ずっと君だけ。

しゅく

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「うわ・・・すごい・・・・・・!」

白く立ちこめる湯気に、ほんのりかおる硫黄の匂い。
流れるお湯の音と滴に反射してきらきら光るライト。

あおるは目の前に広がる光景に目を輝かせた。

以前見たパンフレットの一部に寮内の大浴場の写真が掲載されていたが、まさかここまで本格的だったとは。サウナも完備され、奥の方には露天風呂があり、打たせ湯まであるようだ。

「なに突っ立ってんの」

「うわっ!?」

温泉の美しさに軽く感激していたあおるだったが、背後からバシャッとかけ湯を掛けられ振り返る。
驚いた拍子に下半身に巻いていたタオルが落ちそうになり、あおるは慌てて巻き直しながら湯を掛けてきた緑川をキッと睨んだ。

「・・・なんでそんな必死に隠すわけ?」

「じ、自分だってタオル巻いてるじゃんか・・・!」

「見たい?」

「はぁ!?誰が!」

すき好んで男の下半身なんか見なきゃいけないんだ。
緑川の思考が分からない。

「えーそう?俺は見たいけどなあ」

言いながらあおるのタオルに手を伸ばしてくる緑川。
前に緑川によって強引に射精させられた事を思い出し、あおるの顔が羞恥で赤くなる。

「な、やめ・・・っ!」

バッと手を振り払い、あおるは緑川から逃げるように湯に飛び込んだ。







「はぁー・・・いいお湯・・・だ」

肩まで浸かり、あおるは大きく息を吐いた。
日頃のストレスや疲れなんかも癒やしてくれそうだ。

掛け流しのお湯の音と、少し熱めの温度が心地よい。
あおるは気持ちよさに目を閉じる。

まさに至福のひと時―――。


「・・・風呂で寝るなって」

危ないだろ、と緑川が声をかける。

「・・・んー」

いつの間にかウトウトしていたあおるはゆっくり開眼し、緑川を見るが相当疲れが溜まっているようで、瞼が重くて今にも閉じていきそうだ。

ボーッとした視界の中、あおるに近づいてくる緑川の姿。
程よくついた筋肉、スラッとした手足、バランスのとれた体、鼻筋通った端正な顔立ち。
色素の薄い茶色の髪を手でかき上げる姿は見惚れてしまうくらいだ。

なんて羨ましいんだろう。

「・・・いいなぁ緑川は・・・」

「そろそろ上がらないと・・・のぼせるよ」

徐々に近くなる距離と優しい声色。
すでにのぼせてしまったのか、頭がぼーっとしている。

ただ、近くで見ても綺麗だな、なんて柄にもない事を思った。


「・・・ったく、だから言っただろ」

のぼせたあおるを湯から上げるべく近づいた緑川と至近距離で視線が合う。

あおるの男にしては華奢な肩幅、白い肌にスッとした首筋、湯気で上気したピンク色の頬。
力が抜けて僅かに開いている赤く潤った唇と、とろんとしたあおるの瞳に、緑川は思わず目を奪われてしまう。

「あおる」

緑川があおるの輪郭を両手で包むようにそっと捉える。
どうしてこんなに近いのだろう、そう思う間もなく。

「ん」

緑川が押し当てた唇は優しく、ちゅっと小さく音を立てて離れた。

「・・・なんか、思わず」

ドクッと胸が高鳴り、途端に我に返った。

「はっ、・・・ええ!?」

顔をさらに真っ赤にしてバシャッと水音を立てて後ずさったあおるに緑川が口を開く。

「そんな慌てて距離とらなくても・・・こんなん何回もしてるのに」

確かに今までキスは何度かしている、ましてそれ以上の事もされたが、だからといって経験の乏しいあおるはそう易々と慣れるものじゃない。

「み、緑川にとっては大した事じゃないのかも知れないけど・・・!俺にとっては・・・っ」

「あおるにとっては、なに?」

続きを促す緑川の余裕そうな態度に居た堪れなくなる。

「・・・っ、緑川の顔はいちいち心臓に悪いんだ・・・!」

あおるは捨て台詞のように吐き出すと、ザバッと湯から勢いよく立ち上がり、あっという間に脱衣所へと出て行った。

「くくっ・・・なにあれ、動き早すぎ」

あおるの行動の一部始終を見て、緑川が笑いをこぼした。




「・・・っなんでこんな・・・」

心臓がドクドクうるさいんだ・・・!!

温泉の湯に浸かりすぎてのぼせたせいか、キスのせいなのか。
どちらにせよなかなか治ってくれない動悸をごまかすように、あおるはバスタオルでわしゃわしゃと勢いよく体を拭き、着替えることに徹した。






あおるがどうにか平静を取り戻し、温泉を出て緑川の自室へ戻る途中。

「ほら、一応これ飲んどけよ」

ふと隣からスポーツ飲料のペットボトルを差し出される。

「え、あ、ありがとう・・・」

あおるは素直に受け取ると、それを飲む。
冷たい物がスッと喉を通り、心地よかった。

「あおるお前、風呂で寝るとかありえないからな。下手したら死ぬぞ」

「う、うん、ごめん・・・」

ほんとに分かってんのかよ、とジロリと向けてくる緑川の視線に咎められているように思えてあおるはしゅんとなる。

「・・・以後、気を付けろよ」

本人も口調がややキツかったと思ったのか、緑川は言いながらあおるの頭をくしゃっと撫でた。

「っ・・・!?」

驚いた表情で見てくるあおるに緑川は眉を寄せて訝しむ。

「え、なに?」

「い、いや何でもない・・・」

そうは言ったものの。


緑川って昔からこうだったっけ―――・・・

最近はよくこうやって心配したような言動が垣間見える。

慣れてないからなのだろうか・・・
緑川にそんなふうにされると、ずっと前からそうされたかったみたいな、そんな気持ちになってしまうんだ。

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