ずっと君だけ。

しゅく

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霧丘、あおる、緑川、宮野、香村の順に円のような形になって座る。

霧丘とあおるは途中だった食事を再開し、香村は持ってきていた弁当の包みを開ける。

「あれ・・・緑川くん今日パンだけなの?」

売店で買ったらしいパンの袋を開けようとしていた緑川を見て、宮野が小首を傾げて尋ねた。
顔が顔なだけにその姿は同じ男のあおるから見ても可愛らしいと思えるものだった。

「ああ、そうだね」

緑川はにこやかにそう答え、あおるを横目で見る。
何で今日は作ってないのか、と視線がそう言っているように感じてあおるは思わずサッと目を逸らした。

昨日はいつまでもドクドクと鳴る心臓と考え事をしていたせいで、なかなか寝付けず寝坊したあおるは母親が作ってくれた弁当を持たされた。
慌てて家を出てきたあおるは緑川の分の事など忘れていたのだ。

「あの、緑川くん僕ね、今日もし良かったらって思ってお弁当作ってきたんだけど・・・」

「ああ、ありがとう。頂くね」

おずおずと弁当を差し出す宮野に、緑川は綺麗な微笑みでその弁当を受け取った。

「・・・うん。美味しいよ」

緑川に褒められた宮野は、微かに頬を赤く染めた。

「嬉しい・・・っ!僕これから毎日でも・・・」

「ありがとう宮野、でも毎日は悪いよ。それにあおるがいつも弁当だからついでに俺のも作ってくれるって言ってくれてるんだ」

緑川は宮野の言葉を遮り、やんわりと断った。
日頃から学食が多い宮野は、ついでだからとも言えず、悔し紛れにキッとあおるへと鋭い視線を向ける。

「え、えっと・・・」

あおるは咄嗟に何と答えたらいいのかわからず言葉に詰まっていた時、今まで黙って聞いていた霧丘が口を開いた。

「せっかくそう言ってくれてるんだし、これからは宮野君に作ってもらったらどうなんだ?」

「そうだよ緑川くんっ、僕全然大変じゃないよ?」

霧丘の言葉に宮野も乗っかる。

「・・・・・・それじゃあ、時々宮野が作った時にでも貰うね。やっぱり毎日は申し訳ないから」

そう答えずにはいられない状況になった緑川はチッと内心舌打ちする。

「うんっ」

宮野はパァッと明るくなり、嬉しそうに返事をした。


―――自分には家賃代わりだと、容赦なく毎日作って来いとか言ってたくせに・・・!
と、あおるは宮野との態度の違いにもやもやせずには居られなかった。

そんな中、この状況を面白がるようにして傍聴していた香村がふと口を開く。

「・・・くっ・・・良かったな、緑川」

「・・・何が可笑しいのかな、香村」

緑川の心情を見透かしたような香村の口調に引きつりそうになる表情を必死に抑えて、緑川は穏やかな笑みを浮かべて尋ねる。

「いや?日頃の行いが良いとこんなにも想ってもらえるなら、俺も少し見習おうと思ってな」

猫被ってるからこうなるんだと言わんばかりの香村の言葉に、緑川の機嫌は悪くなる一方だった。




「ねぇ、緑川くんそれでね」
「うん」
「この間行った旅行で―――・・・」

宮野と緑川の会話が弾む中。
霧丘が横で自分の弁当を頬張っていたあおるに話しかける。

「・・・なぁ、あおるさっきの」

ズイッと顔を近付けてきた霧丘の視線の先に気付いたあおるは仕方ないなぁと溜息交じりに笑みをこぼすと、唐揚げを箸で刺し、それを霧丘に手渡す。
さっき霧丘にあげそびれたものだ。

