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FIRST MAGIC
第28話 お師匠様はご老体
しおりを挟む「そうかそうか。じゃあこれからはワシのことは『師匠』と呼ぶように。」
「し、師匠?」
いくら四千歳を超すご長寿老人とはいえ、見た目5歳のお子様に?
表情を引きつらせる知衣などお構いなしに、クウガは上機嫌に頷く。
「おう。いい響きだ。」
いたくご満悦な様子のクウガに、知衣は溜息を吐く。
どうせ逆らっても、また微塵切りとでも脅しかけられる羽目になりそうだ。
「でも……無理強いはしないと言っておきながら、なんでこんな脅迫までして私を弟子に?」
時魔法の才能はあるのかもしれないが、他の才能は有り得ないほど低いらしいのに。
一流の才能値だって、知衣は満たしていないのだ。
無理強いはしないと半ば諦めのように言っていたクウガが、何故態度を翻したのか。
知衣は怪訝に思わずにはいられない。
「時魔法の才能の持ち主が希少だからな。幻魔法や霊魔法の才能値が6の人間は、探せばそれなりにいるが、時魔法はそうそういない。ひょっとするとこの才能は、この世界の人間よりも日本人が優れているのかもしれんな。ワシ以外で6を出したのは羽柴がはじめてだ。」
仮に幻魔法か霊魔法のどちらかの才能値が6で他が1ならば、一度断られたら弟子にしようとは思わなかったとクウガは言う。
「個人によって系統の向き不向きがあるとはいえ、一流と呼ばれるにはある程度苦手系統にも高い才能値が求められる。修行によって才能値も多少はあげることもできるしな。だが、どうも時魔法は特殊でな。努力がなかなか実らない上、才能がある者もほとんどいない。だから、たとえただ唯一の偏った才能でも、才能値6をたたき出したとなれば……『時師』として、放置もできん。」
「そんなに珍しいの?『時』と名につくくらいだから、時間なんかが関係する魔法なんでしょう?」
「ああ。簡単に言えば、時間や空間に作用するのが主な魔法だ。時を止めたり、空間を歪める移動魔法あたりが想像しやすいだろう。」
「城の移動魔法とか、今クレアがかかってる魔法ね。」
知衣の言葉にクウガは頷く。
「ついでに説明しておけば、『幻魔法』は幻覚や催眠術を主とする魔法。『霊魔法』は精霊や魂魄、自然界の力を借りる、五行の魔法が主となる。」
「つまり私は、そういう魔法は修行してもほとんど使えないってわけね。」
何せ、『幻魔法』『霊魔法』の才能値はどちらも1。最低値なのだから
当然と思って聞いた知衣だが、クウガはにやりと笑って首を振る。
「いや、遣り方次第だぞ?」
クウガの笑みに、何となく嫌な予感を覚えた知衣は、念のためにと釘を刺す。
「使えなくていいので、スパルタは御免です。師匠。」
渋々弟子入りは認めたものの、知衣はやる気に溢れる生徒とは到底言えなかった。
「そう言うと思ったわ。」
クウガとしてもその点はあまり期待していなかったようで、ちょっとばかりつまらなそうに肩を竦めただけだった。
「まあワシとて、無理に才能皆無の系統の魔法まで教え込もうとは思ってないさ。けどな。時魔法でも遣り方次第で、似たような魔法は使える。ようは発想の転換だ。」
そう言ってクウガは指を鳴らすと、小さな焔を出現させた。
「焔を生み出すような魔法は、大抵が『霊魔法』によるものだが、これは『時魔法』の焔だ。」
そう言われてはみても、知衣にはいまひとつピンとこない。
霊魔法だろうが、時魔法だろうが、知衣にすればどちらもかわりのない摩訶不思議な怪奇現象である。
見た目は普通の焔だけれど。
「どう違うの?」
問いかけた知衣に、クウガは言う。
「霊魔法の出現させる焔が生み出されるものならば、時魔法の焔はよそからの借り物だ。これは他の空間にあった焔を、空間を歪めてここに取り出した。」
「うーん。わかるようなわからないような。」
「まあ、今まで魔法に関わりがなかった訳だから想像しにくいかもしれんが、実際に使ってみればわかるさ。明日から実技の修行に入るぞ。」
「え?そんないきなり?」
魔法が大きく分けて三種類あることと、それぞれの魔法の特徴。
今ようやくそれだけわかった程度しか魔法知識がないというのに、それはあまりに無謀なような。
戸惑う知衣に、クウガは言う。
「羽柴はここに長く居座る気はないんだろう?知識から詰め込んでいたら何年かかるかわからん。体で覚えてもらうしかないさ。」
「それは限りなくスパルタ宣言に近いような?」
「何を言う。ワシほど優しい師匠はいないぞ。安心しろ。」
刀で微塵切りと脅してきた人物の「安心しろ」との言葉をどう信じろというのか――疑わしく感じてじっと見つめる知衣に、クウガは言った。
「では明日、日の出の時間にワシの研究室に集合するように。」
「日の出?」
「おう。修行とくれば、朝練だ!朝のすがすがしい空気の中やるのが一番効率がいい。」
「朝って言ったって、日の出は早すぎでしょ?」
「何を言う。ワシはいつも日の出一時間前には起きてるぞ?」
「……そういえば、年寄りは目覚めが早いのよね。」
いくら見た目は子供でも、クウガはご長寿老人なのだ。
「でも日の出なんて私起きられないよ。」
知衣は低血圧で朝に弱いのだ。
そうでなければそもそも朝、クレアにあんな起こされ方はしていない。
「文句言うな。師に合わせるのは弟子の義務。遅刻は厳禁!だが、まあワシは優しいから半殺しくらいで許してやるぞ。」
「全然優しくないよ、それ。」
「ふむ。仕方ない。羽柴は一応女子だしな。起きてこんようなら、ワシが起こしにいってやる。」
結局時間を変える気はないらしい。
知衣は、がっくり項垂れる。
起きれなければ起こしに来ると言うが、それが穏やかなものとは到底思えない。
今朝より過激な朝にならないように頑張って起きなければ!――悲壮な覚悟で知衣はそう思った。
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