ずっと君だけ。

しゅく

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「いいか、あおる。何かあったらすぐ連絡するんだぞ。な?」

別れ際。
前方を歩く緑川に聞こえないよう、霧丘があおるに耳打ちする。

「うん、わかった・・・ありがとう、霧丘」

霧丘の真剣な目にあおるは頼もしさを感じた。
霧丘が居てくれて本当によかった。

「いつでも連絡できるようにスマホは鞄じゃなくてポケットに入れとけよな。」

油断は禁物だからな、と言う霧丘の言動がまるで子を心配する過保護な親みたいで。

「ちょ・・・なに半笑いになってんだよ」

思わず顔に出てしまっていたようだ。

「ごめん、なんかちょっと嬉しくって」

ふふっと控えめに笑うあおるの顔を見た霧丘は、胸がキュッとした感覚になる。

「ば、ばかやろー!こっちは真剣に心配してんだぞ」

「不謹慎かな・・・?」

「そうだ、ふきんしんだ、ふきんしん!このっ・・・!」

「うわぁっ・・・!」

霧丘はどうしてか熱くなってくる顔を隠すように、あおるの頭に手を置くとそのまま髪を思いっきりクシャクシャにした。

「っ霧丘、早く行かないとチャイム鳴るよ!」

ボサボサに乱れた髪を整えながらあおるが言う。

「あ、やべっ!じゃあまたな、あおる」

「うん」

笑顔で手を振る霧丘に、あおるは小さく手を振って別れた。

・・・霧丘と同じクラスだったらどんなに楽しいだろう。
前方を離れて歩く緑川と、緑川の左手に自分の腕を絡み付けて歩く宮野の後ろ姿を見てふとそう思った。








「・・・・・・ではこれで終礼を終わります」

担任が一日の終わりを告げ、部活に行く生徒や帰宅する生徒が各々に行動し始める。
あおるも早々に帰宅しようと鞄を手に持った。

昼休み以降、緑川は不思議なくらい静かだった。
逆に不安に駆られるが、自ら話しかけてもろくな事がないのは目に見えてる。

あおるはちらりと横目で隣席を見ると、普段と変わらない様子で宮野と談笑していた。


―――今のうちだ。

そう思い、その場を静かに立ち去ろうとした時。

「傷つくなぁ・・・」

ボソッと呟く声が聞こえたと同時にガッと緑川に手首を掴まれる。

「ひ・・・っ!?」

思わず喉から声が出た。

「・・・ねぇ宮野、あおるってば酷くない?俺に挨拶一つなく帰ろうとしてさ」

「で、でもー、きっと掛田くんにも用事があるんじゃないかな。それより僕と一緒に帰ろう?緑川くん」

宮野は緑川に掴まれているあおるの手首を見て眉を寄せたが、すぐに緑川に笑顔を振りまいた。

「ごめんね、昼休みにも言ったと思うけど今日はあおると約束してるんだ」

「ふ、ふーん・・・そうなんだぁ」

宮野はあおるをキッと睨み付けた。

「いや、本当に約束なんて何もしてないから!緑川は宮野君と一緒に帰っ・・・」

「あおる馬鹿だなぁ、察してよ。幼稚園からの仲でしょう?」

「ど、どういう・・・?」

意味なのだろうか、何を察すればいいのだろうか、あおるが問う前に緑川が口を挟んだ。

「一緒に帰りたいって、言わなきゃわかんないの?」

綺麗な笑顔を浮かべて言う緑川。
そんな言い方、まるで宮野に見せつけているよう。

「って事で、じゃあね!宮野」

「ち、ちょっと緑川離し・・・!」



「あいつ本当に消えてくんないかな・・・」

ボソッと呟き、宮野は手を繋いだまま遠ざかる二人の姿が見えなくなるまで鋭い視線を送った。







「・・・み、緑川っ・・・!」

「・・・・・・」

「緑川ってば・・・!!」

あおるは腕を引っ張られるように廊下を歩く。
何かを怒っているのか、あおるが声を上げても振り向く事すらせず、緑川は強引に歩いて行く。

