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しおりを挟む「霧丘・・・っ!」
昼休み。
いつものごとく宮野達に囲まれている緑川の僅かな隙をついて、あおるは霧丘の教室に来ていた。
結局、昨日は終電を逃し、緑川の部屋に泊まらざるをえなくなった。
ベッドで一緒に寝たものの、特に何も危害はなく、今朝は一緒に登校する形になった。
緑川が寝ている間にスマホを取り戻そうと思い、睡魔を堪えていたが、情けない事に自分の方が先に寝入ってしまっていた。
睡魔に負ける前、目を閉じていた緑川が先に寝たと思って行動したら不審がられて大変だった。
トイレに行くと言い、なんとか誤魔化せたものの、結局緑川は何時に寝たのだろうか・・・。
学校に着いてすぐスマホは返されたものの、授業中でさえ緑川が邪魔してくるため、霧丘に返信できず、今に至る。
「あ!あおる!」
あおるの姿を発見した霧丘が駆け寄ってくる。
「昨日はごめん、返信できなくって・・・」
直接来た方が早いと思って、会いに来た。そう言うと霧丘はムニッとあおるの両頬を摘まんで引っ張った。
「っんとにお前はー!心配かけやがってー!」
「い、痛いよ・・・きりおかっ」
やや涙目になったあおるを見て霧丘が手を離す。
「まあ無事なら良かったけど!ちょっとこのまま昼メシ付き合えよな」
「う、うん・・・!」
「屋上はたぶんもうダメだろうから・・・他探すか」
売店で昼食を購入し、二人で空き部屋を探しに向かう。
運良く、普段はあまり使われない小会議室の鍵が空いており、そこで昼食を摂ることになった。
霧丘と向かい合って座り、買った弁当を食べながらあおるが切り出す。
「ねえ、俺と霧丘って普通に友達だよね?」
「え?な、なんだよ唐突に」
「あ、い、いや、ごめんやっぱりいいや」
突拍子もない質問の上、改めて聞くには変だと思い、あおるは取り消そうとする。
だが、まるで見透かしたように霧丘が尋ねる。
「もしかして・・・またあいつに何か言われたのか?」
「あ・・・うん、その、俺にとって霧丘が初めての友達だからよく分からなくって。なんかベタベタして異常だ、みたいな事言われて・・・」
別に普通だよね?と小首を傾げてじっと見てくるあおるに霧丘はドキッとする。
今まで何度となくあおるに対して不意にドキッとする事があった。
「べ、べつに普通だろ!友達にベタベタも何もねぇだろ・・・っ!」
霧丘は誤魔化すように言ったが、緑川の言葉に苛立った。
「つーか、異常なのはあいつだろ!?いつもあおるあおるって、うるせーよな。俺たちの関係にいちゃもん付けんなって一発ガツンと言ってやろうか?」
「う、ううん、それは大丈夫だよ・・・!」
「やっぱり仕返しが怖いのか?」
「そ、それもあるけど・・・今のところ逆らったりしないと何も危害はないんだ。この間の土曜日なんて、連絡つかないこと心配してたらしくて。あの緑川が・・・!?って思ったくらい」
意地悪だったりするのは元々だけど、とあおるは付け足す。
「あの態度、心配ってだけかよ・・・」
霧丘が怪訝な顔をし、小さく呟く。
「そ、それに!ちゃんと言う事聞いてれば霧丘とも今まで通り一緒にいれるし、霧丘に迷惑も掛からないし。高校卒業して働いて、自立して今の家から引っ越すまでの我慢だから・・・」
今の現状を壊したくない、引っ越すまで平穏に過ごしたい、そう言いたげなあおるに霧丘は納得できず口を挟む。
「・・・あおるはそれでいいのか?辛くないのか?そんな支配されてるみたいな生活」
「小学校の時に比べたらね。全然平気なんだ。何しろ霧丘が居るし」
にこっと笑ってあおるは言った。
「・・・・・・無理だけはするなよ・・・」
緑川に従うことで、自分と一緒に居れると喜ぶあおるに霧丘はそれ以上何も言えなかった。
「あおるってさ、無神経なところあるよね」
昼休み終了5分前、教室に戻って席に着くなり隣から声がした。
まだ周囲に取り巻きが居るため気が抜けないのか、その言葉とは裏腹に、緑川は綺麗な微笑みを浮かべている。
「む、無神経・・・?」
突拍子もない言葉にあおるは戸惑い、自分の行動を振り返るが、思い当たる節はない。
考え込むあおるを見て緑川が口を開く。
「どうせさっきまであいつの所に行ってたんでしょ?あおるは人の嫌がること平気でしちゃうんだもんなあ」
そう言いながらニコッと微笑まれる。
自分の事はまるっきり棚に置いて言い放つ緑川に、無神経はどっちだと言い返したくなる。
緑川の周囲の取り巻きは何の話しか分からないようで、あおるに鋭い視線を向けるばかり。
自分に向けられている視線に萎縮しながらもあおるは口を開いた。
「い・・・いいじゃんか、別に。緑川が勝手にしろって、霧丘と友情深めてもいいって言った」
「・・・誰が電話まで無視して良いって言ったの?」
あおるの半ば開き直った発言に、緑川が眉を寄せる。
「え、で、電話・・・?」
緑川が不機嫌になると無条件で怖いのは、緑川を怒らせたらろくな事がないという小さい頃からの教訓が根付いてしまっているからなのかも知れない。
あおるは慌ててブレザーのポケットに入れっぱなしだったスマホを取り出す。
そして気付いた。
「・・・・・・あ、ごめん、サイレントのままだ・・・」
「えーそれじゃあ何のためにスマホ返したか分かんないよね、あおる。俺が電話したらちゃんと出なきゃ」
ね?っと釘を刺すように念を押してくる緑川。
目だけが笑ってない笑顔。
そんなやり取りの合間、緑川に笑顔を向けられて羨ましいだのヒソヒソとあおるの耳に入ってくる。
こんな自分勝手極まりない発言と、こんな怖い笑顔なのに。周囲には王子様に見えているから恐ろしい。
「なぁ・・・ちゃんと分かってんの?」
本気で怒らせたいの?と、ボソリと自分にしか聞こえないように凄まれたのが怖かった。
「こ、今度から気を付けるから・・・」
―――あんなに便利なスマホがまるで首輪か手錠のような錯覚に陥ってしまった。
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