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FIRST MAGIC
第31話 ドッペルン
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ゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚と、聴覚に訴えてくる騒々しい声に、知衣の意識は緩やかに浮上する。
「…い!羽柴!いい加減に起きんか!」
聞き馴染んだとは言い難いまでも聞き覚えのある声を認識した直後、鈍い音と共に、頭に鈍痛が走る。
うっ、痛。そう言えば、朝練で早起きだったっけ。
起きられないようであれば、起こしに来ると言っていたクウガだが、平然と刀で脅してくるような人物だ。
どんなバイオレンスな起こし方をされるかわかったものではない――そう思って、知衣としてもその前に起きるつもりだった。
もしもの場合の保険にと思い、起きてこないようであれば、寝過ごさないうちに起こして貰うようクレアにも頼んでいた筈なのだが。――セクハラを封じられたクレアの起こし方では、生温かったのかもしれない。
まだ霞みがかった頭でぼんやりとそんなことを考えつつ起きようと思うものの、瞼は鉛の様に重い。
昨日の会話からして、今はまだ日の出の時刻。
朝に弱い自分が起きられないというのも無理なからぬ話だとは思うけれど、ここで起きなければどんな起こされ方になるか――そう考えると、起きないわけにはいかない。
下手をすると刀をサクッとやられてしまう――そんな可能性も否定しきれないのだから。
目を開けようと目に力を込める知衣だが、強力な接着剤でも塗り込められているのではないかのごとく、ひくひく瞼が痙攣するものの開くまでには至らない。
「うむ。もう少しで起きそうだが、なかなかしぶといな。さてどうしたものか。刀でちょっとつついてみるか?」
予想を裏切らないそんな物騒な言葉に、知衣は焦る。
起きろ!私!
「うう……ん。」
微かな身動ぎには繋がったものの、起きるまでには至らない。
ク、クレア!とめて~!
思わず他力本願に走る知衣の願いを神が受け入れたのか、「クウガ様。お待ちください。」と、クレアの静止の声が聞えた。
しかし、――安堵するには早かった。
「クウガ様、これを。」
「ほう。面白いモノを持ってるじゃないか。」
「昨日のクウガ様の魔法のせいで、私の貴重なチイ様と過ごす時間が減ってしまいましたから、これで補おうと思ったのです。」
「おまえさん……主人への愛は大したものだが、主人思いとは言えないな。」
呆れたような声音のクウガに、心外といった様子でクレアは言い返す。
「何をおっしゃるかと思えばそのような。クウガ様に任せていては、チイ様が傷を負うことになりそうですから、安全第一でお止めしたのですよ?」
「まあ、これなら確かに痛くはないがな。だからといって喜ぶかは話が別だぞ。」
「確かにこの方法も、チイ様は嫌がるでしょうがそんなチイ様も素敵です。」
うっとりとした調子で応じるクレアに、知衣は嫌な予感を覚える。
どうやら刀でサックリは免れたようだが、次なる手段もあまり良いモノではなさそうだ。
お、起きろ!私!いい加減目ぇ開いて!!
そんな心の叱咤がようやく効を奏したのか、うっすらとだが視界が開けてくる。
だが――
「うぐ!?」
そんな知衣の目覚めに気付かなかったのか、突然口の中に何やら液体を流し込まれ、知衣は思わず飲み込んでしまう。
「な、なななな何?!」
得体の知れないモノを飲み込んでしまった恐怖に慌てて起き上がった知衣に、クレアは笑顔を浮かべる。
「おはようございます。チイ様。クウガ様がお迎えにいらしてますよ。」
「それは見ればわかるけど!それより一体何を飲ませたの!?」
「飲ませたのは、私ではなくクウガ様ですが。」
「おぉ!?自らは手を汚さないとは、なかなか出来た使い魔だな。」
「そんなのどっちでもいいけど、一体何を飲ませた……ひゃあ?!」
不意に沸き起こった浮遊感にも似たむず痒さに、知衣は思わず身を捩らせる。
「なっ、く、くすぐった……ひゃあ!??」
その感覚は、軽減するどころか、段々と増してくる。
そんな知衣を見て、クウガとクレアは頷きあった。
「効いてきましたね。チイ様が飲まれたのは、『ドッペルン』と呼ばれる魔法薬です。効能は……」
そんなクレアの説明に先立ち、知衣の背中から、乾いた音をたてて何かが飛び出した。
飛び出したモノは人の形をしていて、床に力なく横たわっている。
それを見た知衣は、驚愕に目を見開いた。
何故ならその人型は、知衣と全く同じ容姿をしていたのだ!
