ずっと君だけ。

しゅく

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「お、はよ・・・」

朝、教室へと向かう途中。
偶然にも緑川と靴箱で居合わせてしまい、あおるはぎこちなくも咄嗟に自分から挨拶した。

「・・・はよ」

緑川は一瞬驚いたような表情を見せ、短く返事をするとあおるからフイッと視線を逸らした。

何だかいつも以上に素っ気なく感じて、昨日の出来事と母親から聞いた話の内容は何かの間違いではないかと思う程。


「・・・どーゆう心境の変化?」

ぼんやりと考え事をしながら上履きに履き替えていると、再び緑川の声がした。

「な、何が?」

質問の意味が分からずあおるはパッと顔を上げる。

「初めてだろ?あおるから挨拶してくんの」

「え!?そ、そうだっけ・・・?」

そんな事など今まで意識したことも無かったあおるは呆気にとられる。

「いつも俺からだったし・・・・・・なんか、思ったより嬉しかった」

「へっ!?」

飾らない表情で言う緑川をあおるは思わず二度見した。
いつも沢山の人達から挨拶される側の緑川の口から、まさかそんな言葉が出るなんて。

たかが、自分から挨拶したくらいで・・・?

一応、昨日のやりとりは夢ではなさそうだと実感したと同時に、胸がむず痒いような妙な感覚がした。







「緑川くん、おはよう~」

「・・・っ!」

緑川とあおる、ふたり並んで教室へ向かう途中。
背後からドンッと当たってきた衝撃に、緑川は軽く前方に傾く。
突然抱きつかれた緑川は驚いたのか、一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに柔らかい笑みを作った。

「ああ、宮野。おはよう」

「ねぇ緑川くん、体はもう大丈夫なの?」

あおるの存在などまるで無視な宮野は、その大きな瞳で一心に緑川を見つめている。

「もう今は大丈夫」

「良かったぁ。僕、体調が悪いって聞いてね、お粥作って持って行ったんだよ?でも緑川くん電話もインターホンにも出ないから・・・」

僕、心配で・・・と伏せ目がちに言う宮野は本当に心から心配していたようだった。

「ああ、昨日ずっと寝てたからね」

い、いや俺の家来てたけど・・・!
さらりと嘘を吐く緑川に反射的に思ったが、あおるは内心に留める。

「そっかぁ・・・でも緑川くんが元気になって本当に良かった」

そんな宮野に悪いとでも思ったのか何なのか、緑川は宮野の頭にぽんっと優しく手を置く。

「・・・心配かけたみたいで、ごめんね?」

「っううん!緑川くん大好き・・・っ」

緑川に頭を撫でられた宮野は、頬を赤らめると緑川の腕に力いっぱいギュッと抱きついた。

自分の事なんてまるで居ないかのように繰り広げられるやり取りに、あおるはモヤモヤした気持ちになる。
あおるを完全無視な宮野は、緑川の腕をグイグイと引っ張り先に行こうとする。


・・・自分は本当に大切な存在なのだろうか。
緑川にとって気楽で、気を遣わずに済む、何でも思い通りにできる存在だから消えられると困るのだろうか・・・。


向かう場所が同じなため、あおるはその後ろを距離を空けてぽつぽつと付いていく形になった。









「掛田」

4限目終了を告げるチャイムが鳴り、教科書を机にしまっていたあおるは思いも寄らない人物に呼ばれて顔を上げる。

「え・・・っと、香村・・・くん?」

同じクラスメートであり、自分以外で唯一緑川が素で話していた相手だ。
あおるは香村と初めて会った時の印象が強く、緑川とは仲の良い友人なんだと認識していた。

真っ黒な髪にフレームの薄い眼鏡の奥には少しつり上がりぎみの黒い瞳。
鼻筋の通った端正な顔立ちは知的で不思議な魅力がある。
香村も緑川同様に非常に目立つらしく、他のクラスメートからの視線がちらほらあおるに突き刺さる。

「・・・くんは別にいらない」

「え、う、うん・・・」

にこりともせず無愛想にそう言われるが、直接話すのは初めてだったあおるにはいきなり呼び捨てなんて出来そうになかった。

そんな彼が自分に一体何の用なのだろうかとあおるは首を傾げる。

「お、俺に何か・・・?」

「さっきまでドアの所に居たんだが・・・・・・屋上で待ってる、そうだ」

誰が、なんて聞かなくてもすぐに分かった。

「わ、分かった、ありがとう」

「・・・早めに行った方がいいんじゃないか?」

香村があおるの隣、緑川の席に目配せして言う。

そう言えば、昼休みはすぐに「昼飯行くぞ」と横から腕を掴まれるのに今日はそれが無い。
緑川は何処にいるのかと教室内を見渡すと、教室の前方で宮野を含め複数人のクラスメート達に囲まれていた。
談笑をしているのか、楽しそうな雰囲気なのが伝わってくる。

「・・・まぁ、俺の知った事ではないがな」

右手の中指でズレた眼鏡を上げ、無表情のままそう言うと香村は自分の席へと戻っていく。

「うん、すぐ行く・・・!ありがとう」

あおるは弁当の入った鞄を持ち、教室を後にした。






あおるが霧丘の待つ屋上へ小走りで向かっている頃。

「・・・あいつどこ行った」

宮野たちからようやく抜け出した緑川は、香村の席まで向かうと遠巻きに見ている生徒たちに聞こえないよう、声を低くして言った。

「・・・ずっと見てたのか?」

フッと僅かに口角を上げた香村に緑川の目が鋭くなる。

「いいから言えよ。どこに行かせた」

込み上げてくる怒りを必死に抑えているような緑川に、香村は溜息交じりに口を開いた。

別にあおるのみかたでも、緑川のみかたでもない。
それにこれ以上緑川の怒りを買っても良いことなんてない。

「・・・屋上だよ。これでいいか」

「・・・・・・っ!」

「あ、おい・・・!」

「待って・・・!緑川くん!」

唐突に教室を立ち去ろうとする緑川を宮野が咄嗟に引き止める。
普段から物腰柔らかく、余裕があり、慌てることなんて無かった緑川の行動に宮野は戸惑う。

香村との会話も聞こえなかった宮野は状況も掴めない。
どうして緑川が慌てた様子なのかすらも理解できない。

「ど、どこに行くの緑川くん・・・?」

宮野の声に、緑川はいつもの柔らかい笑顔を貼り付け、振り向く。

「・・・ねぇ宮野。今日は屋上で食べようか」

「うんっ」

状況は把握できないままだったが、緑川のいつもの笑顔に安心した宮野は緑川に駆け寄り、腕に抱きついた。


「・・・俺も混ぜてもらおうかな」

屋上へと歩き出す二人の後ろ姿を見て、独り言のように香村が呟いた。

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