THREE MAGIC

九備緒

文字の大きさ
27 / 49
FIRST MAGIC

第27話 ある意味凄い才能

しおりを挟む

「弟子となり魔法を習得すれば、元の世界でも便利な魔法が使えるぞ?」

 そんなクウガの言葉に、知衣は首を振る。

「別に魔法が使えなくて不自由してたわけじゃないし。」

 魔法なんか使えなくてもいいのだと、知衣は主張する。
 何の迷いもなく即座に返されたその答えに、クウガは意外そうに目を見張る。

「魔法が使えるようになりたいとは思わないのか?」
「魔法が使えたらなあと思った事がないとは言わないわ。だけどそう簡単に使えるようになるものだとは思わないし、弟子入りしてまで覚えようとは思わないだけ。もう職業にだってついているし、今更魔法の修行って・・・・・・正直面倒臭いもの。」

 そんな知衣の答えに、クウガは呆れたように溜息を吐く。

「欲がないのか、不精なのか……。確かに何の努力もなく魔法が使えるようになるとは言えんが。」

 クウガの言葉に、やっぱりねと知衣は思う。
 確かに魔法は便利そうだけど、だからこそ使いこなすのは難しいのではないかと思うのだ。
 セフィーは撫でるだけで知衣の視力を魔法で回復したし、エステルはペンを振るうだけで色々な魔法を見せた。
 クウガがクレアの時を止めたのも、ただ指を弾いただけのように見えた。
 けれど、それだけであるはずがない。
 念じて撫でたり、ペンを振ったり、指を弾いたり――それだけで魔法が動くものなら、知衣の世界にもありふれているはずだ。
 そうなるまでには、幾多の努力と才能が必要なのだろう。

「魔法の才能が私にあるとは思えないしね。使えるようになったとしてもささやかなものだと思うのよ。」

 言い訳のようにそう言う知衣に、クウガは肩を竦める。

「ワシも無理強いするつもりはない。だけどせっかくだ。本当に魔法の才能がないのか、せめて試してみようじゃないか。」
「え。面倒臭い。」

 思いっきり嫌そうな顔をした知衣を、クウガは「これ!」と嗜める。

「まったく。若者のくせに気概のない。安心せい。そう手間ではない。これを転がすだけでいいんだからな。」

 そう言ってクウガが差し出したもは、知衣にも見覚えのある、小さな四角い物体だった。
 それは双六などでお馴染みの、表面に一から六までの点が記された、小さな立方体。

「サイコロ?」

 訝しげに尋ねた知衣に、クウガは頷く。

「ああ。ただし、サイコロはサイコロでもただのサイコロじゃない。魔法の才能を測る魔法の『才転』サイコロだ。これで大きな目が出るほど高い才能を示す。」
「普通に振るだけでいいの?」
「おう。三個同時にな。」

 そう言って、クウガは手の中のサイコロを振った。
 カラカラと音をたてて転がったサイコロが、テーブルの上で静止する。

 三個のサイコロの目の合計は、15。

「最高が18で15なんだから、才能が高いってことよね?」

 知衣の言葉にクウガは頷く。

「まあ、ワシはこれでも宮廷魔法師だしな。高くて当然だ。羽柴はここまで高い値は出ないだろうが、10が出れば一流になれる才能だぞ。」
「別に目指さないから出なくてもいいよ。まあ、出ないと思うしね。」

 何事にも平凡な自分を、知衣は当然のように受け入れている。
 それに頭の固い自分に、魔法の才能があるなど到底思えないのだ。

「まあ、駄目元で振ってみろ。」

 クウガに促され、知衣は仕方なくサイコロを振るう。
 何の気概も緊張もなく振るわれたサイコロは、乾いた音を立てて転がった。

 三個のサイコロの目の合計は、8。

「やっぱり、一流になれるほどの才能はないみたいね。」

 そう言ってクウガを見遣った知衣は、首を傾げる。
 知衣の視線の先でクウガはサイコロを見下ろし、唖然とした様子で固まっていたのだ。

「ちょっと?」

 怪訝に思って声をかけると、クウガはのろのろと顔を上げる。
 その表情は、しょっぱいと思って食べた梅干がとんでもなく甘かったような――なんとも微妙な表情だ。

「何よ。ひょっとして、私に凄い才能を期待していたりしたわけ?」
「いや、羽柴が予想外に……ある意味凄い才能だったから驚いているんだ。」
「凄い才能?だって10で一流なんでしょ?10ないんだし、そんな驚くほどじゃ……」
「だから『ある意味』凄いと言ったろう。まったく。何だこの在りえない才能は。」

