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FIRST MAGIC
第25話 クウガ・クロムラー
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「こちらが現宮廷魔法師の中で最年長である、『時師』のクウガ・クロムラー様です。」
そんなエステルの紹介に、知衣は乾いた笑みを浮かべた。
美女に変化していたベルフェールといい、この目の前の人物といい、宮廷魔法師にまともな人間はいないのだろうか。
「よろしくな!」
目の前で無邪気に笑う人物は、どう見ても5歳前後の少年だった。
知衣から見て5歳前後に見えるということは、今までの事を考えればもっと幼い容姿なのだが、『最年長』という言葉がそれを否定している。
「ええと。その姿は魔法でわざわざ?」
「いや、違うぞ。ワシは少々特殊でな。外見と実年齢が一致せんのだ。」
「一致しようもないですしね。」
言い足したエステルに、知衣は首を傾げる。
「一致しようもないって?」
「正確な年齢はクウガ様自身覚えていないそうですけど、とうの昔に四桁に突入されてますから。」
そんなエステルの言葉に、知衣は思わず指折り数える。
「四桁?一、十、百…千!?ええ!?」
「4000までは数えていたんだが、もう数えるのも面倒になってな。」
クウガのそんな言葉に、知衣は唖然とする。
『見た目は子供頭脳は大人』どころか、『見た目は子供頭脳はご長寿老人』……いや、もう老人超えて仙人レベルよね!?
「だ、だってこの国の人の寿命って私の世界とそんなに変わらないんじゃ……」
「ワシは特殊だと言ったろう。千まで生きるのなんてワシくらいだ。そもそもワシは……」
そこまで言ってふいにクウガは言葉を止め、思い出したように手を叩く。
「おい、エステル。忘れとったが魔法案提供者が今日も来ると聞いて、ベルフェールの奴が仕事を置いて逃げ出したぞ?」
「止めてくださらなかったんですか!?」
思わずといった様子で声を張り上げるエステルに、クウガは肩を竦める。
「止める間もなかったさ。女が絡んだ時のあいつは尋常ないしな。そもそも若者のスピードをワシに求めるのが間違ってるぞ。」
「こんな時ばかり老人ぶらないでくださいよ!」
「まあアレを捕まえるのもいい修行になるさ。弟子なら頑張るのだな。」
「探索術と捕縛術ばかり上達しても……」
恨めしそうにそう言いながらも、エステルは「わかりました。」と言って溜息をつく。
「クウガ様、チイさんへの説明よろしくお願いしますね。」
「おお、まかせとけ。」
にかっと笑って応じたクウガに、エステルはぺこりと頭を下げると踵を返した。
その背を見送り、クウガはくつくつと楽しそうに笑う。
「世話の焼ける師を持つと、弟子は大変だな。そう思わないか?」
「そうね。」
話を聞く限りでは、どうやら知衣がここへ来ると聞いてベルフェールは逃げ出したらしい。
女性恐怖症とはいえ、仕事を放り出して逃げ出すほど私が怖いってどうよ?
それでよくまあ、宮廷魔法師の長官なんて務まるものだと呆れてしまう。
すごい魔法使いなのだろうに、知衣のどこを恐れる必要があるというのか。
「さて、邪魔者もいなくなったことだし説明しようか。」
「邪魔者って……」
「いくら魔法棟の人間とはいえ、他の人間に知られるのは少しまずくてな。」
「クウガ様。わざとベルフェール様を逃がしましたね?」
そんなクレアの言葉に、クウガは笑う。
それは言葉よりもはっきりとした肯定だった。
「使い魔か。面白い姿をしているが……ちょっと邪魔だな。」
そう言ってクウガは、指を鳴らした。
金属音に似た耳障りな高い音がして、知衣は眉を寄せる。
「これでよし。」
そう呟いたクウガに対し、クレアは不自然なまでに微動だにしない。
「何をしたの?」
「一時的に、こいつの『時』を止めたのさ。これでこいつは瞬き一つすることもできない。これで話を聞かれずに済むわけだ。」
「そんなことができるなら、何もエステルを追い払わなくてもよかったんじゃないの?」
「使い魔に疑われても痛くもかゆくも無い。だが、魔法棟の人間に不信感を持たれては困るからな。時を止めれば、何故かと疑われるだろう?」
「私には話せて、この国の人には話せないことがあるの?」
知衣の言葉に、クウガは頷く。そして、意味深に笑った。
「ワシに違和感を覚えないか?」
「その外見と実年齢の差に違和感を覚えない人間なんていないと思うけど。」
「それ以外で、だ。」
「それ以外と言われても……まあ、あとは言葉遣い?」
幼い子供の姿で、「ワシ」というのにはすごく違和感がある。
まあ、実年齢を考慮すればそう不自然ではないのかもしれないが。
「あ あ 。 お か し い だ ろ う ?」
わざとらしいほどゆっくりとそう言うクウガに、知衣ははっとする。
わかった。何がおかしいと言いたいのか。
聞こえてくる言葉と、口の動きが――『一致する』、のだ。
「……日本語をしゃべってる?」
その知衣の言葉にクウガは満足げに笑う。
「改めて名乗ろう。ワシの名前は黒村空雅。一応、元日本人だ。」
そんなエステルの紹介に、知衣は乾いた笑みを浮かべた。
美女に変化していたベルフェールといい、この目の前の人物といい、宮廷魔法師にまともな人間はいないのだろうか。
「よろしくな!」
目の前で無邪気に笑う人物は、どう見ても5歳前後の少年だった。
知衣から見て5歳前後に見えるということは、今までの事を考えればもっと幼い容姿なのだが、『最年長』という言葉がそれを否定している。
「ええと。その姿は魔法でわざわざ?」
「いや、違うぞ。ワシは少々特殊でな。外見と実年齢が一致せんのだ。」
「一致しようもないですしね。」
言い足したエステルに、知衣は首を傾げる。
「一致しようもないって?」
「正確な年齢はクウガ様自身覚えていないそうですけど、とうの昔に四桁に突入されてますから。」
そんなエステルの言葉に、知衣は思わず指折り数える。
「四桁?一、十、百…千!?ええ!?」
「4000までは数えていたんだが、もう数えるのも面倒になってな。」
クウガのそんな言葉に、知衣は唖然とする。
『見た目は子供頭脳は大人』どころか、『見た目は子供頭脳はご長寿老人』……いや、もう老人超えて仙人レベルよね!?
