ずっと君だけ。

しゅく

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「・・・つーかちょっと安心した。あおるがちゃんと来て」

フェンス越しに綺麗な景色を目の前にして、あおると霧丘は横に並んで座る。
あおるの頭にポンッと優しく手を乗せ、しみじみと言う霧丘にあおるは少し笑いを零す。

「霧丘が待ってるのに来ないわけないじゃんか」

「あいつ、緑川に邪魔されるかと思った」

霧丘の眉間に皺が寄ったのを見て、緑川への嫌悪感が伝わってくる。

「あ、うん、緑川はクラスの友達と話してたからその間に・・・」

「・・・そっか。やっぱ直接呼ばなくて正解だったな。あいつ俺見つけたら付いて来そうだし」

だからわざわざ伝言にしたのかと、あおるは納得した。

「・・・そういえば霧丘って香村くんと知り合い?」

霧丘の伝言を伝えてくれた時、ふと気になって尋ねる。

「いや?偶然通りかかってドアの前に居た俺に声かけてくれた」

特進クラスであんな親切な奴は初めて見たと感心した様子の霧丘に、あおるは意外性を感じる。
緑川と仲が良くて無愛想で冷めたイメージだったけれど、本当はいい人なのかも知れない。

「そうだったんだ。とりあえず食べながら話そう」

そろそろ空腹も限界に近かったあおるは鞄から弁当を取り出す。

「そうだな。さっきからあおるの腹うるせぇくらい鳴りっぱなしだしな」

「俺、一回しか鳴ってないよ!」

悪戯っぽい笑顔で揶揄する霧丘にあおるは頬を膨らませて言い返す。

「ははっ、んな怒んなよ」

霧丘は大げさにムッとした顔をして弁当のおかずを口に入れたあおるの頬をムニッと摘まみ、あおるの機嫌を取る。
そして一呼吸置き、ゆっくりと口を開いた。

「・・・なあ、あおる。ずっと気になってたんだけど、この間緑川から逃げた後は大丈夫だったか?」

何かされたり、脅されたりしなかったか?と心配そうに霧丘があおるの顔を覗き込む。
そんな霧丘の表情を見て、言うべきなのだろうかとあおるは思う。

土曜日、緑川が連絡つかない自分を心配して家にまで来ていたらしい事。
口論になった末、力強く抱きしめられた事。
俺も消えると口走った時の緑川の表情は苦しそうで、いつもと違っていた事。
その時に思わずキスされるかと思った事。
そして力ずくだったが以前緑川にキス・・・ましてやそれ以上の行為をされた事・・・・・・はいくら霧丘でも言えそうになかった。

もし全てを話して引かれたり、気持ち悪がられて逃げられたりしたら、と考えると言葉が出てこない。

「・・・・・・お、俺」

どう話せばいいか分からず、あおるが言葉に詰まった時。


「わぁ・・・っ、僕屋上来たの初めて・・・!」

聞き覚えのある可愛らしい声と一緒にガチャッとドアが開かれた。

「緑川くんっ、こっち!景色見ながら食べよ~?」

屋上に着き、宮野にグイグイと腕を引っ張られながら緑川は何かを探すように周囲を見渡す。
そして目的のものを見つけると、緑川は小さく呟いた。

「ほら、また・・・目を離すとすぐ・・・・・・」

「え?緑川くん今なんて言ったの?」

振り向いて聞き返してきた宮野に緑川はいつもの笑顔を向ける。

「ううん、たまには屋上もいいねって」



―――な、なんで・・・!

背後の方で聞こえた会話に、あおるは言いようのない緊張が走る。
いつも屋上になんて来ないのに・・・!

「あおる、振り向いたらダメだぞ」

霧丘も後ろからの会話に気付いたらしく、あおるにボソリと耳打ちする。

「う、うん」

「普通に食おうぜ。堂々と。このまま前向いてれば気付かれないかも知れねーし」

な?と、大丈夫だと意を込めて霧丘はニカッと爽やかな笑顔をあおるに向けた。

そうだ。ただ霧丘と昼食を一緒に食べていただけ。
なのにどうして、いけない事をしていて見つかった時のような感覚にならなくちゃいけいないんだとあおるは自問する。


「おっ、あおるの弁当から揚げ3つも入ってんじゃん。パンだけの俺に一個恵んで欲しいな~なんて」

後ろの方に聞こえないように気を配りながら、場を和ませるように霧丘がいつもの調子で話しかけてくる。

「なぁ・・・いいだろ?妙にコソコソする方が変だって」

表情が硬いままのあおるに霧丘が言う。

た、確かに、妙にコソコソする方がおかしく思われてしまう。
本当に偶然屋上に来ただけかもしれないのに。
向こう側からは背中しか見えない状況で、声も聞こえなければきっと気付かないまま宮野と楽しく食事して帰るだろう。

