に引かれながら、階段を上がり自室へと連れて行かれる。
ついさっき、夕食を母親と緑川と自分を含めて3人で食べた・・・・・・それまでは良かった。
母親の前での緑川は相変わらず物腰柔らかい態度で、言動も穏やかだったのだ。
それが食器を洗うために母親が離れた途端、「部屋に行こう」と手を引かれ、今に至る。
やっぱりというか、内心では機嫌は悪いままだったのだと、あおるは恐怖心に駆られた。
「来て」
緑川はあおるの部屋のドアを荒々しく開けるとあおるを引き込み、素早く鍵を閉め、あおるを壁に押し付ける。
壁に背中をぶつけた事であおるの口からはうっ・・・と言葉にならない声が出た。
その衝撃に顔を顰めるあおるに構いもせず、緑川はあおるの下顎を掴んで強引に視線を合わせると口を開いた。
「・・・あおる、この間俺が言ったこと忘れてないよね?」
身長差のため、緑川は自然とあおるを見下ろす形になるが、その視線は冷たく鋭い。
「・・・・・・っ」
緑川の問いかけに、恐怖心もあった事で頭が回らず、あおるは何も言葉が出ない。
不安げに目を揺らす事しかできないあおるを見て緑川は眉間に皺を寄せ、小さく舌打ちした。
「どっちか選んで。今後一切あいつと関わらないか、あいつが居なくなるか・・・」
覚悟の上で逃げたんだろ?と、言いながら緑川はあおるの下顎を掴む手にグッと力を込めた。
緑川の冷酷な言葉にあおるは愕然とした。
『あいつを選んだら、あいつは居なくなると思って』
この間、霧丘の手を取って緑川から逃げた時に言われた言葉が頭を過ぎる。
緑川は本気だった。
学校の理事長を父に持つ緑川ならそれが本当にできそうで怖い。
―――自分のせいで霧丘が居なくなるのは絶対に嫌だ。
それよりも今後一切関わらない方を選ぶのがまだマシに思えた。
自分の前から居なくなったら、もう会う事も出来ないけれど、同じ学校に居るなら・・・・・・
そう思った矢先、まるであおるを見透かすように緑川が口を開いた。
「ああ、一応言うけどあおるが俺の部屋に引っ越せば、もう二度とあいつと関わる事は無いよ」
あおるの小さな希望は砕かれ、絶望にも似た感覚に陥る。
・・・・・・自分には霧丘しかいなかった。
内向的な自分の性格もいけなかったとは思う。
それでも自然と人が集まってきて、誰からも好かれて、全てを持っているような緑川には自分の気持ちなんて分からない。
「あー・・・でも同じ寮に居るって時点で接点あるなぁ・・・・・・やっぱ霧丘には消えてもらうか?」
緑川が顎に軽く手を当て、考える素振りをして呟いた言葉に、俯いたままあおるは大きく目を見開いた。
―――選択肢なんてあって無いようなものだ。
大切な友人を「消えてもらう」だなんて、軽々しく言葉にした緑川に沸々と怒りが湧いてくる。
そうやって霧丘を奪って、また一人になった自分を見て緑川は嘲笑うのだろうか。
自分はそこまで嫌われているのだろうか。
・・・・・・どうして・・・
鼻の奥がツンッと熱くなり、徐々に視界がぼやけていく。
あおるは無意識に爪が食い込む程に強く両手を握り締めていた。
「・・・どっちなんだよ?」
淡々と聞いてくる緑川に、あおるはワナワナと体を震わせながら口を開いた。
「・・・っそんなに俺のこと嫌いなんだ!!わかったよ・・・っ!全部俺から奪うくらい嫌われてるって!」
「・・・・・・っ!?」
顔を真っ赤にして目から涙を零しながらも懸命に睨み付けながら声を張るあおるに、緑川が目を見開く。
「・・・っもういい、霧丘が居なくなったら・・・俺も消えるから!!」
固まったように動かない緑川を力の限り両手で押し返した。
わずかに緑川が後ずさった隙にあおるは部屋から出て行こうとしたが、
「待て!!」
それよりも早く緑川があおるの腕を掴んで阻止した。
「くっ、離せ・・・っ!!」
離させようと抵抗するが腕力では敵わない。
カッとなって興奮したままあおるはベッドの枕を手にするとそれでバシバシと緑川を叩く。
「・・・っ、やめろ!」
緑川は強引に掴んでいたあおるの腕を引っ張ると、そのままベッドに投げ飛ばした。
「・・・・・・っ!」
痛みはないが背中側から倒れ込んだ衝撃にあおるは顔を顰める。
緑川はベッドから起き上がろうとするあおるの胸倉を掴み、引き寄せ、険しい表情で口を開いた。
「俺はなあ、あおるに嫌いだなんて言ったことは一度もねぇよ!勝手に決めるな!!」
「で、でも・・・っ!俺のこと、憎いって言った・・・!!」
涙を流しながらあおるが反論する。
「そりゃあ憎かったよ、俺に大嫌いって直接言ってきたんだからな・・・!」
あおるはぼやける視界の中で緑川を見て目を見張った。
な、なんでそんな悲しそうな・・・・・・
泣き出しそうな顔をするんだ。
泣くのはどう考えてもこんな状況にされた自分の方なんじゃ・・・・・・なんで緑川が・・・
胸倉を掴んでいた手の力を緩め、緑川は切羽詰まった声を出す。
「だから、消えるとか言うなよ・・・っ」
あおるは腕を引かれ、緑川に強く抱き寄せられた。
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