「・・・そんなに食べたかった?」

「そりゃもう。だって俺、からあげ大好きだし」

ニカッと笑って言う霧丘にあおるも自然と笑顔になる。

「ああ、そうだったね」

ほのぼのとした会話を繰り広げる二人を横目で見て、緑川は顔が引きつりそうになるのを必死に抑える。
そんな気も知らず、暢気に喋り続ける宮野が煩わしくて仕方が無い。

緑川は香村に目を遣るが、我関せずといった様子で黙々と弁当を食べており、緑川はまた舌打ちした。

「・・・・・・緑川くん聞いてる?」

「あ、ああ聞いてるよ」

緑川はニッコリ微笑んでそう返した。







「あ、そーいやさ、今日部活1時間早く終わるんだ」

もぐもぐと口を動かしながら、霧丘が思い出したようにあおるに話しかける。

「へー、じゃあ今日はゆっくりできるね」

「いや、つまりだな、その1時間だけ体育館自由開放されるんだよ」

うん、とあおるは相槌を打つ。

「・・・久しぶりに打ち合うか?軟弱なあおるには時に運動だって必要だろ?」

ニヤリと笑って揶揄する霧丘の言葉に、あおるは大げさにムッとしたような態度を取る。

「な、軟弱じゃないよ・・・!」

「この間見たとき、ヒョロかったもんお前。めっちゃ色白だし」

「だからっ、たまに筋トレしてるってば・・・!」

「はは、んなムキになんなよ。で、来る?」

「うん、行―――」

「駄目だ」

あおるが意気揚々と返事をしようとした時、それは緑川によって遮られた。

「あおる、放課後は俺と出かけるって約束してたよね?」

「や、約束・・・?」

もしかして忘れてたの?と緑川に優しく問いかけられるが、そんな約束した覚えは無い。
ふと視線を感じて見れば、会話が途切れた上に放課後の約束があると聞いて腹が立ったのか、鋭い目つきで睨んでくる宮野と目が合った。
戸惑うあおるの表情を見た霧丘は、あおるの腕を掴み、グイッと自分の方へ引き寄せた。

「・・・おい、やめろよ緑川。そうやって脅すような言い方」

霧丘は威嚇するように言う。
緑川は霧丘に鋭い視線を向ける。

「・・・さっきから霧丘君には聞いてないって、俺言ったんだけどなあ」

ここで負けるかと、霧丘が反論する。

「緑川ってさ、あおるが断れないように誘導するのうまいよな」

さすが幼馴染み、と厭味を含めた霧丘の発言に緑川はカチンとくる。

「・・・それどういう意味?」

緑川の笑みは消え、淡々と冷めた口調から本気で憤っている事があおるにも分かる。
今までこんな緑川を見たことが無いのか、宮野はいつもと違う緑川に戸惑うような視線を送っていた。


・・・そんな中、緑川と霧丘の口論を止めたのは意外にも香村だった。

「・・・・・・言い難いんだが、あと3分で昼休み終わるぞ」

既に食事を終え、腕時計を見ながら淡々とした口調で話す香村の言葉にハッと気付いたように宮野が動き出す。

「み、緑川くんもう戻ろう?僕、次の英語訳あたってて・・・」

宮野が緑川の腕をギュッと掴んで言った。

「ああ・・・そうだね、そろそろ戻らないとね。宮野、ごちそうさま」

「・・・あれ、緑川くんもしかしてアスパラガス苦手だった?」

もう時間だからと、緑川が弁当箱の蓋を閉めようとした時、弁当箱に残されたアスパラガスのベーコン巻きが目に留まり、宮野が尋ねる。

「あ、ああ・・・ごめんね宮野。それだけは昔からダメで・・・」


―――え・・・?

横から聞こえてきた会話にあおるの動きが止まる。

「ううんっ!僕知らなくて・・・次からは入れないようにするねっ」

申し訳なさそうな顔をしてみせる緑川に、宮野が気にしないでと、明るく笑顔で答えた。


「・・・おーい、あおる?」

弁当箱を片付ける手を止め、どこか呆けた顔をしたあおるに霧丘が声を掛ける。

「どうかしたか?俺たちもそろそろ行かねーと。時間ねぇぞ」

「え、う、うん」

ハッとしたあおるはババッと弁当箱を片付け、香村、宮野、緑川、霧丘に引き続き屋上を後にした。

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