THREE MAGIC

九備緒

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FIRST MAGIC

第35話 修業という名の…

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 引きつった笑みを浮かべている知衣に、クウガは言う。

「この世界では家の名を名乗るのは過去の風習で、家名のかわりに専属契約を交わした使い魔の名を名乗るのが普通だ。誰もが専属の使い魔を持っているわけではないから、二つの名を持つ魔法使いは、専属の使い魔と契約している証をその名で示している。」

 クロムラーは、クウガの名乗ったこの世界でのセカンドネームだ。
 単純に、黒村という苗字をこの世界風にしたのかと思っていたのだけれど、使い魔の名前だったとは。

「じゃあ、私も羽柴は名乗らないでおくべきなの?」

 セカンドネームが使い魔の名だというのなら、羽柴もそうなのではないだろうか。
 そんな知衣の懸念に、クウガは首を振る。

「いや。魔法案の提供者の仮初の体は、魔法使いが見れば一目でそれとわかるから間違われることはない。問題があるならわしとて『羽柴』とは呼ばないぞ。」
「へえ。そうなんだ。」
「ちなみに羽柴が面識のある人間で、ワシの他に専属の使い魔と契約しているのは今のところアレク王子くらいだな。『アレクセル・アレクセイ』――王子の名が『アレクセル』、使い魔の名が『アレクセイ』だ。」
「へえ。じゃあ、アレクとセフィーは兄弟だけど、『アレクセイ』がつくのはアレクだけってこと?」
「うむ。」
「クレアはアレクの使い魔だけど、『アレクセイ』じゃないから、専属の使い魔ではないのね。前にクレアが自分のことを特殊だって言ったけど、それは専属の使い魔じゃないからってこと?」
「いや、特殊と言うなら専属の使い魔だというほうが余程特殊だぞ。あの使い魔が特殊だとすれば別の意味でだな。アレは厳密には王子の使い魔ではない。『アレクセイ』の方の使い魔だ。」
「専属使い魔の使い魔ってこと?……何だか色々とややこしそうね。」
「王子の事情はかなり特殊だからな。そんなことよりまず修業だ。」
「……はあ。」

 別に細部まで知りたいわけではないけれど、修業が始まるのかと思うと気が重い。
 そんなやる気のない知衣にも、クウガはお構いなしだ。

「さて、ワシが考案した修業法だが。――クロムラー。」
「もぉう。クロちゃんって呼んでくださいっていってるのにぃ。」

 ぶつぶつと不平ん漏らすクロちゃんに、クウガは命令する。

「羽柴の霊体に憑け!」
「任せてぇ。」

 満面の笑みで、知衣へと突進してくるクロちゃん。
 強面の巨体に突進され、思わず逃げ腰になる知衣だが、避ける間もなくその瞬間はやってきた。

「ひぃ!?」

 クロちゃんの身体が、霊体となった知衣の身体にずぶずぶと溶け込んで一つと化していく。
 おぞましい感覚から逃れようにも、身体の自由が利かない。
 逃れたくても逃れられないその感覚から開放されたのは、クロちゃんの身体が完全に溶け込んでからだった。

 外見上は、元の知衣の姿でしかない。
 けれど。

「やーん。やっぱり女の子の身体はいいわぁ♪」

 思いもしない言葉が勝手に口から飛び出す。
 そして身体も勝手に、ふりふりと腰を揺らしながら乙女チックなポーズをとるのだ。

 な、何コレ!?

 戸惑う知衣に、クウガは言う。

「どうだ。羽柴。カラダの制御がまったくできんだろう?」

 事実だ。

 自分のカラダ(霊体)であるはずなのに、勝手に動くばかりで、自分の意思では僅かにも動かない。
 肯定を返したくても叶わず、勝手に乙女チック(?)に腰を振り続けるカラダに、知衣は愕然とする。
 そんな知衣の状態はお見通しと言わんばかりに、クウガは何度も頷く。

「ああ、返事はなくてもわかるからいいぞ。クロムラーの動きは、羽柴との違いがわかりやすいからな。」

 それはそうだろう。
 はっきりいって、こんな恥ずかしい身振りは、知衣なら絶対にしない。
 自分の思いを無視し――拳を頬にあて、「キャッ、キャッ♪」と上機嫌に腰を振っているカラダに、知衣は眩暈を覚える。

 何でこんな恥ずかしいことーーー!!

「さて、羽柴。クロムラーから、カラダの制御権を取り戻してみろ。それができれば、魔力の制御力も身についている。」

 そう言われても、どうすればいいのか知衣には検討もつかない。
 抵抗しようにも自分の意思では、カラダはピクリとも動いてくれないのだ。
 クウガは言う。

「意思の力だ。意思の力。言っただろう?魔法を使うのに必要なのは、思い込み――強い意思だ。」

 そうは言われても、知衣だとてこんな恥ずかしい行動は嫌で、思いっきり拒絶しているのだ。

 こ、これ以上どう思えって言うのよ!?

 相変わらずキャピキャピと動き回る知衣のカラダに、クウガは笑う。

「自分のカラダとはいえ、ただ思うだけでは足りんぞ。クロムラーの意思の力を凌駕せんことには――な。」

 努力はしている。努力なら。
 しかし――。

「ウフフン♪」

 知衣の思いとは裏腹に、嬉しそうに鼻歌まで歌いだしたカラダの暴走は止まらない。

「サボりたければ、サボれ?……できるものならな。」

 そう言ってクウガは不敵に笑い、嬉しそうに動き回る知衣のカラダに、ポンと手を乗せる。

「さて、クロムラー。羽柴のカラダの中限定で――禁止行為を一時的に解禁するぞい。」

 その言葉に、知衣は嫌な予感を覚えた。
 そして。

「ホントですかぁ?クウガ様!」
「ああ。」
「アレもソレもコレも全部?」
「うむ。全部いいぞ。思う存分やれ。」

 にっこり笑って応えたクウガに、カラダ――クロちゃんは目の前のクウガをぎゅっと抱きしめる。

「いやーん。ありがと、クウガ様!」
「うむ。たまには、ガス抜きせんとな。…そのカラダならまあ、わしにダメージはない。」
「わーい♪何しようかな。何しようかなぁ。フフフン♪」
 
 

 そうして始まったのは、修行という名の――。
 自分のカラダが繰り広げる恥ずかしすぎる行動に、知衣の精神は擦り切れる。


 何なの!何なの!?この羞恥プレイはーーーー!!!!??


 こうして、スパルタの方がよほどましな修業が幕を開けたのである。



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