「だ、だってこの国の人の寿命って私の世界とそんなに変わらないんじゃ……」
「ワシは特殊だと言ったろう。千まで生きるのなんてワシくらいだ。そもそもワシは……」
そこまで言ってふいにクウガは言葉を止め、思い出したように手を叩く。
「おい、エステル。忘れとったが魔法案提供者が今日も来ると聞いて、ベルフェールの奴が仕事を置いて逃げ出したぞ?」
「止めてくださらなかったんですか!?」
思わずといった様子で声を張り上げるエステルに、クウガは肩を竦める。
「止める間もなかったさ。女が絡んだ時のあいつは尋常ないしな。そもそも若者のスピードをワシに求めるのが間違ってるぞ。」
「こんな時ばかり老人ぶらないでくださいよ!」
「まあアレを捕まえるのもいい修行になるさ。弟子なら頑張るのだな。」
「探索術と捕縛術ばかり上達しても……」
恨めしそうにそう言いながらも、エステルは「わかりました。」と言って溜息をつく。
「クウガ様、チイさんへの説明よろしくお願いしますね。」
「おお、まかせとけ。」
にかっと笑って応じたクウガに、エステルはぺこりと頭を下げると踵を返した。
その背を見送り、クウガはくつくつと楽しそうに笑う。
「世話の焼ける師を持つと、弟子は大変だな。そう思わないか?」
「そうね。」
話を聞く限りでは、どうやら知衣がここへ来ると聞いてベルフェールは逃げ出したらしい。
女性恐怖症とはいえ、仕事を放り出して逃げ出すほど私が怖いってどうよ?
それでよくまあ、宮廷魔法師の長官なんて務まるものだと呆れてしまう。
すごい魔法使いなのだろうに、知衣のどこを恐れる必要があるというのか。
「さて、邪魔者もいなくなったことだし説明しようか。」
「邪魔者って……」
「いくら魔法棟の人間とはいえ、他の人間に知られるのは少しまずくてな。」
「クウガ様。わざとベルフェール様を逃がしましたね?」
そんなクレアの言葉に、クウガは笑う。
それは言葉よりもはっきりとした肯定だった。
「使い魔か。面白い姿をしているが……ちょっと邪魔だな。」
そう言ってクウガは、指を鳴らした。
金属音に似た耳障りな高い音がして、知衣は眉を寄せる。
「これでよし。」
そう呟いたクウガに対し、クレアは不自然なまでに微動だにしない。
「何をしたの?」
「一時的に、こいつの『時』を止めたのさ。これでこいつは瞬き一つすることもできない。これで話を聞かれずに済むわけだ。」
「そんなことができるなら、何もエステルを追い払わなくてもよかったんじゃないの?」
「使い魔に疑われても痛くもかゆくも無い。だが、魔法棟の人間に不信感を持たれては困るからな。時を止めれば、何故かと疑われるだろう?」
「私には話せて、この国の人には話せないことがあるの?」
知衣の言葉に、クウガは頷く。そして、意味深に笑った。
「ワシに違和感を覚えないか?」
「その外見と実年齢の差に違和感を覚えない人間なんていないと思うけど。」
「それ以外で、だ。」
「それ以外と言われても……まあ、あとは言葉遣い?」
幼い子供の姿で、「ワシ」というのにはすごく違和感がある。
まあ、実年齢を考慮すればそう不自然ではないのかもしれないが。
「あ あ 。 お か し い だ ろ う ?」
わざとらしいほどゆっくりとそう言うクウガに、知衣ははっとする。
わかった。何がおかしいと言いたいのか。
聞こえてくる言葉と、口の動きが――『一致する』、のだ。
「……日本語をしゃべってる?」
その知衣の言葉にクウガは満足げに笑う。
「改めて名乗ろう。ワシの名前は黒村空雅。一応、元日本人だ。」
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