「・・・じゃあはい、1個だけならあげるよ」

あおるは唐揚げを箸で刺すと右手にパン、左手にパック牛乳を持ち、両手の塞がっている霧丘の口元へと持って行く。
やりぃ、と霧丘が笑ってあおるが持つ唐揚げに口を近付けた時だった。

「あおる」

「・・・・・・っ!?」

王子様と言われるその優しい声色とは裏腹に、あおるはガッと肩を強く掴まれ、そのまま後ろに振り向かされた。



「・・・俺に黙って行っちゃうなんて酷いな」

ニッコリと笑顔を浮かべる緑川。

「・・・っ」

あっさりバレていた上、目だけが笑ってないその表情に、あおるは恐怖を感じて言葉が上手く出てこない。
そんな中、邪魔されたことに苛立ったのか霧丘が緑川に鋭い視線を向ける。

「・・・なんでお前がここに来るんだよ」

「ダメだよあおる・・・俺に声かけるって約束、忘れてた?」

霧丘には見向きもせず、緑川があおるの肩を掴む手に力を込めたまま優しい口調で問いかける。
まるで居ないように扱われた霧丘はカチンときて口を挟む。

「俺が誘ったんだよ。つーか何であおるがお前に縛られなきゃなんねぇんだよ?」

そう言いながら霧丘はあおるの肩に置いている緑川の手を思い切り振り払った。
緑川は弾かれた手の甲を軽く擦りながら霧丘をきつく睨む。

「霧丘・・・くんには聞いてないんだけどなあ」

「今更“くん”なんて付けなくていい。お前の事はもう全部知ってんだよ」

「へー、そう・・・・・・で?」

「一見優しそうなお前が、実は最低な奴だってな」

「それさ、あおるがそう言ってたのかな?」

間髪を入れずに言い合う二人の間で、あおるは口を挟むこともできず、おろおろするばかり。
緑川はともかく、あおるはこんな霧丘を見たのは初めてだった。

不穏な空気が漂う中、それを壊したのは宮野だった。

「緑川くん!っはぁ・・・後ろ見たら急に居なくなっちゃってたから僕びっくりしちゃった・・・・・・お友達?」

緑川の後を追いかけてきた宮野があおると霧丘の顔を覗き込む。
あおるの顔を見た宮野は周りに気付かれないように「なんだ・・・」と小さく溜息をつき、霧丘を見ると可愛らしい笑顔に変わった。

「掛田くんもお友達と屋上に来てたんだね~。あ、僕宮野って言います!よろしくねっ」

宮野はニッコリと花が舞うような笑顔を霧丘に見せた。

「あ、ああ・・・霧丘です。こっちこそよろしく」

さっきの緑川との会話で険悪な顔をしていたが、初対面である宮野にまでそんな態度を取るわけにもいかず、霧丘はとりあえず笑顔で返した。
そんな霧丘を見た緑川は、さっきの話はこれで終わりだとばかりに綺麗な笑顔を浮かべ、宮野に提案する。

「ねぇ、宮野。せっかくだからあおる達と一緒に食べよう?」

「え・・・う、うん。そうだねっ」

宮野は笑顔で賛同したが、内心では二人きりで食べたかったのだろう。その証拠にいつも可愛らしい笑顔は引きつっていた。


緑川があおるの隣、宮野が緑川の隣に腰を下ろした時、見計らったかのようなタイミングで屋上のドアが開かれた。
そして真っ直ぐこちらへと歩いてくる人物に気付いた霧丘が口を開く。

「あ、さっきの・・・」

「ここに居ることを言ったら不都合だったかと思って様子見に来たんだが・・・」

4人で今にも昼食を摂ろうとしていた状況を見た香村が霧丘に目配せした。

「いや・・・、さっきは伝言ありがとな」

何も悪くない香村に霧丘がいつもの調子で返す。
香村と目が合ったあおるもありがとうと小さく頷いたら、横に居る緑川に睨まれた。

「・・・そうだ、お前も昼飯まだなら一緒に食う?」

香村の右手にある弁当箱を見た霧丘が言う。
宮野や香村の前ではもう込み入った話なんてできそうにない。
それにあおると同じクラスの香村と宮野をむやみに遠ざけるなんてことしたら、あおるがクラスで気まずい思いをしてしまう。
そう思ったら霧丘は咄嗟に誘っていた。

「・・・ああ、そうさせてもらおうかな」

フッと口角を上げて言った香村に宮野は大きく目を見開いた後、すぐに嫌そうな顔に変わった。

緑川は何を企んでいるんだと香村を睨む。

香村に関して殆ど知らないあおるは、とにかく今は緑川に咎められなくて済むと、内心ホッとした。
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