ずっと君だけ。

しゅく

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掠れて切羽詰まった声は聞いた事あっても、こんな表情は見たこと無かった。
あおるは驚きと戸惑い、混乱のあまり呆然としてしまう。


「・・・あ、あの、緑川・・・・・・?」

「嫌なんだよ、どうしようもなく・・・っ!」

「そ・・・それ、どういう・・・」

意味?と尋ねようとするあおるの言葉を遮り、緑川が続ける。

「なんでか分かんねぇけど、とにかく苦しいんだよ・・・」


それなのにあおるの口から『消える』だなんて言葉が出て、胸が締め付けられる。



―――本当はあおるを他の奴に見せたくない。

腕の中にいる存在をこのまま独り占めしたい。


あおるには俺だけでいいんだよ。
俺だけを見てろよ。

そんな強い独占欲が心を埋め尽くす。


緑川のあおるを抱きしめている腕の力がギュッと強まる。

「・・・っ、緑川・・・?い、痛いよ・・・」

「あおるが居ないと俺は・・・・・・・・・」

さっきまでの迫力が嘘みたいに今耳元で聞こえた緑川の声は小さく、微かに震えていた。

「わ・・・っ、なに・・・?」

まるで顔の形を確かめるように輪郭を両手で包まれ、あおるはピクッと肩を揺らす。
顔に手を添えられ戸惑いのままに緑川を見れば、色素の薄い茶色の綺麗な瞳と視線が交差する。


「あおる・・・」

―――キ、キスされる・・・っ!?

そのまま顔を引き寄せられ、あおるは咄嗟にギュッと目を瞑った直後、


「ちょっと、二人とも!さっき凄い音したけど大丈夫なの?!」

声と同時にコンコンとノックされ、あおるの母親が来たと分かった。


緑川はあおると距離を取るとゆっくりと立ち上がる。

「・・・・・・大丈夫です。物音立てちゃってすみません」

言いながら自分の手で閉めた部屋の鍵を開け、扉を開いた。

「これね食後にって思って、お茶とデザートなんだけど」

「あ・・・俺、今日はもう帰ります。すみません、せっかく用意してもらったのに」

「あら、修くん泊まって行かないの?」

「明日も学校なんで、今日は帰ります」

緑川は無造作に床に置いていた上着を持つと、そのままあおるの部屋を出る。

「またいつでもいらっしゃいね」
「ありがとうございます、お邪魔しました」

呆けたようにして動けないでいるあおると、にこやかな笑顔で見送る母親を背に、緑川は階段を降りると玄関を後にした。



パタンッ・・・と玄関が閉まる音がして母親が思い出したように口を開く。


「あおる、さっき言い損ねてたけど・・・あんた修くんに迷惑かけちゃ駄目じゃない」

「え・・・?」

母親の言っている事が理解できず聞き返す。

「土曜日、一日中連絡とれないってわざわざ家にまで来てくれて・・・すっごく心配してたわよ。なのに、あんたは・・・」

もう少ししっかりしなさい、と背中をペシッと叩かれる。

あの後、霧丘の部屋でスマホの電源を入れ直すと確かに着信とメッセージもすごい数だった。
だが、てっきり怒り心頭して連絡を寄越したのだとばかり思っていたのに。

「し、心配・・・?俺を・・・?」

「あんな容姿端麗で中身まで良い子、そうそう居ないわよ。くれぐれも愛想尽かされないようにするのよ」

普段から親しみ込めて「孝子さん」と名前呼びし、その綺麗な見た目と物腰柔らかい言動にあおるの母親も緑川に陶酔しているのだろう。
そんな緑川と息子が仲良しだと信じて疑わず、母親はそれが誇らしい様子だった。

「・・・明日、学校で心配かけた事お詫びしておくのよ?」

そう言い残し、お茶とお菓子を乗せたお盆を持ちキッチンに戻っていった。


「い、いったい何だったんだ・・・・・・」

自室で一人、あおるの口から漏れる。


ついさっきは売り言葉に買い言葉、そんな感覚で咄嗟に口にした『俺も消えるから』という発言。
緑川はいつもみたいに冷めた目で「ああ、そう・・・」で終わると思ったのに。
それがこんなにも緑川の感情を揺さぶるなんて思ってもいなかった。

もしかして、思っていた以上に緑川にとって自分の存在って・・・・・・大切だったりするのだろうか。


緑川が去った後もどうしてかドクドクと煩いくらいに脈打つ自分の心臓に、あおるは戸惑いを隠せなかった。


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