26 / 49
FIRST MAGIC
第26話 突然の勧誘
しおりを挟む黒村空雅。
確かにそれは、日本人の名前のようだけれど。
話す言葉もまた、日本語ではあるのだけれど。
「普通、日本人は千年以上生きないし、その若作りもありえないわよ。」
そう漏らした知衣に、クウガは「まあな。」と頷き肩を竦める。
そしてにやりと愉快気に口の端を吊り上げた。
「ワシは普通じゃない。けどそれはおまえも一緒だぞ。羽柴知衣。」
「一緒って……まあ、こんなところにいるのは確かに普通じゃないけど。」
けれど、四千年以上生きている見た目お子様のご長寿に一緒扱いされるのは納得がいかない。
不満そうな知衣を見て、クウガは笑う。
「それだけじゃない。羽柴がもし望むなら、その姿のまま年をとることなく千年以上生きる事も可能だ。」
それはそういう魔法をかけるということだろうか。疑問に思うが、まあ何でもいい。
「別に望まないわよ。」
不老不死。
望んでもそうそう得られるものではないが、それは知衣の望みにはない。
普通に年をとって、普通に死ぬ。それでいいと思うのだ。
できることなら安らかに死にたい――それくらいは思うけれど、年をとるのが嫌だとも、不死身になりたいとも思わない。
人が皆、不老不死だというのならばともかく、自分だけが不老不死になるだなんてぞっとする。
仲の良い家族や友人たちは老いていくのに、自分だけが若々しい姿のまま。そんなのは御免だ。
そもそも自分に誇るほどの美貌はない。自分の姿が老いていくのは普通だし、惜しむべき容貌でもないと思う。
「なんだ。つまらん。ただここに留まるだけで、お手軽になれるのにな。」
「ここに留まるだけ?」
「ああ。召喚されてここにいる間おまえは老いることはない。本当の不老不死の魔法とは違うが、仮初の不老不死の体を与えられているからな。今の羽柴の体は、実を言うと本当の体ではない。魔法で造られた仮初の体だ。」
「え!?」
思わず自分の体を見下ろす知衣だが、それはどう見ても自分の体としか思えない。
思わず頬を抓ってみるも、痛覚まで正常だ。――思い返してみれば、アレクに殴られた時も痛かったし、昨日魔法棟までの階段昇りでの疲労の感覚も正常にあった。
今の今まで――否、言われた今も自分の体への違和感などない。
「よく出来てるわね。」
「だろう?仮初とはいえ、おまえの体を忠実に再現している上、完全に別のものというわけでもない。元の体と魔法で繋がっているから感覚も変わらずあるはずだ。」
「元の体と繋がっている?」
どういうことだろう?と首を捻る知衣に、クウガは「さて、どこから話そうか。」と軽く眉を上げた。
長くなるからとりあえず座れと促されソファーに腰を沈めた知衣に、クウガは口を開く。
「まず今回使った召喚魔法について話そう。召喚魔法にはそもそも、『条件』『制約』『媒体』の三つが必要だ。『条件』はまあ、理由とおきかえてもいい。何故呼び出すのか、何をさせるためなのかそれを明確に定義しなければ、召喚魔法は発動しない。『魔法案を3つ提供するまで。』――それが、今回の魔法の『条件』だ。召喚されたモノは『条件』を満たす事で元の場所、元の時間軸に戻される。つまり魔法案を3つ提供してしまえば、おまえは元の世界に戻る事ができる。」
「残りの二つは?」
「魔法を使ったワシらを『召喚者』、それによって呼び出されたおまえのような存在を『召喚対象』として言えば、『制約』は『召喚者』から『召喚対象』への保障と報償だな。条件を満たすまでの身の安全の保障と、条件を果たした後の報償を約束するものだ。『制約』はなくても召喚魔法を発動させることはできるが、勝手に呼び出しておいて扱使うなんて人道に反するだろ?『制約』なしでの召喚は法律で禁止されている。この『制約』のために、おまえが死なないように仮初の体で身の安全を確保しているわけだ。」
「それでその報償が『好きな魔法道具を一つ持ち帰る』ってこと?」