 そう言ってクウガは再びサイコロを見下ろす。
 その表情は、感嘆というよりも呆れを含んでいるような気がする。

「ひょっとして才能がなさすぎて驚いてるわけ?」
「それもある。説明してやるから、よく聞けよ?」

 別に聞かなくても良かったのだが、それを言える雰囲気でもなかったので知衣は頷く。

「この世界には色々な魔法があるが、大きく分ければ『幻魔法』『精霊魔法』『時魔法』の三つに大別される。人によってどの魔法に向いているかは違う。宮廷魔法師が3人なのも、それぞれの系統の魔法使いの頂点に立つ者に与えられる称号だからで、『幻師』『霊師』『時師』とそれぞれ呼ばれるんだ。」
「なるほど。じゃあ、『時師』の貴方は、『時魔法』とやらに精通した魔法使いということなのね。」
「そういうことだ。ちなみにこの才転も一個一個がそれぞれの魔法の才能を示している。」

 そう言われて知衣は、才転に目を落とした。

 三つの才転は、それぞれ違う色をしている。
 赤、白、黒の三色だ。

「赤は『幻魔法』の才能だが、羽柴の目は?」
「1。」
「その通りだ。1なんてワシでもはじめて見たぞ。こんなに才能がない奴がいるなんて驚きだ。」
「悪うございましたね。」
「で、白が『精霊魔法』の才能だ。羽柴の目が…これまた1。」

 なるほど。
 三個中二個までが最低値を叩き出しているともなれば、呆れた様子に納得がいく。

「こんなに魔法の才能に乏しい人間がいるだなんて、嘆かわしさのあまりワシの寿命が千年は縮まったぞ。まったくありえん才能だ。」
「千年ってあと何年生きる気よ。あれ?でも待って。じゃあ、残りの黒って……」
「黒は『時魔法』の才能だ。まったく。けったいな結果を出してくれたもんだ。」

 知衣の目は、6――最高値だ。

「私、『時魔法』の才能だけはあるってこと?」
「ああ。しかし、よりにもよって『時魔法』だとはな。まいった。ワシは平和主義者なんだが。」

 そう言いながらも、クウガはにやりと人の悪い笑みを浮かべた。

 次の瞬間。

「羽柴、ワシの弟子になれ。さもなくば……」
「ひっ!?」

 突然目の前に突きつけられた切っ先に、知衣は息を呑む。
 知衣の目の前には、抜き放たれた日本刀が突きつけられていたのだ。
 日本刀をどこから出してきたのかも、いつ抜き放ったのかも、振りかぶる動きすら知衣の目には映ることなく、一瞬のうちにそれはなされた。
 刀で生計を立てていた――その言葉は、真実なのだろう。

「ちょ、いきなり何するの!?」

 目の前の切っ先に怯みながらも問いかけた知衣に、クウガは目を細めて応える。

「何って、弟子への勧誘さ。断ったら斬っちゃうぞ~っていうな。」
「き、斬るって!?」
「安心しろ。仮初の体だから死ぬ事はないさ。痛いけどな。まあ、死ぬ予行演習だと思えばいいだろう?」
「そんな予行演習いらないわよ!!」

 大体、刀に斬られて死ぬだなんて、時代的にまずないだろう。まずありえない予行演習だ。

「それじゃあ、弟子になるしかないなあ。ならないとか言われたら、ワシは斬らずにはいられないからなあ。悲しい侍の性だ。」
「な、何が侍の性よ!たんなる脅迫じゃない!」

 そんな知衣の非難を聞き流し、笑顔でクウガは選択を迫る。

「それじゃあ、羽柴。どっちがいい?」
「ど、どっちがって。」
「ワシに微塵切りにされるかワシの弟子になるのか、二つに一つだ。ちなみに前者を選んだ場合、弟子になりたいと羽柴が言うまでワシはずっと微塵切りを続けるぞ?」

 そんなクウガの言葉に、知衣は表情を引きつらせる。
 どちらも嫌な選択な上、実質道は一つしかないということではないか。

「さて、どっちを選ぶ?」

 そういうクウガは笑っているが、瞳は全然笑っていない。
 冷たい光を宿す瞳にクウガの本気を悟って、知衣は思わず震えた。


「で、で、弟子に……なります。なればいいんでしょ!」


 こうして知衣は、不本意ながらも魔法使いに弟子入りする事となったのである。
 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...