靴箱へ向かう途中、廊下ですれ違う生徒たちからの視線が痛いほど突き刺さった。

「・・・くっ、離せって・・・!」

無視され続けるのは気持ちの良いものじゃない。
周囲の目もあることで、いつになくあおるは強気に出た。

「ちょっと黙ってて。不必要に目立つだろ」

弱まるどころか握る力が強まり、逆効果に終わった。

中には羨ましがる生徒もおり、無理やり引っ張られて嫌がっているのに、他の生徒たちには今の状況が一体どう映っているのだろうかとあおるは心底疑問に思った。




「・・・こっち」

「うわっ!?」

正門を出て、寮まで歩く途中。
無言のまましばらく歩くと緑川は強引にあおるを人気の少ない通路に引き込み、建物の壁に押し付けた。

そして緑川が低く呟く。

「・・・ふざけんなよ」

「な、なにがっ・・・?!」

さっきまで散々無視しておいて、急に吐かれた言葉にあおるが反射的に聞き返す。


「なぁ・・・教えろよ。土曜日、お前あいつと何やってたんだよ!?」

距離を詰め、口調を荒げる緑川。

人通りもなく、日差しも入らない薄暗い通路道。
両肩を壁に力強く抑えつけられ、すぐには逃げられない状況下。
あおるは途端に不安と恐怖心に駆られ、瞳を揺らしながらも緑川を見上げて口を開く。

「な、何って・・・き、霧丘とは普通に遊んで・・・」

「普通?・・・ヒョロかったとか、色が白かったとか言われてたよな」

「あ、あれは俺が霧丘に服貸した時に・・・っ」

「はっ、どう遊んだら裸見せて服貸す事になるわけ?」

あおるの言う普通って何?、と緑川に鼻で冷笑される。
まるで霧丘とよからぬ事をしていたみたいな言われよう。
それに何となく霧丘との仲を小馬鹿にされている気がして、あおるはムッとなった。

「だから・・・っ!霧丘とは映画見て昼食べてカラオケ行って!前日泊まった時に服が無かったから貸しただけだよ!」

あおるは勢いよく詳細を言い切ったが、体を壁に押さえ付けてくる緑川の腕はビクとも動かない。

「んっとに・・・腹立つんだよ・・・・・・」

両肩を掴んでくる緑川の手がグッと強められ、痛い。

「な、なんで・・・!?ただ、友達と遊んでただけで・・・!」

何をそんなに怒っているのか。
そもそもどうしてこんな詳細を報告させられているのか。
緑川から見て自分と霧丘はどういう仲に映っているのだろうかと、そう思わずにはいられない。


「なら・・・しろよ・・・」

「え・・・?」

ぼそぼそと口を動かす緑川の表情は長めの前髪がかかっていて読み取れない。

「・・・連絡くらいしろよ」

「そ、それは・・・」

緑川に声をかけなかった事をまだ根に持っているのだろうか。
結果的に、除け者にして悪かったと謝るべきなのだろうか。


「・・・・・・俺が・・・どんな思い・・・したと思って・・・!」

俯いたまま聞こえてくる、小さく掠れた声。
あおるの両肩に乗せられている緑川の手が微かに震えているのに気付く。


あ・・・も、もしかして―――


「し、心配かけて・・・ごめん・・・?」

うなだれてくる緑川の背中にあおるが控えめに手を回して口を開いた。

「・・・・・・っ!」

そっと背中に回されたあおるの手に、緑川の胸がきゅぅぅと締め付けられ、強く抱き返す。


「み、緑川・・・俺」

・・・本当だったのかもしれない、母親から聞いた事は。
苦しいくらいに力強く抱きしめられ、あおるは思う。

半信半疑だったけれど。
なんだか今は、この時ばかりは・・・すごく大事にされているような、そんな気持ちにさせられる。

「そ・・・そんなに俺の事、考えてくれてるなんて・・・知らなかった」


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