THREE MAGIC

九備緒

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FIRST MAGIC

第1話 平凡な女性の平凡な日常

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「お、終わったぁ……」

 万感の思いでそう呟いて時計を見上げれば、深夜0時目前。
 フロアに残る社員も疎らだ。

 彼女の名前は、羽柴知衣はしば ちい。24歳の若輩プログラマーである。
 極々標準的な日本人女性といった風貌で、容姿は良くも悪くもない。
 普段はコンタクトなのだが、このところ残業続きで酷使している目には辛いからという理由で、今は学生時代に使っていた黒縁の眼がねをかけている。

 人並みの平凡な幼少時代、学生時代を経て、中小企業にプログラマーとして就職して2年目。
 まだまだ一人前とは言えないまでも、だいぶ仕事も覚え、後輩もできた。
 この業界は他の職業に比べるとまだ女性の割合は低い。とはいえ、それでもそれは知衣の人生を非凡とするほどのことではなく、客観的に見て彼女の人生は平凡極まりないものと言えた。
 それに対して、知衣自身不満があるわけでもない。
 知衣は自他ともに認める物臭な性格だったので、単調な日常に変化やスリルを求める性質でもなく、ただ面倒事なく平穏に暮らしていければそれなりに満足だった。

(さて、と。帰りますか。)

 手早く帰り支度を済ませ外へ出た知衣は、外気を吸い込み伸びをする。
 デスクワークでがちがちに固まった身体を伸ばすのは、気持ちが良い。

 知衣は職場から徒歩15分ほどの位置にある社宅で、一人暮らしをしている。
 帰り道、その途中にあるコンビニに寄って食料を調達するのは、ここ最近日課だ。
 料理は「得意だ!」と胸を張って主張できる数少ない特技なのだが、残業の後はその気力もない。
 ここ最近の自炊といえば休日限定だ。

(ま、今は忙しい時期だからしかたないよね。今の案件さえ片付けば多分落ち着いて、定時で帰れるようになると思うし、もうちょっとの辛抱だわ。)

 この業界は、忙しさにかなり波があるのだ。
 このところ残業続きの知衣だが、ほんの数ヶ月前までは暇を持て余し、あまりの暇さに業務時間中PCのペイントでこっそり上司の似顔絵を描いたりしていたくらいだ。しかも、ドット絵で。

(我ながら良い出来だったわよね。)

 思い返してそんな自画自賛をしつつ、知衣は夕食を物色する。

(こんな時間だし揚げ物はちょっと……ねえ。)

 最近気になってたまらないウエストを思って、おにぎり一つとサラダをカゴに入れる。

(あ、そういえば。)

 レジに向かう途中、玄関の豆電球がきれていたのを思い出して、それもカゴに入れた。
 どうということのない、普通の豆電球。
 よもやこれが、自分の平凡極まりない人生を大きく狂わせることになるとは思いもせずに――。

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