唖然とする知衣に、クレアは続けた。
「御覧の通り、飲むと自分の姿をした使い魔が手軽につくれます。」
そう言ってクレアは、横たわったまま動かない人型――使い魔の傍らで屈む。
「起きなさい。」
すると知衣の姿をした使い魔は、目を開けた。
「…い!羽柴!いい加減に起きんか!」
聞き馴染んだとは言い難いまでも聞き覚えのある声を認識した直後、鈍い音と共に、頭に鈍痛が走る。
うっ、痛。そう言えば、朝練で早起きだったっけ。
起きられないようであれば、起こしに来ると言っていたクウガだが、平然と刀で脅してくるような人物だ。
どんなバイオレンスな起こし方をされるかわかったものではない――そう思って、知衣としてもその前に起きるつもりだった。
もしもの場合の保険にと思い、起きてこないようであれば、寝過ごさないうちに起こして貰うようクレアにも頼んでいた筈なのだが。――セクハラを封じられたクレアの起こし方では、生温かったのかもしれない。
まだ霞みがかった頭でぼんやりとそんなことを考えつつ起きようと思うものの、瞼は鉛の様に重い。
昨日の会話からして、今はまだ日の出の時刻。
朝に弱い自分が起きられないというのも無理なからぬ話だとは思うけれど、ここで起きなければどんな起こされ方になるか――そう考えると、起きないわけにはいかない。
下手をすると刀をサクッとやられてしまう――そんな可能性も否定しきれないのだから。
目を開けようと目に力を込める知衣だが、強力な接着剤でも塗り込められているのではないかのごとく、ひくひく瞼が痙攣するものの開くまでには至らない。
「うむ。もう少しで起きそうだが、なかなかしぶといな。さてどうしたものか。刀でちょっとつついてみるか?」
予想を裏切らないそんな物騒な言葉に、知衣は焦る。
起きろ!私!
「うう……ん。」
微かな身動ぎには繋がったものの、起きるまでには至らない。
ク、クレア!とめて~!
思わず他力本願に走る知衣の願いを神が受け入れたのか、「クウガ様。お待ちください。」と、クレアの静止の声が聞えた。
しかし、――安堵するには早かった。
「クウガ様、これを。」
「ほう。面白いモノを持ってるじゃないか。」
「昨日のクウガ様の魔法のせいで、私の貴重なチイ様と過ごす時間が減ってしまいましたから、これで補おうと思ったのです。」
「おまえさん……主人への愛は大したものだが、主人思いとは言えないな。」
呆れたような声音のクウガに、心外といった様子でクレアは言い返す。
「何をおっしゃるかと思えばそのような。クウガ様に任せていては、チイ様が傷を負うことになりそうですから、安全第一でお止めしたのですよ?」
「まあ、これなら確かに痛くはないがな。だからといって喜ぶかは話が別だぞ。」
「確かにこの方法も、チイ様は嫌がるでしょうがそんなチイ様も素敵です。」
うっとりとした調子で応じるクレアに、知衣は嫌な予感を覚える。
どうやら刀でサックリは免れたようだが、次なる手段もあまり良いモノではなさそうだ。
お、起きろ!私!いい加減目ぇ開いて!!
そんな心の叱咤がようやく効を奏したのか、うっすらとだが視界が開けてくる。
だが――
「うぐ!?」
そんな知衣の目覚めに気付かなかったのか、突然口の中に何やら液体を流し込まれ、知衣は思わず飲み込んでしまう。
「な、なななな何?!」
得体の知れないモノを飲み込んでしまった恐怖に慌てて起き上がった知衣に、クレアは笑顔を浮かべる。
「おはようございます。チイ様。クウガ様がお迎えにいらしてますよ。」
「それは見ればわかるけど!それより一体何を飲ませたの!?」
「飲ませたのは、私ではなくクウガ様ですが。」
「おぉ!?自らは手を汚さないとは、なかなか出来た使い魔だな。」
「そんなのどっちでもいいけど、一体何を飲ませた……ひゃあ?!」
不意に沸き起こった浮遊感にも似たむず痒さに、知衣は思わず身を捩らせる。
「なっ、く、くすぐった……ひゃあ!??」
その感覚は、軽減するどころか、段々と増してくる。
そんな知衣を見て、クウガとクレアは頷きあった。
「効いてきましたね。チイ様が飲まれたのは、『ドッペルン』と呼ばれる魔法薬です。効能は……」
そんなクレアの説明に先立ち、知衣の背中から、乾いた音をたてて何かが飛び出した。
飛び出したモノは人の形をしていて、床に力なく横たわっている。
それを見た知衣は、驚愕に目を見開いた。
何故ならその人型は、知衣と全く同じ容姿をしていたのだ!
唖然とする知衣に、クレアは続けた。
「御覧の通り、飲むと自分の姿をした使い魔が手軽につくれます。」
そう言ってクレアは、横たわったまま動かない人型――使い魔の傍らで屈む。
「起きなさい。」
すると知衣の姿をした使い魔は、目を開けた。
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