ずっと君だけ。

しゅく

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「あおる、帰ろう」

時はあっという間に過ぎ、放課後。
既に帰り支度を終えた緑川に声かけられる。

「う、うん・・・ちょっと待って」

あおるはいそいそと教科書類を鞄に詰め始める。

「ご、ごめん、お待たせ・・・」

「いいよ、帰ろうか」

支度が終わる事を告げると、緑川はなんの躊躇もなくあおるの手を引いた。

「えっ、手・・・!」

途端、ザワッとクラスが騒がしくなり、クラスメートからの視線が痛いほど突き刺さる。
同時にあおるへの罵声も聞こえてくる。

「手がなに?」

騒がしい周りとは裏腹に平然としている緑川。
自分が注目を浴びているのを分かっているのだろうかと思わずにはいられない。

「は、離してよ、皆が見て・・・!」

「えー、手繋ぐのなんて今更でしょ?ふっ、あおる照れてる?」

柔らかい綺麗な笑顔を向けられ、より一層あおるへの非難の声が増した。

「なっ、そういう意味じゃなくて・・・!」

クラスメートの嫌そうな悲鳴の中、あおるも抵抗したが、緑川は構うことなくそのまま歩き出し教室を後にした。



「ぼ、僕の目の前で、こんな屈辱ってないよね・・・!」

クラスがざわめく中、宮野の声は誰にも聞こえなかった。












「み、緑川、そろそろ手を・・・」

スーパーマーケットの店内。
片手に買い物かごを持ち、あろうことか未だに手を離そうとしない緑川。

すれ違う主婦や子どもに見られて、ヒソヒソ言われているようであおるは居心地の悪さを感じていた。

「あおるが食材選んで、それをこっちに入れればいいでしょ」

確かにそれじゃ手を離さなくとも大丈夫ではあるが、問題はそこじゃない。

「み、緑川はどうしてそんなに平気なんだよ・・・っ、ふつう男子高生が手繋いで買い物とか変に思われるって・・・!」

「周りはどうだっていいよ」

ありのままを伝えたが、一言で片付けられてしまった。
時々、緑川の感覚は麻痺しているのではないかと思う。

「・・・それより、夕飯何する?」

「え、いや、全然思い浮かばない・・・。な、何か食べたいのある?」

「別に。あおる決めて」

そう言われるのが一番困る。

「じ、じゃあ、グラタンとか・・・?」

適当に思いついたのを言ってみたが、

「グラタンとか久しく食べてないな・・・」

どうやら決定で良さそうだ。



「・・・ね、ちょっと待て」

順調にあおるが食材を選び、緑川の持つ買い物かごに入れていた時。
ふと緑川が立ち止まる。

「え、なに・・・?」

「あおる、それ、グラタンに入れるつもりじゃないよな」

あおるが手に取り、今まさにかごに入れようとしていたのはアスパラガス。

「普通にグラタンに合うよ?美味しいと思うけど・・・」

と、そこまで言って思い出す。
宮野の弁当の時、アスパラガスだけ残していた事を。

「あれ、そう言えば緑川、アスパラ苦手・・・?」

「はあ?今更知ったのかよ。あんな繊維だらけのもの食えるかっての」

で、でも・・・

あおるはもう一つ思い出す。

「あの時たしか、俺のは食べてた、よね・・・」

「・・・・・・・・・」

「えっ・・・」

あおるは返事の無い緑川を横目でちらりと見ると、そこには薄ら赤面している緑川。

は、初めて見た・・・!

あおるがまじまじと見たせいで緑川の眉間に皺が寄る。

「・・・あおるほんとムカつく」

「そ、そっかぁ・・・緑川アスパラ駄目だったんだ・・・」

「あーもーうるさいなあ」

そう凄まれたが、この時だけは全然怖くない。

宮野の時は残してた。
でも食べてくれた。

どうしてか、あおるはどうしようもなく嬉しかった。




―――それからの夕食は穏やかだった。

夕飯を作るべく、あおるが買ってきた食材を台所で切っていると、ふと緑川が隣に来て。
どうやら緑川も空腹には耐えきれなかったようで、一緒に作り出したのには少なからず驚いた。
緑川の性格からして、てっきり自分に作らせている間は準備も何もしないでソファーで寛ぐか寝ているのだろうと思っていたから。

あおるが鍋で茹でている野菜スープをお玉で軽く混ぜていた時、横から食材を切る音がしてチラリと目を向ける。

そこにはトントンと手早く食材を切っていく緑川。

「わ・・・、緑川って器用なんだね」

見て思った事がそのまま口から出た。

「あおるに出来て、俺にできない事なんてないから」

「なっ、そんな言い方・・・!」

「なに?ムカついた?」

軽くムッとなったあおるの顔を見て緑川は悪戯っぽく僅かに笑った。

小学生の頃から何でもできると思ってはいたが、料理までできるとは。
幼い頃から変わらない整った端正な顔、程よくついた筋肉に高い身長、勉強もできて運動もできる完璧な緑川。

「・・・あとは性格が・・・」

あおるの口を突いてポツリと出た言葉に緑川が反応した。

「なんか言った?」

「や、別に何でもない!」

裏表さえなければ、あるいは知らなかったらどんなに素敵な人だろう、とあおるはひっそり思った。



「いただきます」

出来たてのグラタンと野菜スープをテーブルに並べ、スプーンを持ちあおるは手を合わせる。

「・・・あおるって昔からほんときっちりしてるよな」

そう言いながらも既にグラタンを食べ始めている緑川。

「み、緑川は俺以外の人の前では礼儀正しいよね・・・」

「だから疲れんの」

はぁーっと溜息交じりに言う緑川が言葉を続ける。

「・・・結局はあおるにいろいろ救われてんだろーなあ」

「な、なにそれ」

「・・・いいから、早く食べて温泉行こう」

独り言のように呟いた緑川の言葉の意味が分からずあおるは聞き返したが、食事を再開した緑川に話を切り替えされてしまった。

「え、ここって温泉もあるの?」

「まあ、大浴場だよ。近くの山から湧き出る湯をここまで引いてるらしい。10時以降は限られた生徒しか入れないからほぼ貸し切り」

「へー・・・すごい」

寮で生活していないあおるは滅多に温泉に行く機械などない。
少し行ってみたい気分になるが。

「あ、でも俺・・・終電なくなってしまう」

「終電?」

あおる何言ってんの、と笑われる。

「しばらく俺の所に泊まるんだよ」


・・・いつ決まったのだろうか。

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