「その通りだ。だから正確には『条件』を満たしても、持ち帰る魔法道具を選ぶまでは元の世界に戻るわけではない。まあ、あらかじめ選んでおけば三つ提供した時点で元の世界に戻ることもできるが、ここで過ごした時間は元の世界ではないも同然。元の時間軸に何事もなかったように戻されるわけだから、終わってからじっくり選んだ方が得だとは思うがな。」
「何事もなかったようにって……記憶とかも?」
「いや。記憶がなければ、魔法道具を持ち帰っても使いようがないだろう?羽柴のここでの記憶は残される。ただここで過ごした時間が、元の世界では反映されないというだけだ。」
「いきなり勝手に召喚されたのは迷惑だけど、一応色々考えてくれているのね。」
「結構言いたい事はいう奴だな。」
意外だというように苦笑いするクウガに、知衣は言う。
「ある程度言いたいことは言っておかないと、世の中かえって面倒臭いんだもの。」
気軽に何でも応じていたら、気がつけば面倒な仕事を押し付けられていたなんてこともある。
逆らうことは面倒だけれど、嫌なことは嫌とある程度主張することでかえって面倒から逃れられるということもわかってきた。
知衣は長い物に巻かれやすいタイプであると思ってはいるが、NOと言えないタイプでもない。
「悪くはないさ。個人的には好ましいと思うぞ。ただ、同じ国の出身とはいえ、時代の差を感じると思ってな。」
「時代の差?」
「ワシは平成よりもっと前の世から召喚されたからな。」
「あなたも……召喚されたの?」
まあ、元日本人というクウガの主張を信じるならば、おかしなことではないのだが。
「ああ。時期的には廃刀令が出されてすぐのことだったか。女子のあり方が当時と平成の世では随分違うようだ。わかっていたつもりだったが、こうして話してみると実感するぞ。」
「廃刀令?廃刀令ってあの、刀を持っちゃいけないっていう?」
あれって確か明治のはじめの方だったような?
だとするともう百年以上前の話だ。
でもクウガの年齢が、すでに千単位だとすれば計算が合わないが――世界の違いによる、時間の流れの差だろうか。
「そうだ。一応これでも刀で生計を立てていた身でな。途方にくれておったところを召喚されたわけだ。」
「刀で生計って、あなたみたいな小さい子供が?」
「これ。勘違いするな。わしが召喚されたのはおまえとそう年の変わらぬ頃だぞ。見た目も今とは違って年齢相応だった。」
「ええと、それって…あなたも仮初の体とやらで、その仮初の体の年齢が実物より幼いってこと?」
今までの話を思い返してありそうな仮定をあげてみると、クウガは軽く首を捻ってから頷いた。
「少し違うが、まあ似たようなものだ。」
「それであなたも召喚されてまだここにいるってことは『条件』を満たしてないってことよね?」
「いいや。それは違うぞ。ワシは『条件』を満たして一度日本に戻った。それから自分で此処へ戻ってきたのさ。」
「なんでわざわざ?」
早く帰りたくてたまらない知衣としては、信じられない心境だ。
「刀を奪われた侍は、魔法使いに転職したくなったといったことろかな。」
苦笑交じりにそう言うクウガに、知衣ははっとする。
廃刀令――知衣にとっては縁遠い話だが、当時の侍にとってはあって当然のものを奪ったものであったのだろうことは想像できる。
刀で立てていた生計。それを思えば、刀を奪われたその先に、未来を思い描くことは困難だったのかもしれない。
知衣は元の世界での生活に満足していたけれど、クウガには先への不安しかなかったかもしれないのだ。
そんな時に出逢った、全く違う魔法の世界。惹かれてもおかしくはないかもしれない。
「魔法について学ぶのなら、この世界ほどいいところはない。ワシは日本人であることを捨てこの世界の住人になった。」
「もしかして、それを報酬として望んだの?」
「違うぞ。ワシは自分で覚えた魔法でこの世界に戻ってきた。肉体的には時間が流れていなくても、ここで過ごした記憶――魔法の知識は失われなかったからこそできたことだ。」
そう言うとクウガは、知衣の方へ身を乗り出した。
「だからこそワシは提案する。羽柴知衣、おまえ、ワシの弟子になってみないか?」
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる