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しおりを挟む「・・・み、緑川・・・いつまで・・・」
抱きしめられたまま、あおるが口を開く。
人通りが少ないと言っても、ここは寮からほど近い通路道。気まずくならないわけがない。
あおるの思っていることを察したのか、緑川がスッと体を離す。
そして、あおるの右手首をつかんだまま、再び足早に歩き出した。
このまま寮まで連れて行かれるのだろうか・・・
返事などする余地も無く緑川に手を引かれて連れて行かれている状況。
結局、いつも緑川に振り回されてる。
歩きながらぼんやり考えていると、ふと背中越しに声がした。
「なあ・・・あおるの言う友達ってなに?」
唐突な質問だと思ったが、あおるは素直に返答する。
「え?・・・えっと、一緒にいて楽しくて、悩み事も相談できて、お互い支え合える関係・・・とか?」
「にしてはいつもベタベタ・・・なんか異常じゃね?」
「べ、ベタベタ・・・?」
してるのだろうか、霧丘と。
「距離近すぎ。ちょっとした事でも抱き合って・・・あおるの言う友達ってそーゆーの?」
やっぱりどこかで馬鹿にしている気がする。
だが、緑川の言い方だとまるで・・・
「緑川、も、もしかしてやきも・・・」
「は?んなわけ無いから」
最後まで聞かず、即答する緑川。
立ち止まり、もの凄い剣幕で睨まれた。
「や、ちがっ、言ってみただけで・・・」
そんなに完全に否定されるとなんだか自意識過剰みたいで複雑な気分になる。
・・・だいたいさっきは俺の事すごい大事そうに抱きしめてきたくせに。
そう思った自分にハッとなり、あおるはブンブンと首を横に振った。
今、一体何を・・・!
これじゃまるで、俺が緑川に大事にされたくて仕方ないみたいじゃないか。
自分の思考に困惑しつつも、あおるは続けて口を開いた。
「じ、じゃあ霧丘との友達関係だけは切りたくないんだけど・・・」
言った途端、緑川の眉がピクッと動き、表情がさらに険しくなるのが分かった。
だが、あおるにとっては一番肝心なこと。
嫉妬かと言われて全否定した手前、若干分が悪くなった緑川は小さく舌打ちすると再びあおるに背を向けて歩き出した。
「・・・別に、勝手に友情でも育めば?まあ、それが出来ればの話しだけどな」
「なら霧丘に危害は・・・」
「あーもー面倒くさいな。何もしねーから、これ以上あいつの名前口に出すなよ」
どこか腑に落ちない所もあったけれど、とりあえずあおるはホッとした。
◇
広大な敷地に、広々とした学園の寮。
そして相変わらず広すぎる緑川の部屋。
「お、お邪魔します・・・」
「その辺てきとーに座ってて」
緑川の部屋に来るのは二度目だが、まるで高級ホテルのようなインテリアにはやっぱり慣れない。
そんなあおるを余所に、緑川は鞄を投げ置き、ブレザーを脱ぎながら視線でリビングのソファーを指す。
あおるは言われるまま、ソファーの端に腰を下ろした。
「つーか腹減った・・・」
そう呟きながら緑川はキッチンへ向かう。
何かを作っているのか、キッチンから戻らない緑川の後ろ姿を横目に、あおるはポケットからスマホを取り出した。
『あおる、大丈夫か?』
新着メッセージ1件。霧丘からだ。
この時間帯は部活中であるはずなのに心配してくれる霧丘に嬉しくなる。
「え、えっと・・・」
大丈夫で大丈夫じゃないようなこの状況にどう返そうか迷ったが、とりあえず緑川の部屋に居ることを伝えよう。
そう思い、返事をしようとした時。
「・・・何やってんの?」
「わっ・・・!?」
いつの間にかすぐ側まで来ていた緑川に驚くと同時にバッとスマホを奪い取られる。
「あ、いや、あの・・・っ」
画面の相手が霧丘になっているのを見た緑川はチッと舌打ちすると、なんの躊躇いもなく電源を切る。
そしてそのままスマホを自分のポケットに入れた。
「か、返してよ、俺のスマホ・・・!」
あおるは慌てて手を伸ばすが、いとも容易く振り払われる。
そして緑川は冷たく言い放った。
「俺んとこいる間、これ使う必要ないだろ?」
「そ、そんな・・・」
「壊さなかっただけマシと思って、ね」
非情な言葉に絶句した。
緑川のズボンポケットに入ったスマホ。
どうやって取り返すか・・・
そう頃合いを見計らっていた時。
「ほら、食べろよ」
緑川の声と共にテーブルにカップラーメンが差し出される。
どうやら先ほど緑川はキッチンにお湯を沸かしに行っていたらしい。
カップ麺と一緒に出された箸を受け取る。
「あ、ありがとう・・・いただきます」
てっきり舌の肥えてそうな緑川はこんなインスタント食品なんて食べないと思っていたので、あおるはちょっと意外だった。
そんなあおるの表情を見て、緑川が口を開く。
「仕方ないだろ、これしか無かったんだから」
「い、いや別に夕食とか何でもいいし、ちょっと意外だなと思っただけで・・・」
「何が?」
ラーメンを啜りながら緑川はあおるに目をやる。
「いつも食堂に行ってるのかと思って」
「あんないちいち煩い所で食べれると思う?・・・毎日行ってたら身が持たないな」
「た、大変そうだね・・・」
さすがは王子様と言われているだけあって、ただ食事するだけでもギャラリーが取り囲むのだろう。
そんな状況が容易に想像できて、あおるは軽く同情に近いものを感じた。
「さすがにずっと優等生やるのは疲れるな」
ずっと気を遣っているこっちの方が疲労困憊だ。
なんて思ったが、もちろん口に出す勇気は無く。
「・・・明日は帰りにスーパー寄るか。あおるも覚えてて」
どうやら明日も一緒に帰るらしい。そして夕食も作るようだ。
「ち、ちなみに食堂って寮生以外も行っていいの・・・?」
入学前に見たパンフレットの写真を思い出して、一度でいいから食べたい気持ちになる。
「今度気が向いたら連れて行ってやるから。ていうかまさかあおる・・・」
何かを察したように緑川の目が鋭くなる。
「絶対ひとりで勝手に行こうとするなよ」
釘を刺すようにそう言われ、あおるは内心肩を落とした。
霧丘と食事でも・・・という期待はできなさそうだ。
「わ、わかった・・・じゃ、俺片付けてくる」
カップラーメンだけではどこか物足りなさを感じながらも、あおるは律儀にごちそうさまと呟くと、二人分の使った食器の片付けに取りかかった。
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